平和外交研究所

9月, 2014 - 平和外交研究所 - Page 2

2014.09.25

ウクライナに対するロシアの軍事的脅威

東部ウクライナでの親ロシア派とウクライナ政府の対立は現在も続いている。ウクライナのValeriy Heletey国防相は最近(8月末か9月初め)、ロシアは非公式のチャネルを通じてウクライナに対し、親ロシア派に対する攻撃を続けるならロシアは戦術核を使う用意があると何回か脅してきたとフェースブックに書き込んだ。9月1日のニューズウィーク誌等の報道である。
9月5日に停戦が成立したが、ロシアの脅威はまだくすぶり続けており、停戦合意違反の攻撃も行なわれている。同国防相は9月14日の記者会見で、ロシアの脅威に再度言及し、ウクライナとしてはNATO、とくに米英の軍事支援を必要としていると訴えた。そのなかで、十分な支援が得られなければウクライナとしては核兵器の開発を考慮せざるをえないという趣旨の発言をしたと報道された。ただし、この報道は一部の通信社に限られており、大手の通信社は取り上げていないようである。同国防相としてはNATOなどの支援が必要であることを強調するのが趣旨であったことは明らかであり、核開発に関する発言は弾みで出たものと取られたのであろう。
ウクライナの核開発はともかくとして、ウクライナがロシアから引き続き軍事的脅威を受けていることは明らかであり、ロシアがウクライナに対し非公式チャネルで核兵器を使用する可能性を伝えている可能性は高い。そうであれば、ロシアはこれまでウクライナに軍事介入をしていないと言い張ってきたが、みずからそれを否定しているのと変わらないのではないかと思われる。

2014.09.24

尖閣諸島に中国は何をしようとしているのか

THEPAGEに9月24日掲載されたもの。

「日本政府が尖閣諸島を国有化したのは2年前の9月でした。中国はこのことを問題視する発言をしていますが、中国はそれ以前の2008年頃から尖閣諸島の海域に公船を派遣するようになり、2010年9月には中国の漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする事件を起こしました。それ以降も中国船は同海域への侵入を繰り返しています。日本政府が尖閣諸島を購入したのは、中国のこのような行動に対する日本国内の反発が過激にならないよう予防するためであり、法的には日本の中での所有権移転でした。
しかし、中国政府は国有化の真の意味について理解を示さず、日本政府の措置は日中関係を損なったという非難だけを一方的に繰り返していますが、国有化がなぜ日中間の問題になるのか日本国民は理解に苦しんでいます。中国の出方については慎重に見極める必要がありますが、中国共産党による専制支配という、日本などとは全く異なる政体であることが根本的な原因と思われます。
中国の公船による尖閣諸島海域への侵入状況は時ともにかなり変化し、今年は2013年と比べると回数はほぼ半減する傾向で推移してきました。しかし、中国の態度が変わったのではなさそうです。この間、中国は南シナ海でフィリピンやベトナムと対立する事件を起こしており、そのことが東シナ海での行動に影響を及ぼしていた可能性があります。また、東シナ海では中ロ両国による海上合同演習や、中国機による自衛隊機への異常接近などが過去数カ月間に起こっています。
9月7日から8日にかけて、中国海警局の公船が日本の排他的経済水域に入って調査を行なっているのが発見されました。国連海洋法によれば、他国の経済水域内で調査することは可能ですが、沿岸国の同意が必要です。中国の船はそのような同意を得ていませんでしたので、海上保安庁の巡視船が「同意のない調査は認められない」と注意しましたが、中国船は注意を無視して調査を継続しました。
さらに10日には同じく中国海警局の公船4隻が、20日には3隻が尖閣沖の日本の領海に侵入しています。2年前の国有化に時期を合わせて行動し、中国は強い姿勢であることを印象付けようとしたのでしょう。
 東シナ海や南シナ海での中国の行動は、「海警」など公船が単独で他国の海域へ侵入してくる場合と漁船との連携プレーの場合があります。漁船は武器を備えていることもあり、乗組員はいわゆる「海上民兵」である可能性があります。民兵は正規軍としての人民解放軍および国内の治安維持のための武装警察とともに中国の「武装力」を構成する3要素の一つであり、海上に配置された民兵は年間を通じて国境線や海上境界線でパトロール勤務をすることになっています。
 中国は、正規軍を動かすことには慎重であり、尖閣諸島では自衛隊が先に行動を起こすのを待ち構えています。いざとなった時に、防衛のためにやむをえず反撃したと言える形にしたいからでしょう。先に漁船を派遣するのも中国政府としての立場を説明しやすくするためと思われます。
 尖閣諸島に対して中国は、領有権をめぐって問題があることを日本に認めさせ交渉に持ち込むため、日本が音を上げるまで公船による侵入を繰り返そうとしています。航空機による異常接近、無人機の飛行、近海での海上軍事演習、さらには海洋調査などもそのような戦略の一環でしよう。また、それらに関する情報を中国国内に繰り返し流すことによって「中国が尖閣諸島を実効支配している」とアピールする狙いもあるようです。
 これは虚構であり、尖閣諸島を実効支配しているのは日本です。日本としては今後もこれが脅かされないよう海上保安庁を中心にしっかり対応していくことが肝要です。
 日本政府は国際法を重視・尊重しており、中国にもそうすることを求めています。国際司法裁判所での解決については、中国政府はそれを求めないという立場です。日本政府は中国が提訴するなら受けて立つという方針のようですが、さらに踏み込んで国際司法裁判所での解決が望ましいことを明確に表明すべきだと思います。第三国から理解を得るためにもそうすることが望まれます。」

2014.09.22

習近平の訪印

習近平主席の訪印に関し、インド、中国 英国などの諸報道をまとめてみた。要点は次のとおりである。

○モディ首相は8月30日から9月3日まで訪日して大きな成果を上げた後、9月17日から3日間、中国の習近平主席をインドで迎えた。モディ首相はさらに9月末、米国訪問を予定しており、5月に就任して以来積極的な外交を展開している。
○モディ首相は前任者のシン首相より外交活動を活発化させている。シン前首相は優秀な経済官僚・学者であったが政治力が弱く、与党の国民会議は外交センスに欠け、中国を恐れるあまり日本や米国など重要な国との関係がしっくりいかなかった。
○5月の総選挙でモディが勝利すると中国では中印関係の改善を期待する声が上がり、モディ新首相はインドのニクソンとも称された。つまり、ニクソン大統領が米中関係を打ち立てる礎を築いたように、モディ首相に期待感が高まった。中国は選挙直後からモディ首相に積極的に働きかけた。その背景には、米国が戦略的なリバランスを進め、中国に対して各国との連携を強めようとしているなかで、インドがそのなかに取り込まれるのを防ぐねらいがあった。
○習近平主席はこまやかな気配りを見せ、モディ首相の64歳の誕生日である9月17日から、しかも同首相の地元であるグジャラート州から訪問を開始した。習近平は、胡錦濤や江沢民が訪印したときと異なり、夫人とともにリラックスした雰囲気であった。
○モディ首相はグジャラート州の首相時代から中国に強い関心を持ち、5回訪中したことがある。これは他のどの国よりも多かった。しかし、中国に傾倒しているのではない。モディ首相が特に重視しているのは経済面での関係改善である。中国はインドにとって最大の貿易相手国であるが、対中赤字が近年拡大し400億ドルに達していた。シン前首相は中国からの投資受け入れに消極的であったが、モディ首相は一変して、「中国からの投資を獲得するためには全力を挙げる」と発言するなど積極果敢な姿勢を示した。
○中印関係の改善のためには経済関係が重要であることを中国側もよく認識し、習近平主席は100人以上のビジネスマンを帯同した。
今次訪印の結果、両国は12の合意を結んだ。中国は今後5年間に200億ドルの投資を行なうことに合意したが、この額については、2007年から2013年までの累積赤字である1690億ドルと比べ少なすぎるという見方もある。
○中国は今後、インドにおける鉄道の改善のために高速鉄道建設と鉄道駅の再開発のフィージビリティ調査を行なう予定である。両国の関係当局は行動計画を作成することになっている。
○経済面での関係改善が必要であるが、インドはその代償として軍事戦略面で態度を緩和することはない。インド内務省によれば、今年に入ってから216日の間に、中国兵によるインド領への侵入が334回起こっており、モディ首相が中国を「拡張主義」と呼んだこともある。インドは中国の軍事的影響を食い止めるためにもろもろの措置を取っている。スワラジ外相はごく最近、アルナーチャル・プラデーシュ(インドの最北東で中国と接する。インドが実効支配しているが、中国と争いになっている)に対するインドの主権を中国は認めるべきだと主張し、「インドが一つの中国に合意するなら、中国は一つのインドを再確認すべきである」とも語っている。
○インド洋における中国海軍のプレゼンスの増大はインドにとって懸念すべき問題となっており、中国はインド洋沿いに拠点を設けて「海のシルクロード(真珠の首飾りとも言われる)」の確保に力を入れている。習近平主席は訪印に先立ち、モルディブとスリランカを訪問し、両国の協力をとりつけた。インドにも協力するよう誘っているが、インドはまだ態度を決めかねている。
○両国は宇宙の平和利用のため協力することとなり、覚書を結んだ。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.