11月, 2013 - 平和外交研究所 - Page 2
2013.11.27
中国はなぜこのような挙に出たのか。もちろん尖閣諸島についての主張を実現するためであるが、それだけでは説明にならない。中国としても、目標達成のためにどのような手段を取ってもよいのでないこと、また今回の措置が中国に対する反発を招き、ひいては中国のイメージが悪くなることは当然承知していたはずである。
話は飛ぶが、中国が世界の世論に敏感に反応した事例が、今回の措置とほぼ相前後して起こっていた。台風で大きな被害を受けたフィリピンに対する援助である。当初、中国政府は中国赤十字会(紅十字会)とともにそれぞれ10万ドルの支援を発表したところ、それは世界第2の経済大国としてあまりに少なすぎると各国のメディアから批判された。米国は2千万ドル、日本は1千万ドルである。そこで中国政府は150万ドルの追加支援を行なった。世界の世論が中国を動かしたのである。
今回、フィリピン支援の時と違って、中国がイメージの悪化を顧みなかったのはいかなる理由によるか。一つの説明は、フィリピンに対する支援で問われたのはけち臭いかどうかということであったので、イメージを損なわないように努力できたが、防空識別圏は国防という主権にかかわる問題なのでイメージなど吹っ飛んでしまったということである。主権を理由に行動を正当化することはよく行われるし、分かりやすいかもしれないが、中国は国防にかかわる問題でもイメージの維持には非常に気を使っている。核兵器をできるだけ使用しない方針であるという説明などは、各国から宣伝に過ぎないと見られがちであるが、平和を愛好する国家であるという印象を植え付けようとしているのは明らかである。
もう一つの可能性は、これまで外交部が中心となって対応してきた尖閣諸島問題について、軍としての意見をこれまで以上に前面に押し出し、おそらく外交部の意見を押し切って今回の措置に踏み切ったということである。その背景には、中国の無人機が尖閣諸島海域に侵入すれば日本は撃墜も辞さないと言っていると中国内で伝えられ、軍がかなり刺激されていたという事情がある。菅官房長官が記者会見で述べたことは、「わが国の領土、領海、領空を守る観点から厳正な警戒態勢を敷いていきたい」ということであったが、中国では単純化されて「撃墜すると言った」というように伝えられ、中国軍は反発していた。そのように単純化された報道は中国の問題であり、日本の責任ではないが、ともかくそのようになっていたわけである。
中国政府が開いた10月末の外交関係会議において対日関係の改善が話題になったと伝えられている。また、尖閣諸島海域では侵入してくる船舶が減少していたようである。中国軍が政府、とくに外交部のそのような動向に不満であった可能性は否定できない。
「東海防空識別圏」を設置した理由
中国による「東海防空識別区」の設置は、中国内部は別として、世界中で総スカンを食らっている。日本の6大新聞は、その主義主張が異なることは周知であるが、本件に関しては極めて例外的に、報道ぶりも論評もほぼ同じで、口をそろえて中国を非難している。また、日本政府の対応は、子細に確かめたわけではないが、全国民によって強く支持されているようである。まだこの問題に関して世論調査は行われていないが、日本政府の対応を支持する人の割合はきわめて高いだろう。中国はなぜこのような挙に出たのか。もちろん尖閣諸島についての主張を実現するためであるが、それだけでは説明にならない。中国としても、目標達成のためにどのような手段を取ってもよいのでないこと、また今回の措置が中国に対する反発を招き、ひいては中国のイメージが悪くなることは当然承知していたはずである。
話は飛ぶが、中国が世界の世論に敏感に反応した事例が、今回の措置とほぼ相前後して起こっていた。台風で大きな被害を受けたフィリピンに対する援助である。当初、中国政府は中国赤十字会(紅十字会)とともにそれぞれ10万ドルの支援を発表したところ、それは世界第2の経済大国としてあまりに少なすぎると各国のメディアから批判された。米国は2千万ドル、日本は1千万ドルである。そこで中国政府は150万ドルの追加支援を行なった。世界の世論が中国を動かしたのである。
今回、フィリピン支援の時と違って、中国がイメージの悪化を顧みなかったのはいかなる理由によるか。一つの説明は、フィリピンに対する支援で問われたのはけち臭いかどうかということであったので、イメージを損なわないように努力できたが、防空識別圏は国防という主権にかかわる問題なのでイメージなど吹っ飛んでしまったということである。主権を理由に行動を正当化することはよく行われるし、分かりやすいかもしれないが、中国は国防にかかわる問題でもイメージの維持には非常に気を使っている。核兵器をできるだけ使用しない方針であるという説明などは、各国から宣伝に過ぎないと見られがちであるが、平和を愛好する国家であるという印象を植え付けようとしているのは明らかである。
もう一つの可能性は、これまで外交部が中心となって対応してきた尖閣諸島問題について、軍としての意見をこれまで以上に前面に押し出し、おそらく外交部の意見を押し切って今回の措置に踏み切ったということである。その背景には、中国の無人機が尖閣諸島海域に侵入すれば日本は撃墜も辞さないと言っていると中国内で伝えられ、軍がかなり刺激されていたという事情がある。菅官房長官が記者会見で述べたことは、「わが国の領土、領海、領空を守る観点から厳正な警戒態勢を敷いていきたい」ということであったが、中国では単純化されて「撃墜すると言った」というように伝えられ、中国軍は反発していた。そのように単純化された報道は中国の問題であり、日本の責任ではないが、ともかくそのようになっていたわけである。
中国政府が開いた10月末の外交関係会議において対日関係の改善が話題になったと伝えられている。また、尖閣諸島海域では侵入してくる船舶が減少していたようである。中国軍が政府、とくに外交部のそのような動向に不満であった可能性は否定できない。
2013.11.26
「中国国防部が発表した東海防空識別区の設置は釣魚台(注 尖閣諸島のこと)の上空をそのなかに含んでおり、日本の防空識別圏と重複していることから日本の抗議を惹起し、また、台湾国防部も遺憾であるとし、さらに、米国は中国のこの行為は東海の緊張を高める恐れがあると非難した。
釣魚台海域での中日両政府の船舶による衝突の危機がまだ解消されていない状況の下で、中国が防空識別区を新設した。今後東海での軍事衝突が起こる可能性についてどのように解釈すべきか。(中略)
この識別区において中国側が言うように、防御のため中国の武装力が緊急措置を取れば、東海において中日双方の武力が接触し火が散る(「擦槍走火」)の危険が高まる。
現在、釣魚台の上空は基本的に日本がコントロールしている。中国の軍機はその空域に侵入したことが一回あった。これまでは、中国機がその付近に近づくたびに日本の航空自衛隊機がスクランブル発進し、阻止していた。
中日の軍事衝突が起こる可能性は簡単に消し去ることができないが、そのこと以外に、中米が軍事衝突するのをいかに避けるかということも一大課題である。過去数十年来、米国の偵察機は常態的に東海を飛行している。今後、米軍機がこの空域に進入すると中国側から識別を求められ、双方の間で相互に行動を抑制することについてしっかりとした合意がなければ、かつて起こったEP-3機のような事件が再発する可能性がある。」
EP-3機事件とは、2001年、海南島付近で米国の偵察機EP-3機に中国の戦闘機が体当たりした事件である。
明報の他、海外に拠点があり、中国にもよく通じている多維新聞の11月25日付報道も興味深い。次のように述べている
「中国が東海防空識別区を発表したのに対し、日本は抗議し、米国国防部は中国の一方的な行動はこの地域の現状の破壊を企てるものであると強い言葉で非難した。
(この後、中国が強く米日に反撃して抗議したことを紹介しているが、公知のことなので省略)
23日、中国国防部のスポークスマンはこの識別区に関する各種の質問に詳しく答えるなかで、2機の偵察機がすでに空中警邏任務についていると述べていた。このような中国の対応を見ると、これまでの外交部主導の米日批判とは異なり、解放軍が徐々に前面に出てきて、米日に反撃する主導的地位を占めつつあるようである。」
中国の東海防空識別区に関する中立的新聞の報道
11月23日に中国が発表した「東海防空識別区」(注 東海は東シナ海のこと)について日米両国などが強く反発し、その撤回を求めていることに関し、中国のメディアは中国政府および国防部の発表を中心にその正当性を主張する趣旨の報道や論評を掲げている。これはいつものことであるが、香港の明報紙は、台湾中央研究院近代史研究所の林泉忠副研究員による次の論評を掲載した。微妙な言い回しであるが、中国の行動に批判的であると見られる可能性がある内容であり、台湾の研究者の論評としてはなんらめずらしくないが、明報は、中国政府とつかず離れずの関係を維持しながらしばしば中国寄りの報道を行なうことで知られており、このような論評を掲載したことは興味深い。「中国国防部が発表した東海防空識別区の設置は釣魚台(注 尖閣諸島のこと)の上空をそのなかに含んでおり、日本の防空識別圏と重複していることから日本の抗議を惹起し、また、台湾国防部も遺憾であるとし、さらに、米国は中国のこの行為は東海の緊張を高める恐れがあると非難した。
釣魚台海域での中日両政府の船舶による衝突の危機がまだ解消されていない状況の下で、中国が防空識別区を新設した。今後東海での軍事衝突が起こる可能性についてどのように解釈すべきか。(中略)
この識別区において中国側が言うように、防御のため中国の武装力が緊急措置を取れば、東海において中日双方の武力が接触し火が散る(「擦槍走火」)の危険が高まる。
現在、釣魚台の上空は基本的に日本がコントロールしている。中国の軍機はその空域に侵入したことが一回あった。これまでは、中国機がその付近に近づくたびに日本の航空自衛隊機がスクランブル発進し、阻止していた。
中日の軍事衝突が起こる可能性は簡単に消し去ることができないが、そのこと以外に、中米が軍事衝突するのをいかに避けるかということも一大課題である。過去数十年来、米国の偵察機は常態的に東海を飛行している。今後、米軍機がこの空域に進入すると中国側から識別を求められ、双方の間で相互に行動を抑制することについてしっかりとした合意がなければ、かつて起こったEP-3機のような事件が再発する可能性がある。」
EP-3機事件とは、2001年、海南島付近で米国の偵察機EP-3機に中国の戦闘機が体当たりした事件である。
明報の他、海外に拠点があり、中国にもよく通じている多維新聞の11月25日付報道も興味深い。次のように述べている
「中国が東海防空識別区を発表したのに対し、日本は抗議し、米国国防部は中国の一方的な行動はこの地域の現状の破壊を企てるものであると強い言葉で非難した。
(この後、中国が強く米日に反撃して抗議したことを紹介しているが、公知のことなので省略)
23日、中国国防部のスポークスマンはこの識別区に関する各種の質問に詳しく答えるなかで、2機の偵察機がすでに空中警邏任務についていると述べていた。このような中国の対応を見ると、これまでの外交部主導の米日批判とは異なり、解放軍が徐々に前面に出てきて、米日に反撃する主導的地位を占めつつあるようである。」
2013.11.24
第一に、中国の防空識別圏は、日本の防空識別圏に侵入して拡大されており、尖閣諸島の上空を含む一定の空域では日中両国の防空識別圏が折り重なることとなった。この結果、日本の航空機が従来自由に飛行できた空域においても中国機がスクランブルをかけ、ひいては自由な飛行が妨害を受け、航空機間で不測の事態が発生する恐れが出てくることになる。そのように危険な事態を招来する措置を一方的にとることは断じて認められない。
第二に、日本の防空識別圏は1945年に占領当局(GHQ)が制定した空域をほぼそのまま使用しているのであるが、中国の今回の措置はそれを変更することを一方的に押し付けてきたことに等しい。
第三に、拡大された中国の防空識別圏主張は、沖縄の西側を走る沖縄トラフまでの大陸棚全域に対する権利主張、その上にある海域を中国の排他的経済水域とする主張、および東シナ海および南シナ海の島嶼をすべて中国の領土とする主張に、さらに加えられるものであり、中国の海洋戦略の一環を構成しているが、そのいずれも一方的なものであり、到底認められない。
第四に、今回の中国の防空識別圏の拡大は、日本の領土である尖閣諸島の上空、つまり日本の領空を勝手にそのなかに含める行為であり、これは、日本が上海沖の舟山島の上空を日本の防空識別圏とすることと同等のことであることを中国は悟るべきである。
日本の外務省が中国の大使館に対して抗議したのは当然であり、また今後、このような一方的な措置の撤回を求めつつ、とりあえずはこれまでの自由な飛行を妨げるスクランブル発進を控えるよう中国を説得するのであろう。
一方で、日本としては米国との緊密な連携が必要である。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が中国の今回の措置にいち早く反応して「深く懸念する」と表明し、「東シナ海の現状を一方的に変えようとする行為だ」「地域の緊張を高め、衝突のリスクを高めるだけだ」などと非難したのは正しく、心強い。また、現実にはまだ発生していないようであるが、南シナ海で同様の問題が発生する恐れもある。中国が、力づくで、強引に現状を変更しようとすることには、毅然として対応していかなければならない。
中国の防空識別圏拡大
中国は11月23日、尖閣諸島上空を含む空域に防空識別圏(ADIZ)を設定したと発表した。それまでの識別圏を沖縄のほうにせり出す形で拡大したようである。中国のこのような措置は非常に問題である。第一に、中国の防空識別圏は、日本の防空識別圏に侵入して拡大されており、尖閣諸島の上空を含む一定の空域では日中両国の防空識別圏が折り重なることとなった。この結果、日本の航空機が従来自由に飛行できた空域においても中国機がスクランブルをかけ、ひいては自由な飛行が妨害を受け、航空機間で不測の事態が発生する恐れが出てくることになる。そのように危険な事態を招来する措置を一方的にとることは断じて認められない。
第二に、日本の防空識別圏は1945年に占領当局(GHQ)が制定した空域をほぼそのまま使用しているのであるが、中国の今回の措置はそれを変更することを一方的に押し付けてきたことに等しい。
第三に、拡大された中国の防空識別圏主張は、沖縄の西側を走る沖縄トラフまでの大陸棚全域に対する権利主張、その上にある海域を中国の排他的経済水域とする主張、および東シナ海および南シナ海の島嶼をすべて中国の領土とする主張に、さらに加えられるものであり、中国の海洋戦略の一環を構成しているが、そのいずれも一方的なものであり、到底認められない。
第四に、今回の中国の防空識別圏の拡大は、日本の領土である尖閣諸島の上空、つまり日本の領空を勝手にそのなかに含める行為であり、これは、日本が上海沖の舟山島の上空を日本の防空識別圏とすることと同等のことであることを中国は悟るべきである。
日本の外務省が中国の大使館に対して抗議したのは当然であり、また今後、このような一方的な措置の撤回を求めつつ、とりあえずはこれまでの自由な飛行を妨げるスクランブル発進を控えるよう中国を説得するのであろう。
一方で、日本としては米国との緊密な連携が必要である。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が中国の今回の措置にいち早く反応して「深く懸念する」と表明し、「東シナ海の現状を一方的に変えようとする行為だ」「地域の緊張を高め、衝突のリスクを高めるだけだ」などと非難したのは正しく、心強い。また、現実にはまだ発生していないようであるが、南シナ海で同様の問題が発生する恐れもある。中国が、力づくで、強引に現状を変更しようとすることには、毅然として対応していかなければならない。
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