平和外交研究所

9月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 3

2015.09.21

「指導意見」が示す国有企業改革

 9月13日、中国国務院は国有企業の改革に関する「指導意見(指導方針と見てよい)」を発表した。国有企業は中国のいわゆる国家資本主義の象徴であり、経済に限らず政治とも、さらには共産党による一党独裁体制にもかかわるデリケートな問題だ。経済状況が下降傾向にあるなかでの発表だったのでとくに注目された。
 
 改革の主要な狙いはどこにあるか。総論的には、国有企業の体質を強化し、活力ある企業にすることが目的である。
 そのための方策については、民間投資を呼び込んで混合所有制を発展させることを強調する報道もあるが、これは今次改革の特色のひとつかもしれないが、最重要事項ではなさそうだ。
 この種の文献にめずらしいことでないが、「指導意見」には相矛盾することが書かれている。「社会主義市場経済」と「現代企業制度、市場化経営メカニズム」をともに強調しているのが一つの例だが、「市場化を一層進め市場の力で企業の淘汰を進める」と言いつつ、「意識形態の力で一定の国有企業の独占状態をさらに強化する」という不可解なことも述べている。
また、「徳才兼備(モラルも才能も優れている)、経営に優れ、活力に満ちた企業家」「創造力と国際競争力のある企業家」など容易に達成できないことも言っている。
 『大公報』紙9月15日付は、国務院の国有資産監督管理委員会(国資委)、国家発展改革委員会(発改委)、財政部、工業IT部(工信部)、人力資源社会保障部(人社部)など5単位の責任者による「改革意見」の解説を掲載している。
 この解説も、「企業が決めるべきことは企業に任せる」「赤字体質の企業は淘汰する」など市場経済化の推進を述べる一方で、「国有資本は真に必要なところに使う」「改革から得られた利益を個人の利益にさせてはならない」「国有企業の経営者の高額給与は実績に応じて調整しなければならない」「経営性の国有資産集中統一監督管理を進める」など国家の関与の強化を思わせることなども言っており、やはり今次改革が市場経済の強化を向いているのかどうか明確でない。

 中国が初めて国有企業の民営化に乗り出した時には政府の向いている方向は明確だった。
 2001年に中国は世界貿易機関(WTO)に加盟を果たしたが、交渉の過程で中国がほんとうに市場経済に移行できるか各国から厳しく問われ、これに対し中国の代表は中国経済が市場化の方向にあり、WTOに加盟する資格があることを懸命に力説した。
 実際、辣腕の朱鎔基首相は国営企業の民営化を大胆に進め、数万の国有企業を私営化または倒産に追い込んだ。2500万人が失業するという大事業であった。
 この時に比べ、今回の改革が目指す方向は不明確である。米国に拠点がある『多維新聞』9月14日は、国有企業改革を市場化の推進により実現しようとしているのか、それとも「意識形態」、つまりイデオロギーの強化と国有企業の独占的地位の強化により実現しようとしているのか、分からないと述べている。
 一方、新華網9月13日付などは、「国有経済を大きく、強くすること(做大做强国有经济)」が今回の改革の目的だと明言しており、国家の関与を強めることが重点だと言っているように思われる。

 今後、中国はさらに市場経済化を進めるのか、それとも国家による監督・管理を強化するのか、同国のWTOでの地位にもかかわる大問題であるが、それらとは別に、「指導意見」が国有資産の流失を防止することを強調していることも注目される。前述の政府関係者の一人は、「国有企業はまず監督を強化し、国有資産の流失を防止しなければならない。これができないと国有企業の改革もその他の改革も効果が上がらない。これは国有企業改革を進める重点である」とまで論じている。
 今回の「指導方針」の発表と相前後して、国有企業において大規模な経営陣の刷新と人事異動が行なわれた。
 中国石油、東方電気、国家電網、中国電信、中国移動の5社は、9月14日、それぞれ大規模な内部整理の結果を発表した。代表的なことを拾い上げると、党紀律および法令違反での処分(国家電網で146件)、幹部の党籍剥奪(東方電気で4人)、給与返還(東方電気で)、抜擢人員の現職場への配置換え(中国電信で44人)、会社資金の乱用(中国電信で4人を降格)、親族関連の事業との取引(中国電信で9万人が報告)、友人・親族への利益供与(中国石油で5名の幹部を処分)、違法収入の受領(中国移動で11人を処罰)、「小金庫(国有企業の資金を私するために幹部が自分用の金庫を作ること)」(5つの企業全体で174人の責任者を処分)、レント・シーキング(たとえば、独占的利益を維持するためにロビー活動を行なうこと。海外の展開している企業の責任者多数を取り調べ)などである。大胆かつ広範囲にわたる処分だが、それが必要なくらい問題の根が深く、また広いのだろう。

 以上、今後の国有企業改革において市場経済化、国家による関与、それに腐敗対策の3つが重視されていることは分かるが、いずれが最重要かについて考えは一致していないようだ。
 表向きは、この3つの問題をすべて推進しなければならない、それは中国の特色ある市場経済だと中国政府は明快に言うのだろうが、具体的な方策となると、対照的に、コンセンサスはないように思われる。
2015.09.15

(短評)安保関連法案

 参議院での議決が間近に迫っていると報道される中で、9月10日にアップした「安保法制案を強行採決すべきでない」を再度掲載したい。
 
 メディアを見ると、とくにテレビは鬼怒川などの洪水・氾濫に報道が集中しており、安保関連法案への反対の声が隠れてしまっている。どちらも重要なことであり、重点的に報道されてしかるべきだ。
 昨日(14日)、安保関連法案についてアル・ジャジーラ・テレビのインタビューを受けた。その後で、夕方の反対デモの取材に行くと言っていた。
2015.09.13

(短文)中国艦船の米領海通過

 中国海軍の艦船5隻が最近ベーリング海で米国の領海内を通過したと米紙が報道している。
 最近、南シナ海での中国の拡張的軍事行動について米中間でかなり激しい摩擦があった。また、9月3日に中国は強大な軍事力を誇示するパレードを北京で行なった。中国の艦船は8月末に日本海でロシア海軍と共同演習を行なった後の航行だった、などの事情からとくに注目されたようだ。
 中国艦船の航行は国際法に従って行われ、問題になる行動はなかったと米国防総省も認めているが、中国はかねてから米艦船の中国領海内での無害通航(国際法にのっとった通航)に抗議していたので、今回の行動は一貫しないという気持ちがあるのだろう。
 習近平主席が今月末に訪米する。なぜこのタイミングで中国海軍がこのような行動に出たのか、米側でも測りかねているように見受けられる。

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