9月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 5
2016.09.05
安倍首相は「新しいアプローチ」を強調しているが、その内容は明確でない。政府内には「総合的に進めることだ」という説明があるそうだが、それは珍しいことでない。2009年、メドヴェージェフ大統領は麻生首相に対し、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」の下で領土問題解決のための作業を行うべきことを強調した。もっとも、今回は日本側から「新しいアプローチ」を強調したようだが。
日露双方とも経済協力を重視している。安倍首相は「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置した。前代未聞だ。平和条約交渉と経済協力を並行的に進めるのは良い考えだが、橋本首相や小渕首相もエリツィン大統領と同様の試みを行い、「共同経済活動委員会」の設置まで合意した。それとの比較で言えば、安倍首相とプーチン大統領との合意はほぼ同じ地点に戻ったに過ぎない。
ともかく、経済協力が結果を出すにはかなりの時間がかかり、その間に、日ロ間の交渉とは直接関係ない事件が起こり、交渉がとん挫するのが怖い。これは今まで繰り返し起こったことだ。
一つの問題は日本の首相がコロコロ代わることだ。ソ連邦の崩壊後ロシア連邦の大統領は3人しかいないが、同じ時期に日本では15人の首相が出た。平均在任期間は2年にもならない。安倍政権が安定していることはじっくりと交渉をしていくのに重要なことだ。
プーチン大統領はロシア国内で高い支持を得ており、政治力があるので領土問題の解決への期待が日本では高い。しかし、そのような考えには首をかしげるところがある。とくに、プーチン大統領は、これまで先人が努力してきたことを無視しているのではないかと思わせるところがある。具体的には、たとえば1993年、エリツィン大統領と細川首相との間で「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題」について交渉するとの合意、いわゆる東京宣言を無視するような発言をすることだ。交渉を有利に導くためのテクニックかもしれないが、同大統領には油断できないところがある。
米国との関係は、日ロ交渉を進めるうえで制約になると思っているならば大問題だと思う。ウクライナ問題で日本はお付き合いをさせられ、ロシアに制裁を科しているということは間違いだが、分からないでもない。
しかし、米国には尖閣諸島を防衛するのに協力してもらい、また、北方領土問題についても日本の4島返還要求を支持してもらっているからだ。少なくとも、ソ連時代、4島返還要求において米国が日本を支持していることは重要なことであった。個人的には、その米国の支持がなければ日本の主張は成り立たなかったのではないかと思っている。
(短評)日ロ首脳会談
9月2日、ウラジオストクで安倍首相とプーチン大統領が会談した。第1次安倍内閣から数えて14回目だった。11月、ペルーでAPEC首脳会議の際にも両首脳は会談する。さらに12月にはプーチン大統領が訪日し、15日に安倍首相の地元である山口県長門市で会談する。日ロ両国の首脳がこれほど密に会談するのは珍しい。領土問題を解決して平和条約を結ぶ機運が高まっているのは喜ばしいが、日ロ交渉は簡単でない。安倍首相は「新しいアプローチ」を強調しているが、その内容は明確でない。政府内には「総合的に進めることだ」という説明があるそうだが、それは珍しいことでない。2009年、メドヴェージェフ大統領は麻生首相に対し、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」の下で領土問題解決のための作業を行うべきことを強調した。もっとも、今回は日本側から「新しいアプローチ」を強調したようだが。
日露双方とも経済協力を重視している。安倍首相は「ロシア経済分野協力担当大臣」を設置した。前代未聞だ。平和条約交渉と経済協力を並行的に進めるのは良い考えだが、橋本首相や小渕首相もエリツィン大統領と同様の試みを行い、「共同経済活動委員会」の設置まで合意した。それとの比較で言えば、安倍首相とプーチン大統領との合意はほぼ同じ地点に戻ったに過ぎない。
ともかく、経済協力が結果を出すにはかなりの時間がかかり、その間に、日ロ間の交渉とは直接関係ない事件が起こり、交渉がとん挫するのが怖い。これは今まで繰り返し起こったことだ。
一つの問題は日本の首相がコロコロ代わることだ。ソ連邦の崩壊後ロシア連邦の大統領は3人しかいないが、同じ時期に日本では15人の首相が出た。平均在任期間は2年にもならない。安倍政権が安定していることはじっくりと交渉をしていくのに重要なことだ。
プーチン大統領はロシア国内で高い支持を得ており、政治力があるので領土問題の解決への期待が日本では高い。しかし、そのような考えには首をかしげるところがある。とくに、プーチン大統領は、これまで先人が努力してきたことを無視しているのではないかと思わせるところがある。具体的には、たとえば1993年、エリツィン大統領と細川首相との間で「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題」について交渉するとの合意、いわゆる東京宣言を無視するような発言をすることだ。交渉を有利に導くためのテクニックかもしれないが、同大統領には油断できないところがある。
米国との関係は、日ロ交渉を進めるうえで制約になると思っているならば大問題だと思う。ウクライナ問題で日本はお付き合いをさせられ、ロシアに制裁を科しているということは間違いだが、分からないでもない。
しかし、米国には尖閣諸島を防衛するのに協力してもらい、また、北方領土問題についても日本の4島返還要求を支持してもらっているからだ。少なくとも、ソ連時代、4島返還要求において米国が日本を支持していることは重要なことであった。個人的には、その米国の支持がなければ日本の主張は成り立たなかったのではないかと思っている。
2016.09.01
詳しくは、次に問い合わせください。
「大野木昇司 onogi@jcesc.com、onogish@yahoo.co.jp
日中環境協力支援センター有限会社 取締役
北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長」
(記事内容)
現在中国内での製造業環境管理関係者の注目点は、2015年1月1日の改定版
環境保護法とそれに伴う罰則強化、2016年1月1日の改定版とそれに伴うVOC
(揮発性有機化合物)廃ガス規制強化、土壌汚染防止行動計画(通称、土十
条)による土壌汚染防止法の制定(2018年頃の見込み)、CO2排出規制など
であろう。これらも当然重要であり、10月セミナーでも解説する予定である
が、しかしこれだけではウォッチは不充分である。中国環境規制は、日本で
は報じられていない大きな変革の流れがいくつもあり、今後その対応が必要
になってくる。
・規制緩和と規制強化
国務院は現在、経済刺激策の一環として、また経済構造転換のため、規制
緩和を進めている。具体的には審査を廃止して届出制にしたり、中央審査を
地方審査にしたり、管理制度そのものをなくしたりしている。標準分野では
「強制標準の整理・統合・簡素化」、「企業標準の自己宣言公開制度化」が
進んでいる。環境分野でもこの流れにあり、例えば企業上場前環境審査を廃
止し、中国版PRTRとも称される危険化学品環境管理登記弁法を廃止した。
その一方で、汚染排出規制については大幅に強化している。排出基準値は
今や日本より厳しく、排出量に対して課金する汚染排出費制度、個別工場向
け総量規制の導入といった制度面のみならず、今までは甘かった環境制度運
用の厳格化、立入検査等取締り強化、日数罰金等処罰強化なども進めている。
・環境アセス制度の改革
環境汚染を有効に改善できない要因の一つに環境アセス制度の不徹底が挙
げられていた。環境汚職の温床ともなっていたが、環境大臣交代により停滞
していた環境アセス制度改革が加速した。具体的には、環境アセス有資格事
業者の行政組織からの分離、計画環境アセス強化、小影響事業の審査制から
届出制への変更による大中影響事業へのリソース集中、環境アセス報告書の
情報公開等が挙げられる。
・環境諸制度を排出許可証主体の環境管理制度に統合
これまでバラバラにできていた環境アセス、排出申告、排出許可証、総量
規制、濃度規制、排出費、排出権取引などの環境諸制度を、「排出許可証」
を軸とした環境管理制度に統合する方向性を、環境保護省が打ち出した。こ
れまで以上に総量規制が強調されることになり、汚染型産業はゼロエミッシ
ョン対策をせざるを得なくなっている。総量規制を理由に工場の新設・拡張
が許可されない事例が増えているのもこの流れを受けたものである。
・全包囲網的な環境監視
最近の環境規制は行政による強制力の強化のみならず、経済界や住民の力
を活用した環境監視強化などの全包囲網的な環境監視に特徴がある。
行政系の強制力には立入検査等取締り、公安機関との連携、司法機関との
連携、オンラインモニタリング強化(ビッグデータ、IoT等の影響で大きく
強化される見込み)等がある。
経済界を活用した環境監視には環境責任保険(保険会社による環境リスク
の査定あり)、企業環境信用制度、グリーンサプライチェーン制度等がある。
住民の力を活用した環境監視には環境情報公開、住民通報、市民参加、公
益訴訟等がある。
・グリーン製造工場
国務院「中国製造2025」の一環として「グリーン製造工場」の方針が打ち
出された。これは、単なる排出規制ではなく、製造工程そのもののエコ化・
グリーン化を指す。具体的には原材料・エネルギー・水の使用効率向上、汚
染排出とCO2排出原単位の改善、環境・省エネ・リビルド産業の振興、有毒
有害物質の代替、エネルギーや産業廃棄物のリサイクル推進、エコデザイン
・拡大生産者責任制、LCA徹底化、クリーンエネルギーへの転換、工業団地
単位でのエコ化などである。
排出規制は環境保護省の専権事項であるが、製造工程での環境対策や省エ
ネはむしろ工業・情報化省や国家発展改革委員会の担当となっており、中国
の環境行政だけを見て環境管理していれば見落とすことになる。
・多種の環境ラベルを大統合へ
中国には現在、環境ラベル認証制度が乱立している。代表的なものだけで
エネルギー効率ラベル、環境ラベル、環境ラベル低炭素認証、省エネ(節
水)製品ラベル、低炭素製品認証、リサイクルラベル、中国RoHS、トップラ
ンナー制度、エネ効率スターラベル等がある。さらにカーボンフットプリン
ト、製品エコデザイン制度も検討されている。省庁ごとの利権もあって乱立
状態となったが、今では行政側も業務重複による浪費となり、メーカー側も
それぞれ認証を取得すればコストがかさみ、一般消費者も選ぶのに苦労する
ことになるなど弊害が目立つようになった。2014年にようやくこれらのラベ
ル・認証制度を大統合する方針が示された。現在、環境ラベル大統合に向け
た検討が進められている。
中国の環境規制緩和と規制強化
日中環境協力支援センター有限会社の『中国環境・化学品・エネルギーレポート』 2016年8月31日付号外に中国の環境政策について参考になる記事が掲載されているので同社の許可を得て下記のとおり転載します。詳しくは、次に問い合わせください。
「大野木昇司 onogi@jcesc.com、onogish@yahoo.co.jp
日中環境協力支援センター有限会社 取締役
北京大野木環境コンサルティング有限公司 社長」
(記事内容)
現在中国内での製造業環境管理関係者の注目点は、2015年1月1日の改定版
環境保護法とそれに伴う罰則強化、2016年1月1日の改定版とそれに伴うVOC
(揮発性有機化合物)廃ガス規制強化、土壌汚染防止行動計画(通称、土十
条)による土壌汚染防止法の制定(2018年頃の見込み)、CO2排出規制など
であろう。これらも当然重要であり、10月セミナーでも解説する予定である
が、しかしこれだけではウォッチは不充分である。中国環境規制は、日本で
は報じられていない大きな変革の流れがいくつもあり、今後その対応が必要
になってくる。
・規制緩和と規制強化
国務院は現在、経済刺激策の一環として、また経済構造転換のため、規制
緩和を進めている。具体的には審査を廃止して届出制にしたり、中央審査を
地方審査にしたり、管理制度そのものをなくしたりしている。標準分野では
「強制標準の整理・統合・簡素化」、「企業標準の自己宣言公開制度化」が
進んでいる。環境分野でもこの流れにあり、例えば企業上場前環境審査を廃
止し、中国版PRTRとも称される危険化学品環境管理登記弁法を廃止した。
その一方で、汚染排出規制については大幅に強化している。排出基準値は
今や日本より厳しく、排出量に対して課金する汚染排出費制度、個別工場向
け総量規制の導入といった制度面のみならず、今までは甘かった環境制度運
用の厳格化、立入検査等取締り強化、日数罰金等処罰強化なども進めている。
・環境アセス制度の改革
環境汚染を有効に改善できない要因の一つに環境アセス制度の不徹底が挙
げられていた。環境汚職の温床ともなっていたが、環境大臣交代により停滞
していた環境アセス制度改革が加速した。具体的には、環境アセス有資格事
業者の行政組織からの分離、計画環境アセス強化、小影響事業の審査制から
届出制への変更による大中影響事業へのリソース集中、環境アセス報告書の
情報公開等が挙げられる。
・環境諸制度を排出許可証主体の環境管理制度に統合
これまでバラバラにできていた環境アセス、排出申告、排出許可証、総量
規制、濃度規制、排出費、排出権取引などの環境諸制度を、「排出許可証」
を軸とした環境管理制度に統合する方向性を、環境保護省が打ち出した。こ
れまで以上に総量規制が強調されることになり、汚染型産業はゼロエミッシ
ョン対策をせざるを得なくなっている。総量規制を理由に工場の新設・拡張
が許可されない事例が増えているのもこの流れを受けたものである。
・全包囲網的な環境監視
最近の環境規制は行政による強制力の強化のみならず、経済界や住民の力
を活用した環境監視強化などの全包囲網的な環境監視に特徴がある。
行政系の強制力には立入検査等取締り、公安機関との連携、司法機関との
連携、オンラインモニタリング強化(ビッグデータ、IoT等の影響で大きく
強化される見込み)等がある。
経済界を活用した環境監視には環境責任保険(保険会社による環境リスク
の査定あり)、企業環境信用制度、グリーンサプライチェーン制度等がある。
住民の力を活用した環境監視には環境情報公開、住民通報、市民参加、公
益訴訟等がある。
・グリーン製造工場
国務院「中国製造2025」の一環として「グリーン製造工場」の方針が打ち
出された。これは、単なる排出規制ではなく、製造工程そのもののエコ化・
グリーン化を指す。具体的には原材料・エネルギー・水の使用効率向上、汚
染排出とCO2排出原単位の改善、環境・省エネ・リビルド産業の振興、有毒
有害物質の代替、エネルギーや産業廃棄物のリサイクル推進、エコデザイン
・拡大生産者責任制、LCA徹底化、クリーンエネルギーへの転換、工業団地
単位でのエコ化などである。
排出規制は環境保護省の専権事項であるが、製造工程での環境対策や省エ
ネはむしろ工業・情報化省や国家発展改革委員会の担当となっており、中国
の環境行政だけを見て環境管理していれば見落とすことになる。
・多種の環境ラベルを大統合へ
中国には現在、環境ラベル認証制度が乱立している。代表的なものだけで
エネルギー効率ラベル、環境ラベル、環境ラベル低炭素認証、省エネ(節
水)製品ラベル、低炭素製品認証、リサイクルラベル、中国RoHS、トップラ
ンナー制度、エネ効率スターラベル等がある。さらにカーボンフットプリン
ト、製品エコデザイン制度も検討されている。省庁ごとの利権もあって乱立
状態となったが、今では行政側も業務重複による浪費となり、メーカー側も
それぞれ認証を取得すればコストがかさみ、一般消費者も選ぶのに苦労する
ことになるなど弊害が目立つようになった。2014年にようやくこれらのラベ
ル・認証制度を大統合する方針が示された。現在、環境ラベル大統合に向け
た検討が進められている。
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