1月, 2017 - 平和外交研究所 - Page 4
2017.01.07
「米国では今月末にドナルド・トランプ氏が第45代の大統領に就任します。どの国にとっても今年最初の、かつ最大の外交課題は米国の新政権とどのような関係を構築するかでしょう。
トランプ氏は大統領選挙中から過激な言動を繰り返し、日本については安保条約の不平等性について不満を唱えました。日本の防衛は日本が自力で行うべきである、そのために日本が核武装しても構わないと示唆したこともありました。しかし、日本が本当に核武装すれば世界は大混乱に陥るでしょうし、日本にその意図はありません。
核武装問題についてはトランプ氏もその後発言に注意しているようですが、日本の安全保障の在り方についてはトランプ氏と日本との間に依然として大きな隔たりがあると思います。
日本は戦後、新憲法の下で国連の集団安全保障による安全確保を防衛の基本とし、それが現実に機能するようになるまでは米国との安保条約に依拠することにしました。この決定は日本をめぐる歴史的、地勢的、政治的諸条件をふまえ、米国との協力の下で行われたのであり、不平等性はそのような事情に由来しています。
トランプ氏は国連の現状についても激しく批判的な態度を取っていますが、国連が拒否権の問題などのため十分機能しないのも戦後の世界秩序に限界があったからです。世界の政治は過去と切り離せないこと、理想論だけでは済まないことをトランプ氏は理解すべきです。
第2に、トランプ氏は米国経済の現状を憂慮し、貿易・投資・労働面で保護主義的措置を取ることもいとわない姿勢を示しています。これは根が深く、厄介な問題ですが、貿易立国として日本はあくまで自由で開放的な市場経済を目指していかなければなりません。そのため日本自身も努力しつつ、米国にも保護主義に走らないよう要求していくことが必要であり、場合によっては激しい戦いになる可能性もあります。
韓国では、朴槿恵大統領の友人・側近の不正行為から始まって朴槿恵政権が危機的状況に陥っていますが、任期終了を待たずに退陣するか、米国の新政権発足後まもなく明確になるでしょう。
韓国は日本にとって最も重要な隣国ですが、歴史的な経緯から反日的傾向が表面化し日本として対応が困難になることがあります。朴槿恵大統領は就任直後とは異なり、約1年前から日本との協力を重視する姿勢に転じ、日韓両国は慰安婦問題を最終的に解決するための合意を達成することができました。また、北朝鮮の核・ミサイル問題への対処の点でも両国は協力し、緊密に連携しあっています。
日本は韓国内の政治問題にかかわることはできませんが、韓国の政情変化は日本に影響してきます。今回の危機的状況が大事に至らずに解決されることが望まれます。
中国では、今年の秋、共産党の全国代表大会が5年ぶりに開かれます。習近平政権は第2期目に入ることが決定されるでしょう。
習近平主席はこれまで政治・軍事両面で改革を進め、人事を刷新し、言論の統制と腐敗の摘発という2本の鞭を駆使して体制の強化を図ってきました。しかし、強権的な方法では国民の願望は必ずしも実現されません。人権抑圧の問題も起こっていると思います。
日本と中国の間には、特に政治・安全保障面で違いがありますが、日中両国が友好関係にあることは両国にとっても世界にとっても重要なことであり、また、それは日本国民の願望です。両国は違いを拡大させず、また、それを克服する努力が必要です。
そのための一つのカギは、政治的なひずみを排し、合理性な経済システムに基づく経済・貿易面での協力強化であり、それを通じて両国間の相互依存関係がさらに深化し、相互の信頼が高まることが期待されます。保護主義との戦いが必要なことは米中間にも当てはまります。
ロシアと日本の関係は良好な状態でありません。昨年末にプーチン大統領の訪日が実現しましたが、平和条約問題は進展しませんでした。今後日本としてはロシアと経済面での協力を進め、信頼関係の強化に努めると同時に、北方領土問題の解決を訴え続けていく必要があります。平和条約はこれまで60年間解決できなかった難問ですが、締結されれば日露関係は大きく進展するでしょう。この点で両国の考えは一致しています。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領を称賛しており、米露関係が改善に向かう可能性があります。そうなれば、日露間でも制裁が解除され、両国関係の改善に弾みがつくことが期待されます。米露関係は複雑でありあまり単純に考えるのは危険ですが、一つの可能性としては注目しておく必要があります。
問題は少なくありませんが、日本が各国と協力し、お互いの違いを克服してともに繁栄できる道筋を見出すことは可能だと思います。
2017年新年の外交展望
今年の外交についての展望をTHE PAGEに寄稿した。「米国では今月末にドナルド・トランプ氏が第45代の大統領に就任します。どの国にとっても今年最初の、かつ最大の外交課題は米国の新政権とどのような関係を構築するかでしょう。
トランプ氏は大統領選挙中から過激な言動を繰り返し、日本については安保条約の不平等性について不満を唱えました。日本の防衛は日本が自力で行うべきである、そのために日本が核武装しても構わないと示唆したこともありました。しかし、日本が本当に核武装すれば世界は大混乱に陥るでしょうし、日本にその意図はありません。
核武装問題についてはトランプ氏もその後発言に注意しているようですが、日本の安全保障の在り方についてはトランプ氏と日本との間に依然として大きな隔たりがあると思います。
日本は戦後、新憲法の下で国連の集団安全保障による安全確保を防衛の基本とし、それが現実に機能するようになるまでは米国との安保条約に依拠することにしました。この決定は日本をめぐる歴史的、地勢的、政治的諸条件をふまえ、米国との協力の下で行われたのであり、不平等性はそのような事情に由来しています。
トランプ氏は国連の現状についても激しく批判的な態度を取っていますが、国連が拒否権の問題などのため十分機能しないのも戦後の世界秩序に限界があったからです。世界の政治は過去と切り離せないこと、理想論だけでは済まないことをトランプ氏は理解すべきです。
第2に、トランプ氏は米国経済の現状を憂慮し、貿易・投資・労働面で保護主義的措置を取ることもいとわない姿勢を示しています。これは根が深く、厄介な問題ですが、貿易立国として日本はあくまで自由で開放的な市場経済を目指していかなければなりません。そのため日本自身も努力しつつ、米国にも保護主義に走らないよう要求していくことが必要であり、場合によっては激しい戦いになる可能性もあります。
韓国では、朴槿恵大統領の友人・側近の不正行為から始まって朴槿恵政権が危機的状況に陥っていますが、任期終了を待たずに退陣するか、米国の新政権発足後まもなく明確になるでしょう。
韓国は日本にとって最も重要な隣国ですが、歴史的な経緯から反日的傾向が表面化し日本として対応が困難になることがあります。朴槿恵大統領は就任直後とは異なり、約1年前から日本との協力を重視する姿勢に転じ、日韓両国は慰安婦問題を最終的に解決するための合意を達成することができました。また、北朝鮮の核・ミサイル問題への対処の点でも両国は協力し、緊密に連携しあっています。
日本は韓国内の政治問題にかかわることはできませんが、韓国の政情変化は日本に影響してきます。今回の危機的状況が大事に至らずに解決されることが望まれます。
中国では、今年の秋、共産党の全国代表大会が5年ぶりに開かれます。習近平政権は第2期目に入ることが決定されるでしょう。
習近平主席はこれまで政治・軍事両面で改革を進め、人事を刷新し、言論の統制と腐敗の摘発という2本の鞭を駆使して体制の強化を図ってきました。しかし、強権的な方法では国民の願望は必ずしも実現されません。人権抑圧の問題も起こっていると思います。
日本と中国の間には、特に政治・安全保障面で違いがありますが、日中両国が友好関係にあることは両国にとっても世界にとっても重要なことであり、また、それは日本国民の願望です。両国は違いを拡大させず、また、それを克服する努力が必要です。
そのための一つのカギは、政治的なひずみを排し、合理性な経済システムに基づく経済・貿易面での協力強化であり、それを通じて両国間の相互依存関係がさらに深化し、相互の信頼が高まることが期待されます。保護主義との戦いが必要なことは米中間にも当てはまります。
ロシアと日本の関係は良好な状態でありません。昨年末にプーチン大統領の訪日が実現しましたが、平和条約問題は進展しませんでした。今後日本としてはロシアと経済面での協力を進め、信頼関係の強化に努めると同時に、北方領土問題の解決を訴え続けていく必要があります。平和条約はこれまで60年間解決できなかった難問ですが、締結されれば日露関係は大きく進展するでしょう。この点で両国の考えは一致しています。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領を称賛しており、米露関係が改善に向かう可能性があります。そうなれば、日露間でも制裁が解除され、両国関係の改善に弾みがつくことが期待されます。米露関係は複雑でありあまり単純に考えるのは危険ですが、一つの可能性としては注目しておく必要があります。
問題は少なくありませんが、日本が各国と協力し、お互いの違いを克服してともに繁栄できる道筋を見出すことは可能だと思います。
2017.01.06
日本ではやはり昨年末、稲田防衛相が靖国神社に参拝した。
どちらも日韓関係を損なう行為だと思う。両国とも関係を悪化させるようなことは控え、改善に全力を挙げるべきだ。
(短評)日韓関係悪化の原因は日韓双方にある
韓国では昨年末、釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置され、一時は取り払われたが、結局設置が認められた。日本ではやはり昨年末、稲田防衛相が靖国神社に参拝した。
どちらも日韓関係を損なう行為だと思う。両国とも関係を悪化させるようなことは控え、改善に全力を挙げるべきだ。
2017.01.05
このガイドラインは「各級政府・公務員が信用を失ったことを記録するシステム」を整備せよと言っている。たとえば、法令違反を犯し、信用を失ったため判決、行政処罰、規律処分、問責処分などを受けたことなどを「政務失信記録」に記載すべきだというのだ。
また、「新官不理旧賬」という問題があると指摘している。「新任の官吏は前任のツケを払わない」という意味で、全国にはびこっている悪質な問題なので6文字で分かりやすく表現したのであろう。たとえば、地方で土地を再開発して商業施設を建設する事業で政府は農民とさまざまな契約、協議書を結ぶが、部局が変わったとか、担当者が変わったという理由で簡単に破棄したり、無視したりしているのだ。農民にとってはたまらない問題だ。
信頼の欠如はどこの国でも問題となりうるが、中国ではその程度がすさまじい。国家、政府、公務員に対する人民の信頼がないだけでなく、国家機関同士、人民の間でも信頼が欠如している。そのため法秩序にも信頼がなく、法の順守よりも蓄財を優先する。中国人自身昔からそのような悪弊を認識していた。孔子は、「民の信頼を失えば国は立ちいかない。信頼は軍備や食料よりも重要だ」と2500年も前に指摘していた。習近平主席が反腐敗運動に力を入れるのは、現在でも腐敗が蔓延し、中国がむしばまれているからだ。
2016年10月下旬に開催された六中全会、つまり第18期中国共産党第6回中央委員会全体会議で中央委員は197名中132名、中央委員候補は151名中120名が王岐山を次期党全国代表大会(19全大会)で例外的に政治局常務委員として留任させる嘆願書に署名したそうだ(12月28日付の『多維新聞』は香港の雑誌による報道としている)。王岐山は習近平の下にあって反腐敗運動を実際に指揮した人物であり、今後の反腐敗運動の継続のため欠くことができないというわけだ。
同人は1948年生まれで、党大会の時点では69歳になる。中国の70歳定年制では67歳までは再任が可能だが、68歳以上は再任不可となっており、この規則に従えば、王岐山は党大会で引退することになるのだが、例外的に再任を認める嘆願書である。この嘆願に参加した人の数が多いだけでなく、宋平(革命戦争に参加した。周恩来の秘書も務めた)、朱鎔基(元首相)、遅浩田(元総参謀長)、呉儀(元副首相)らの元老も含まれていた。このようなことは極めて異例であり、六中全会は「留王狂潮」、つまり「王岐山を留任させる狂騒」だったとも言われている。
一方、中国共産党は、2016年の初頭から検討してきた「国家監察委員会」を2018年3月に新設することにした。すべての公務員、つまり党員でない者も対象に腐敗行為を取り締まるのが目的だ。
これまで習近平・王岐山チームは「中央規律検査委員会」と「巡視組」によって反腐敗運動を展開してきた。その厳しさは天下にとどろいており、取り締まりの実績は上がっていたと見られていたが、さらにこのような新機構を設置するのは必要だからだろう。つまり、これまで大々的に取り締まりを展開してきたが、それでも不十分なのだ。あらためて中国における腐敗のひどさ、そして信頼のなさを思い知らされる。
習近平体制は今年の秋に開催される前述の党大会で第2期目に入り、さらに5年間中国を指導する。反腐敗運動は引き続き最重要問題として取り組むことがはっきりしてきた。腐敗を取り締まり、信頼を築くのに努めることは健全な政治だが、新反腐敗体制によってその効果が上がるか。中国共産党による上からの指導によって信頼を築くことができるか、根本的な疑問は消えない。
反腐敗運動と信頼の構築は第2期習近平政権でも重要課題
年の瀬も押し迫った12月30日、中国の国務院は「政務誠信建設の強化に関する指導意見」を公布した。「政治において誠意と信用を高めることについてのガイドライン」という意味だが、「政治に誠意も信用もない」ということが前提になっていると考えればよりわかりやすい。それは言い過ぎだ、中国に失礼だ、日本でも「政治に誠意も信用もあるか」と問えば、「ある」と胸を張って言える人はそう多くないという感じもするが、では、「中国の政治には誠意も信用もあるが、それをさらに高めよう」というのがこの国務院のガイドラインの趣旨だと言えるか。とても言えない。やはり中国の実情は、「政治に誠意も信用もない」に近いようだ。このガイドラインは「各級政府・公務員が信用を失ったことを記録するシステム」を整備せよと言っている。たとえば、法令違反を犯し、信用を失ったため判決、行政処罰、規律処分、問責処分などを受けたことなどを「政務失信記録」に記載すべきだというのだ。
また、「新官不理旧賬」という問題があると指摘している。「新任の官吏は前任のツケを払わない」という意味で、全国にはびこっている悪質な問題なので6文字で分かりやすく表現したのであろう。たとえば、地方で土地を再開発して商業施設を建設する事業で政府は農民とさまざまな契約、協議書を結ぶが、部局が変わったとか、担当者が変わったという理由で簡単に破棄したり、無視したりしているのだ。農民にとってはたまらない問題だ。
信頼の欠如はどこの国でも問題となりうるが、中国ではその程度がすさまじい。国家、政府、公務員に対する人民の信頼がないだけでなく、国家機関同士、人民の間でも信頼が欠如している。そのため法秩序にも信頼がなく、法の順守よりも蓄財を優先する。中国人自身昔からそのような悪弊を認識していた。孔子は、「民の信頼を失えば国は立ちいかない。信頼は軍備や食料よりも重要だ」と2500年も前に指摘していた。習近平主席が反腐敗運動に力を入れるのは、現在でも腐敗が蔓延し、中国がむしばまれているからだ。
2016年10月下旬に開催された六中全会、つまり第18期中国共産党第6回中央委員会全体会議で中央委員は197名中132名、中央委員候補は151名中120名が王岐山を次期党全国代表大会(19全大会)で例外的に政治局常務委員として留任させる嘆願書に署名したそうだ(12月28日付の『多維新聞』は香港の雑誌による報道としている)。王岐山は習近平の下にあって反腐敗運動を実際に指揮した人物であり、今後の反腐敗運動の継続のため欠くことができないというわけだ。
同人は1948年生まれで、党大会の時点では69歳になる。中国の70歳定年制では67歳までは再任が可能だが、68歳以上は再任不可となっており、この規則に従えば、王岐山は党大会で引退することになるのだが、例外的に再任を認める嘆願書である。この嘆願に参加した人の数が多いだけでなく、宋平(革命戦争に参加した。周恩来の秘書も務めた)、朱鎔基(元首相)、遅浩田(元総参謀長)、呉儀(元副首相)らの元老も含まれていた。このようなことは極めて異例であり、六中全会は「留王狂潮」、つまり「王岐山を留任させる狂騒」だったとも言われている。
一方、中国共産党は、2016年の初頭から検討してきた「国家監察委員会」を2018年3月に新設することにした。すべての公務員、つまり党員でない者も対象に腐敗行為を取り締まるのが目的だ。
これまで習近平・王岐山チームは「中央規律検査委員会」と「巡視組」によって反腐敗運動を展開してきた。その厳しさは天下にとどろいており、取り締まりの実績は上がっていたと見られていたが、さらにこのような新機構を設置するのは必要だからだろう。つまり、これまで大々的に取り締まりを展開してきたが、それでも不十分なのだ。あらためて中国における腐敗のひどさ、そして信頼のなさを思い知らされる。
習近平体制は今年の秋に開催される前述の党大会で第2期目に入り、さらに5年間中国を指導する。反腐敗運動は引き続き最重要問題として取り組むことがはっきりしてきた。腐敗を取り締まり、信頼を築くのに努めることは健全な政治だが、新反腐敗体制によってその効果が上がるか。中国共産党による上からの指導によって信頼を築くことができるか、根本的な疑問は消えない。
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