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2015.05.19

(短文)中国は対独戦勝利記念に参加する立場にない?

 5月9日のモスクワでの対独戦勝記念行事に出席するのに先立って、習近平主席は、「毛沢東の長男、毛岸英は白ロシアの第1方面軍戦車隊の指導員として転戦し、ベルリンに攻め込んだ」という趣旨を含む一文を、7日発行のロシア誌『Российская Газета(中国名は俄羅斯報)』に寄稿した。
 しかるに、16日の香港紙『明報』は、やはり7日に発行された中国全国政治協商会議(注 共産党と共産党以外の諸団体を集めた会議で、いわゆる統一戦線の最大の母体である)の『人民政協報』と、2008年5月8日に新華社が発行した『国際先駆導報』は、いずれも毛岸英自身の言葉を引用しつつ、同人はソ連の対独戦争に参加したこともベルリンに攻め込んだこともないという記事を掲載していることを指摘した。
 習近平は、中国は対独戦勝記念に参加する理由があると言いたいのであろう。しかし、中国は日本と戦争したが、ドイツとは戦っていない。一方、毛岸英はソ連に留学したことがあり、ロシア語が堪能で通訳を務めていたのは事実である。ここまでは周知のことであるが、そこからさらに、習近平は毛岸英が戦争に加わっていたと言い、明報が指摘する二つの記事はそのようなことはなかったと言っているのである。新華社は中国政府の公式の通信社であり、政府の意思や利益に反する記事を流すことはありえないことにかんがみれば、習近平の寄稿は奇妙なものである。
 なぜこのようなことが起こったのか。習近平の寄稿文を起案した人の、あるいは中国政府の事務的なミスとは考えにくい。もしミスであったら非常に深刻な問題になるだろう。そうではなくて、中国の大国化願望を背景とする一種のプロパガンダだったのかもしれない。
 『明報』の報道についても考えるべきことがある。同紙は中国本土の新聞ほどではないが、やはり中国政府による言論統制の影響を多かれ少なかれ受けているので、習近平を攻撃するためであったとは考えにくい。しかし、習近平の寄稿が大きな問題に発展しないよう、親切心で早めに手を打って片付けようとしたとも考えにくい。
 もう少し時間をかけて観察を続ける必要がありそうだ。

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