6月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 4
2016.06.13
中ロ両国が連携して行動を起こした可能性はあり、ロシアは中国から依頼されたのかもしれないが、ロシアの艦船がこの海域で行動するのは稀であり、今回このような航行をした意図については時間をかけて見定めていく必要がある。
中国の意図は比較的明確だ。中国は南シナ海問題で米国と対立を深めており、米国が日本や東南アジア諸国などと連帯を強化していることに加え、最近、G7首脳会議などで日本や米国が南シナ海問題を積極的に取り上げたこと、アジア安全保障会議で米国に厳しい姿勢を見せられたことなどから中国軍としては不満を募らせていたと思う。
その表れが、7日に東シナ海で起こった中国の戦闘機2機による米国のRC-135偵察機への異常接近や、尖閣諸島付近の日本の接続水域への中国海軍の艦船による侵入であった。
尖閣諸島に対して中国はこれまで日本の領海内にも侵入を繰り返してきたが、海軍の艦艇による行動は初めてだ。中国側の不満の強さを表しており、中国としては、軍事力の強さを強調することにより、日本や米国に対してさらなる協力・協同をけん制しようとしたのだろう。
しかるに、東シナ海と南シナ海は台湾の南と北に位置し、別々の海域なので南シナ海で起こったことを尖閣諸島などと結び付けるべきでないと思われるかもしれないが、実は、中国の認識においてはこれら二つの海域と台湾は密接に関連しあっており、その認識に立って「古来中国の領土だ」と主張している。
一方、中国以外の国は、日本を含め、中国の主張には根拠がないどころか、中国がなぜそのように無体な主張をするのか理解に苦しんでいる。
米国も南シナ海については独自の分析に基づき、やはり中国の主張には根拠がないという結論を導いたことがある。東シナ海と台湾についてはそのような調査分析を行っていないようだ。
このように主張が対立する場合にどのような方法で解決を図るかは重要な問題だが、それは別の機会に論じるとして、中国が乏しい根拠であるにもかかわらず、自国の権利を主張するのは「台湾統一」という国家的目標を実現しなければならないからだ。台湾統一は中国にとって、すなわち共産党政権にとって国民党との勝利を最終的に確定するものであり、それが実現しない限り共産党政権の、中国を統治する正統性は画竜点睛を欠くわけだ。
また、中国にとって日本軍国主義を打ち破り、それが保有していた島を取り戻すことも等しく重要だ。
南シナ海の島嶼と尖閣諸島は日本軍国主義から取り戻すものであり(日本が領有していた時南沙諸島は「新南諸島」と呼ばれていた)、台湾については、さらに国民党打倒という意味が重なるわけだ。
つまり、中国による台湾や尖閣諸島や南シナ海に対する権利主張は日本軍国主義から領土を取り戻し、かつ、国民党政権を打倒するという二重の意味があるのだ。中国がこれらの島に対して領有権を主張し、しかも、「核心的利益」、つまり中国の主権が及ぶ島、あるいは海域であり、絶対に譲れないと主張している背景である。中国にとって、歴史的にどのような状況にあったか、中国大陸を統治した政権によって統治されたことがあったか否かという歴史的客観性の問題は二の次なのだろう。
台湾は1683年以降清朝によって統治されていたにすぎず、それ以前は鄭成功が統治していた。これは22年という短期間であり、それ以前はオランダの支配下にあった。
さらに清朝が統治していたのは台湾の西半分であり、東半分は最北端の一地方を除いて統治しておらず、清朝政府はこの統治外の地域の住民を「番」と呼び、漢人がその地域へ入ることを厳禁するなど、統治下の地域と外の地域を厳格に区別していた。
しかし、中国はこのような歴史的事実を無視することにした。このような中国の考えを法的に定めたのが1992年制定の中国領海法だ。それ以来、中国は尖閣諸島も、南シナ海も、台湾も一つの舞台で見ており、南シナ海での不満は尖閣諸島にも、台湾にも向かう可能性がある。
中国は8日、フィリピンによる南シナ海問題に関する常設仲裁裁判所への提訴を取り下げるよう要求するとの声明を行なった。常設裁判の結論は近日中にも発表されると見られているので、中国としては中国への理解を示しているドゥテルテ次期大統領に急ぎメッセージを送ったわけだが、中国が米国による国際的連帯強化の動きに神経をとがらせていることの証左でもある。
尖閣諸島が日中関係の中でどのような意味合いがあるかはもちろん重要なことだが、フィリピンによる仲裁裁判の結果公表が尖閣諸島にもたらす意味合いも注目される。
尖閣諸島接続水域への中国・ロシア船の侵入と中国の無体な主張
ロシアの艦船(駆逐艦および補給艦など3隻)が尖閣諸島の久場島と大正島の間の接続水域に入り北に航行したのが8日の夜10時前、中国海軍のフリゲート艦が久場島の北東の接続水域に侵入したのが翌9日の未明で、接続水域を離れたのが午前3時10分頃だった。中ロ両国が連携して行動を起こした可能性はあり、ロシアは中国から依頼されたのかもしれないが、ロシアの艦船がこの海域で行動するのは稀であり、今回このような航行をした意図については時間をかけて見定めていく必要がある。
中国の意図は比較的明確だ。中国は南シナ海問題で米国と対立を深めており、米国が日本や東南アジア諸国などと連帯を強化していることに加え、最近、G7首脳会議などで日本や米国が南シナ海問題を積極的に取り上げたこと、アジア安全保障会議で米国に厳しい姿勢を見せられたことなどから中国軍としては不満を募らせていたと思う。
その表れが、7日に東シナ海で起こった中国の戦闘機2機による米国のRC-135偵察機への異常接近や、尖閣諸島付近の日本の接続水域への中国海軍の艦船による侵入であった。
尖閣諸島に対して中国はこれまで日本の領海内にも侵入を繰り返してきたが、海軍の艦艇による行動は初めてだ。中国側の不満の強さを表しており、中国としては、軍事力の強さを強調することにより、日本や米国に対してさらなる協力・協同をけん制しようとしたのだろう。
しかるに、東シナ海と南シナ海は台湾の南と北に位置し、別々の海域なので南シナ海で起こったことを尖閣諸島などと結び付けるべきでないと思われるかもしれないが、実は、中国の認識においてはこれら二つの海域と台湾は密接に関連しあっており、その認識に立って「古来中国の領土だ」と主張している。
一方、中国以外の国は、日本を含め、中国の主張には根拠がないどころか、中国がなぜそのように無体な主張をするのか理解に苦しんでいる。
米国も南シナ海については独自の分析に基づき、やはり中国の主張には根拠がないという結論を導いたことがある。東シナ海と台湾についてはそのような調査分析を行っていないようだ。
このように主張が対立する場合にどのような方法で解決を図るかは重要な問題だが、それは別の機会に論じるとして、中国が乏しい根拠であるにもかかわらず、自国の権利を主張するのは「台湾統一」という国家的目標を実現しなければならないからだ。台湾統一は中国にとって、すなわち共産党政権にとって国民党との勝利を最終的に確定するものであり、それが実現しない限り共産党政権の、中国を統治する正統性は画竜点睛を欠くわけだ。
また、中国にとって日本軍国主義を打ち破り、それが保有していた島を取り戻すことも等しく重要だ。
南シナ海の島嶼と尖閣諸島は日本軍国主義から取り戻すものであり(日本が領有していた時南沙諸島は「新南諸島」と呼ばれていた)、台湾については、さらに国民党打倒という意味が重なるわけだ。
つまり、中国による台湾や尖閣諸島や南シナ海に対する権利主張は日本軍国主義から領土を取り戻し、かつ、国民党政権を打倒するという二重の意味があるのだ。中国がこれらの島に対して領有権を主張し、しかも、「核心的利益」、つまり中国の主権が及ぶ島、あるいは海域であり、絶対に譲れないと主張している背景である。中国にとって、歴史的にどのような状況にあったか、中国大陸を統治した政権によって統治されたことがあったか否かという歴史的客観性の問題は二の次なのだろう。
台湾は1683年以降清朝によって統治されていたにすぎず、それ以前は鄭成功が統治していた。これは22年という短期間であり、それ以前はオランダの支配下にあった。
さらに清朝が統治していたのは台湾の西半分であり、東半分は最北端の一地方を除いて統治しておらず、清朝政府はこの統治外の地域の住民を「番」と呼び、漢人がその地域へ入ることを厳禁するなど、統治下の地域と外の地域を厳格に区別していた。
しかし、中国はこのような歴史的事実を無視することにした。このような中国の考えを法的に定めたのが1992年制定の中国領海法だ。それ以来、中国は尖閣諸島も、南シナ海も、台湾も一つの舞台で見ており、南シナ海での不満は尖閣諸島にも、台湾にも向かう可能性がある。
中国は8日、フィリピンによる南シナ海問題に関する常設仲裁裁判所への提訴を取り下げるよう要求するとの声明を行なった。常設裁判の結論は近日中にも発表されると見られているので、中国としては中国への理解を示しているドゥテルテ次期大統領に急ぎメッセージを送ったわけだが、中国が米国による国際的連帯強化の動きに神経をとがらせていることの証左でもある。
尖閣諸島が日中関係の中でどのような意味合いがあるかはもちろん重要なことだが、フィリピンによる仲裁裁判の結果公表が尖閣諸島にもたらす意味合いも注目される。
2016.06.08
24日、「蔡英文の正体(起底蔡英文)」と題する論文が新華社傘下の『国際先駆導報』に掲載され、新浪、網易、捜狐などの大手サイトもそれを転載した。新華網も一時転載した(順序は新華網が先だった可能性がある)。
執筆者は台湾との関係の窓口である海峡両岸関係協会の理事、王衛星であり、その内容は、蔡英文が独身であることを理由にしてその行動と政策を論じるという非常識なものだった。それだけでもこの論文の程度の低さが分かるだろうが、王衛星は蔡英文を「女政客」と呼び、独身だから「愛情など情感で引き留められることがない」「家族の制約もない」「子供のケアをする必要もない」「その行動は偏っており、身勝手であり、また極端になる」などと暴言を書き連ねた。
これにはBBCやVOAなど欧米のメディアは敏感に反応し、また、中国のインターネットも王衛生論文は女性蔑視であると厳しく批判して、「これまで読んだ中で最も愚かで人を傷つける文章だ」「むかつく」などと書き込み、王論文は炎上した。
さすがに中国の当局もこの論文を問題視して削除し、翌日にはどのサイトでも見られなくなった。削除を指示したのは習近平主席であったとも言われている。
さる1月、台湾の総統・立法院の選挙で民進党が大勝して以来、中国の台湾政策はどうなるか注目されていた。従来、中国は国民党との関係を重視し、民進党は強く警戒していたが、その方針は裏目に出たからである。
しかし、中国は台湾政策を修正しようとしていないようだ。それどころか、蔡英文新政権に対しハラスメントを強化するようになっている。王衛生のこの論文など最たるものである。
客観的に見れば、中国にとって政策変更が必要な状況が生じているが、そのような場合にどのように対応するか。現政権の柔軟度/非柔軟度が問われていると思う。
(短文)中国の蔡英文新政権に対するハラスメント
5月31日のHPに「台湾の歴史と新政権-教科書問題」を掲載したが、中国の蔡英文新政権に対するハラスメントとしては以下の出来事も省けない。米国に本拠がある『多維新聞』5月25日付などが報道していることだ。24日、「蔡英文の正体(起底蔡英文)」と題する論文が新華社傘下の『国際先駆導報』に掲載され、新浪、網易、捜狐などの大手サイトもそれを転載した。新華網も一時転載した(順序は新華網が先だった可能性がある)。
執筆者は台湾との関係の窓口である海峡両岸関係協会の理事、王衛星であり、その内容は、蔡英文が独身であることを理由にしてその行動と政策を論じるという非常識なものだった。それだけでもこの論文の程度の低さが分かるだろうが、王衛星は蔡英文を「女政客」と呼び、独身だから「愛情など情感で引き留められることがない」「家族の制約もない」「子供のケアをする必要もない」「その行動は偏っており、身勝手であり、また極端になる」などと暴言を書き連ねた。
これにはBBCやVOAなど欧米のメディアは敏感に反応し、また、中国のインターネットも王衛生論文は女性蔑視であると厳しく批判して、「これまで読んだ中で最も愚かで人を傷つける文章だ」「むかつく」などと書き込み、王論文は炎上した。
さすがに中国の当局もこの論文を問題視して削除し、翌日にはどのサイトでも見られなくなった。削除を指示したのは習近平主席であったとも言われている。
さる1月、台湾の総統・立法院の選挙で民進党が大勝して以来、中国の台湾政策はどうなるか注目されていた。従来、中国は国民党との関係を重視し、民進党は強く警戒していたが、その方針は裏目に出たからである。
しかし、中国は台湾政策を修正しようとしていないようだ。それどころか、蔡英文新政権に対しハラスメントを強化するようになっている。王衛生のこの論文など最たるものである。
客観的に見れば、中国にとって政策変更が必要な状況が生じているが、そのような場合にどのように対応するか。現政権の柔軟度/非柔軟度が問われていると思う。
2016.06.07
以来、議会で憲法改正の試みが行われたが、4分の1の議席を持っている軍人が反対したため試みは失敗した。
新しい試みとして、ビルマ族、各少数民族、武装グループがすべて参加する新パンロン(Panglong)会議を開催して憲法改正の突破口を開こうとする構想がNLDを中心に進められている。
パンロン会議とは、1947年2月、ビルマ独立の指導者アウン・サン(ビルマ族の代表)と少数民族がシャン州のパンロンで行った会議で、合意に参加したのはシャン、カチン、チンの3民族だけであった。
問題は少数民族の自治権をどの程度認めるかであり、パンロン会議では自治権を与えることが合意された。また、後に制定された1947年憲法で、シャン、カヤーについては独立後10年目以降の連邦からの離脱権を認める条項が加えられた。
しかし、その後、パンロン協定で保障された諸民族の自治権も失われ、シャン、カレンニーに認められた連邦離脱権も剥奪された。
この間(47年7月)アウン・サンは暗殺されるなど情勢は不安定であり、1948年1月4日のビルマ独立は諸民族間の完全な合意がないまま強行された感がある。
もちろん、すべての少数民族の合意を待っていては英国からの独立自体が危うくなる恐れがあっただろうし、その時点でのビルマ連邦独立が時期尚早であったとは断定できないが、その時未解決であった問題が今日まで尾を引いていることは否定できないようだ。
昨年10月に休戦協定が合意され、その後、Union Peace Dialogue Joint Committeeが設置された。民族間の対話を進めることが目的だが、7月に新パンロン会議を開催する準備の意味もある。
また、休戦協定には一部少数民族は参加しなかったので、この委員会の下部委員会では非参加のグループとの対話を行うことになっており、6月中に初会合が予定されている。
しかし、新パンロン会議が成功する保証はない。シャン族のリーダーは、休戦協定に不参加のグループを含めすべての民族が出席するようにならなければ会議の成功はおぼつかない、NLDは民族政党の合意なしに進めようとしていると批判的だ。
すべての少数民族の合意を取り付けるのは簡単でない。ビルマの独立以来続いている難問だ。
スー・チー顧問は議会に1人でも出している民族政党はすべて新パンロン会議に招待すると言っているが、議員が1人もいない少数民族はどうなるのかという疑問もある。
一方、休戦合意に参加したグループの中には、国家顧問、軍の司令官と大統領との会談を求める声もある。
いずれにしても、新パンロン会議の成功のためには、まだ合意に加わっていないグループ、とくに休戦協定に未参加のグループとの対話の成り行きが注目される。
(短文)ミャンマーの新国民会議
ミャンマーでは今年の3月30日にティン・チョウ新大統領が就任し、国民民主連盟(NLD)の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏は憲法規定により大統領になれないので国家最高顧問となり、外務大臣などを兼任している。以来、議会で憲法改正の試みが行われたが、4分の1の議席を持っている軍人が反対したため試みは失敗した。
新しい試みとして、ビルマ族、各少数民族、武装グループがすべて参加する新パンロン(Panglong)会議を開催して憲法改正の突破口を開こうとする構想がNLDを中心に進められている。
パンロン会議とは、1947年2月、ビルマ独立の指導者アウン・サン(ビルマ族の代表)と少数民族がシャン州のパンロンで行った会議で、合意に参加したのはシャン、カチン、チンの3民族だけであった。
問題は少数民族の自治権をどの程度認めるかであり、パンロン会議では自治権を与えることが合意された。また、後に制定された1947年憲法で、シャン、カヤーについては独立後10年目以降の連邦からの離脱権を認める条項が加えられた。
しかし、その後、パンロン協定で保障された諸民族の自治権も失われ、シャン、カレンニーに認められた連邦離脱権も剥奪された。
この間(47年7月)アウン・サンは暗殺されるなど情勢は不安定であり、1948年1月4日のビルマ独立は諸民族間の完全な合意がないまま強行された感がある。
もちろん、すべての少数民族の合意を待っていては英国からの独立自体が危うくなる恐れがあっただろうし、その時点でのビルマ連邦独立が時期尚早であったとは断定できないが、その時未解決であった問題が今日まで尾を引いていることは否定できないようだ。
昨年10月に休戦協定が合意され、その後、Union Peace Dialogue Joint Committeeが設置された。民族間の対話を進めることが目的だが、7月に新パンロン会議を開催する準備の意味もある。
また、休戦協定には一部少数民族は参加しなかったので、この委員会の下部委員会では非参加のグループとの対話を行うことになっており、6月中に初会合が予定されている。
しかし、新パンロン会議が成功する保証はない。シャン族のリーダーは、休戦協定に不参加のグループを含めすべての民族が出席するようにならなければ会議の成功はおぼつかない、NLDは民族政党の合意なしに進めようとしていると批判的だ。
すべての少数民族の合意を取り付けるのは簡単でない。ビルマの独立以来続いている難問だ。
スー・チー顧問は議会に1人でも出している民族政党はすべて新パンロン会議に招待すると言っているが、議員が1人もいない少数民族はどうなるのかという疑問もある。
一方、休戦合意に参加したグループの中には、国家顧問、軍の司令官と大統領との会談を求める声もある。
いずれにしても、新パンロン会議の成功のためには、まだ合意に加わっていないグループ、とくに休戦協定に未参加のグループとの対話の成り行きが注目される。
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