4月, 2018 - 平和外交研究所 - Page 4
2018.04.02
「韓国は米国の核の傘の下にない」というのではないが、韓国は、必要な場合、米国はかならず核で守ってくれるか、不安を抱えている。
この問題は両国間の同盟条約の文言に基本的な原因がある。すなわち、米韓相互防衛条約第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっているが、脅威が発生した場合はまず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのである。
ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項はある(日米安保条約第4条)が、米韓条約とは違って「随時協議」することになっているだけであり、韓国の「脅威」とは意味合いがかなり異なる。
このほか、米韓条約の場合は、米韓両国は「武力攻撃を抑止するための力を維持・発展させる」ことが決められている(第2条後段)一方、日米安保条約の場合は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させる」と規定されているなど違いもあり、その解釈次第で米韓で想定されている抑止力は必ずしも弱くないと言えるだろう。
ともかく、韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするにともない、米国の義務を強固にしたいという気持ちが強くなり、米国に対し、2016年5月には核兵器の「共同管理」を要望し、8月には第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保障」を求めたが、米国はいずれの要望も断った。
「共同管理」は米国と欧州諸国との間で部分的に行われているが、それはNATOのもとであり、韓国に米国が認めることはあり得ない。
「核の傘を提供するという確実な補償」も、米国はその核政策に反するので、韓国の要望を断ったのは仕方がないことであった。
「朝鮮半島の非核化」の場合は、北朝鮮についても厄介な問題がありうる。かりに、北朝鮮が非核化に同意することになれば、韓国だけでなく、北朝鮮についても実は類似の問題が出てきうるからである。
北朝鮮はかつて中国およびソ連と軍事同盟条約を結んでいたが、ソ連崩壊後、ソ連(ロシア)との条約は失効した。しかし、中国との条約は今日も有効である。と言っても、冷戦終結後の国際情勢は大きく変化し、この条約はすでに形骸化しているとの見方もあるほどである。しかし、それは中国政府の公式の見方ではなく、同条約第2条の、「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」といういわゆる参戦条項は厳然と残っており、この条約に基づいて中国は北朝鮮に核の傘を提供する義務があると解釈可能だろう。
今のところ、北朝鮮が中国の核の傘の下にあるということは議論されないが、北朝鮮が非核化した場合にはこの問題が出てくる可能性があり、そうなると、韓国に対する米国の核の傘以上に扱いにくい問題となるだろう。
要するに、「朝鮮半島の非核化」の場合に、核の傘は韓国だけでなく北朝鮮についても問題となりうるのだ。
しかるに、このように複雑な核の傘問題をトランプ大統領と金委員長だけで解決できるとは到底思えない。両首脳の能力のためではなく、核の傘の問題は専門的な見地から慎重に扱わなければ混乱に陥るからである。そのように考えると、「朝鮮半島の非核化」はますます米朝首脳会談の目標とすべきでないのである。
「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か-核の傘
「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か。後者であれば米国が韓国に与えている「核の傘」も協議の対象になるとよく指摘される。これは常識的な見方だが、一歩踏み込んでみると核の傘については複雑な面がある。「韓国は米国の核の傘の下にない」というのではないが、韓国は、必要な場合、米国はかならず核で守ってくれるか、不安を抱えている。
この問題は両国間の同盟条約の文言に基本的な原因がある。すなわち、米韓相互防衛条約第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっているが、脅威が発生した場合はまず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのである。
ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項はある(日米安保条約第4条)が、米韓条約とは違って「随時協議」することになっているだけであり、韓国の「脅威」とは意味合いがかなり異なる。
このほか、米韓条約の場合は、米韓両国は「武力攻撃を抑止するための力を維持・発展させる」ことが決められている(第2条後段)一方、日米安保条約の場合は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させる」と規定されているなど違いもあり、その解釈次第で米韓で想定されている抑止力は必ずしも弱くないと言えるだろう。
ともかく、韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするにともない、米国の義務を強固にしたいという気持ちが強くなり、米国に対し、2016年5月には核兵器の「共同管理」を要望し、8月には第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保障」を求めたが、米国はいずれの要望も断った。
「共同管理」は米国と欧州諸国との間で部分的に行われているが、それはNATOのもとであり、韓国に米国が認めることはあり得ない。
「核の傘を提供するという確実な補償」も、米国はその核政策に反するので、韓国の要望を断ったのは仕方がないことであった。
「朝鮮半島の非核化」の場合は、北朝鮮についても厄介な問題がありうる。かりに、北朝鮮が非核化に同意することになれば、韓国だけでなく、北朝鮮についても実は類似の問題が出てきうるからである。
北朝鮮はかつて中国およびソ連と軍事同盟条約を結んでいたが、ソ連崩壊後、ソ連(ロシア)との条約は失効した。しかし、中国との条約は今日も有効である。と言っても、冷戦終結後の国際情勢は大きく変化し、この条約はすでに形骸化しているとの見方もあるほどである。しかし、それは中国政府の公式の見方ではなく、同条約第2条の、「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」といういわゆる参戦条項は厳然と残っており、この条約に基づいて中国は北朝鮮に核の傘を提供する義務があると解釈可能だろう。
今のところ、北朝鮮が中国の核の傘の下にあるということは議論されないが、北朝鮮が非核化した場合にはこの問題が出てくる可能性があり、そうなると、韓国に対する米国の核の傘以上に扱いにくい問題となるだろう。
要するに、「朝鮮半島の非核化」の場合に、核の傘は韓国だけでなく北朝鮮についても問題となりうるのだ。
しかるに、このように複雑な核の傘問題をトランプ大統領と金委員長だけで解決できるとは到底思えない。両首脳の能力のためではなく、核の傘の問題は専門的な見地から慎重に扱わなければ混乱に陥るからである。そのように考えると、「朝鮮半島の非核化」はますます米朝首脳会談の目標とすべきでないのである。
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