中国
2024.07.30
中国共産党第20期中央委員会第3回総会(3中全会)は7月18日に閉幕した。コミュニケは21日に発表された。
これまでの例によると、共産党代表大会が開催されると、ほぼ1年後に3中全会が開かれていた。代表大会後の政策や基本方針は早く発表したほうがよいが、その準備にどうしても1年くらいかかるからであった。だが2022年10月に開催された代表大会(第20期)においては今年の7月になって漸く開かれた。いつもより1年近く遅れたわけである。
中国政府は今後に向けての方針策定に苦慮したらしい。あるエコノミストは次のように述べている(Milton Ezrati, Forbes JAPAN 2024年7月11日。一部表現をわかりやすくした)。
「経済に影響を及ぼしている不動産問題について、中国政府は当初から対応を誤ってきた。不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ)が2021年に債務不履行(デフォルト)に陥って不動産危機が発生したとき、政府はまるで大した問題ではないかのように扱った。
当局は恒大集団や同社の顧客を支援したり、金融市場が余波を受けないようにしたりするなどの措置を一切取らなかった。こうした無為無策から、問題は中国の経済と金融全体に広がった。その間、他の不動産開発企業も経営難に陥り、問題はさらに悪化した。2023年、政府はようやく事態が深刻だと認識し、小さな一歩を踏み出した。しかし、政府が打ち出した対応策では不十分だろう。
中国政府は1兆元(約22兆円)の超長期特別国債を発行するとしている。このうちの約5000億元(約11兆円)で売れ残っている住宅を購入して手頃な価格の住宅として活用するというのだ。
(中略)
これはかなりの額に見えるものの、対策として打ち出した買戻し計画としてはあまりに少なすぎる。1兆元という額は、恒大集団の約3000億ドル(約48兆円)もの負債の前では微々たるものだ。加えて、碧桂園(カントリーガーデン)など、恒大集団に続いて経営難に陥った不動産開発企業の負債もある。効果を上げるには何兆元もの公的資金が必要である。」
何兆元もの公的資金が必要か、議論の余地はあるだろう。リーマンショックの際に中国政府が4兆元をつぎ込んだことは高く評価された一方で、巨額の債務が残り、財政の健全性に懸念が生じた。そのような経験をしたが、今回、習政権は年度の途中で大幅な予算の修正に踏み込まざるをえなかった。習政権が景気の現状に強い危機感を抱いている表れだろうと指摘されている。
中国の不動産市場においては、住宅の平均価格が高騰しており、バブル状態になっている。その一方で、プロジェクトが建設途中で放棄されることが多発している。道路が作られてもあまり車が通らないため、農地の代わりに使われているところもあるという。
これまで不動産と土地の取引で潤っていた地方政府は相次いで資金不足に陥っており、銀行からの融資や債権の発行によって資金を集め、インフラ開発を推し進めることは困難になっている。各地の地方政府は「地方融資平台(英語ではLocal government financing vehicleと訳されている)」という特殊な投資会社を設立して中央政府の金融規制をかいくぐろうとしているが、そこでも新たな債務が膨れ上がっている。地方融資平台は不動産バブルを煽っているともいわれている。
不動産業が激しい不況に陥っているのも、資金の調達に問題が生じているのも、地方政府が財政破綻の危機に陥ったのも、市場が十分機能していないことに根本的な原因があるのではないか。
中国政府は1980年代以来「改革開放」を進め、その一環として計画経済から市場経済への移行を目指し、国有企業の民営化と民営企業の成長を促してきた。1990年代の後半、朱鎔基総理は国有企業を改革する荒療治をした。それは効果があったとみられている。
2001年に中国は世界貿易機関(WTO)に加盟を果たしたが、交渉の過程で中国がほんとうに市場経済に移行できるか各国から厳しく問われ、これに対し中国の代表は中国経済が市場化の方向にあり、WTOに加盟する資格があることを懸命に力説して各国を説得した。
しかし、実際には、国有企業は政府の支援を引き続き受けながら、多くの分野において独占的地位を享受する一方、民営企業は種々の制約のもとにおかれてきた。
2002年胡錦涛政権になると、民営化はにぶくなった。国有企業の全面的な民営化は否定され、民営化に代わって、国有企業に民間資本を取り入れる「混合所有制改革」の方針が打ち出された。
近年は、国有企業への党と政府による介入が増えており、各企業は党支部を設置することを義務付けられている。国有企業の経営者は公務員化しているともいわれている。
1993年以来中国は「社会主義市場経済」を公式見解としており、表向きは市場経済化を一貫して重視しているように見えるが、実態は大きく変化し、国有企業中心の経済に回帰しつつある。それは党政府にとって都合がよいことだろうが、重要と供給のバランスを維持し、民間の活力を発揮させることは困難であろう。
そのような問題は中国経済が右肩上がりで伸びているときは表面化していなかったが、成長が鈍化し、財政が苦境に陥ると隠しとおせなくなるのではないか。
今回の3中全会コミュニケでは、「2035年までに、ハイレベルの社会主義市場経済体制を全面的に完成させる」と謳ったが、これは目標である。コミュニケには、「市場メカニズムの役割をよりよく発揮させる」、「より公平でより活力のある市場環境をつくり出す」、「資源配分において効率の最適化、効果の最大化をはかる」、「しっかりと市場の秩序を維持して市場の失敗を補完する」など、市場を重視すると読める言葉が書き込まれているが、同時に、
「揺るぐことなく公有制経済をうち固めて発展させる」ことと、「揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・リードする」ことが同時に謳われている。公有制企業とは国有企業であり、国有企業の重要性をないがしろにすることは許さないという大きなメッセージが明確に示されているのである。これでは市場経済は事実上ますます影が薄くなるのではないか。
経済成長の回復状況にもよるが、不動産業と地方政府の財政危機が今後どのように展開していくか、目が離せない。
3中全会と財政改革
中国共産党第20期中央委員会第3回総会(3中全会)は7月18日に閉幕した。コミュニケは21日に発表された。
これまでの例によると、共産党代表大会が開催されると、ほぼ1年後に3中全会が開かれていた。代表大会後の政策や基本方針は早く発表したほうがよいが、その準備にどうしても1年くらいかかるからであった。だが2022年10月に開催された代表大会(第20期)においては今年の7月になって漸く開かれた。いつもより1年近く遅れたわけである。
中国政府は今後に向けての方針策定に苦慮したらしい。あるエコノミストは次のように述べている(Milton Ezrati, Forbes JAPAN 2024年7月11日。一部表現をわかりやすくした)。
「経済に影響を及ぼしている不動産問題について、中国政府は当初から対応を誤ってきた。不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ)が2021年に債務不履行(デフォルト)に陥って不動産危機が発生したとき、政府はまるで大した問題ではないかのように扱った。
当局は恒大集団や同社の顧客を支援したり、金融市場が余波を受けないようにしたりするなどの措置を一切取らなかった。こうした無為無策から、問題は中国の経済と金融全体に広がった。その間、他の不動産開発企業も経営難に陥り、問題はさらに悪化した。2023年、政府はようやく事態が深刻だと認識し、小さな一歩を踏み出した。しかし、政府が打ち出した対応策では不十分だろう。
中国政府は1兆元(約22兆円)の超長期特別国債を発行するとしている。このうちの約5000億元(約11兆円)で売れ残っている住宅を購入して手頃な価格の住宅として活用するというのだ。
(中略)
これはかなりの額に見えるものの、対策として打ち出した買戻し計画としてはあまりに少なすぎる。1兆元という額は、恒大集団の約3000億ドル(約48兆円)もの負債の前では微々たるものだ。加えて、碧桂園(カントリーガーデン)など、恒大集団に続いて経営難に陥った不動産開発企業の負債もある。効果を上げるには何兆元もの公的資金が必要である。」
何兆元もの公的資金が必要か、議論の余地はあるだろう。リーマンショックの際に中国政府が4兆元をつぎ込んだことは高く評価された一方で、巨額の債務が残り、財政の健全性に懸念が生じた。そのような経験をしたが、今回、習政権は年度の途中で大幅な予算の修正に踏み込まざるをえなかった。習政権が景気の現状に強い危機感を抱いている表れだろうと指摘されている。
中国の不動産市場においては、住宅の平均価格が高騰しており、バブル状態になっている。その一方で、プロジェクトが建設途中で放棄されることが多発している。道路が作られてもあまり車が通らないため、農地の代わりに使われているところもあるという。
これまで不動産と土地の取引で潤っていた地方政府は相次いで資金不足に陥っており、銀行からの融資や債権の発行によって資金を集め、インフラ開発を推し進めることは困難になっている。各地の地方政府は「地方融資平台(英語ではLocal government financing vehicleと訳されている)」という特殊な投資会社を設立して中央政府の金融規制をかいくぐろうとしているが、そこでも新たな債務が膨れ上がっている。地方融資平台は不動産バブルを煽っているともいわれている。
不動産業が激しい不況に陥っているのも、資金の調達に問題が生じているのも、地方政府が財政破綻の危機に陥ったのも、市場が十分機能していないことに根本的な原因があるのではないか。
中国政府は1980年代以来「改革開放」を進め、その一環として計画経済から市場経済への移行を目指し、国有企業の民営化と民営企業の成長を促してきた。1990年代の後半、朱鎔基総理は国有企業を改革する荒療治をした。それは効果があったとみられている。
2001年に中国は世界貿易機関(WTO)に加盟を果たしたが、交渉の過程で中国がほんとうに市場経済に移行できるか各国から厳しく問われ、これに対し中国の代表は中国経済が市場化の方向にあり、WTOに加盟する資格があることを懸命に力説して各国を説得した。
しかし、実際には、国有企業は政府の支援を引き続き受けながら、多くの分野において独占的地位を享受する一方、民営企業は種々の制約のもとにおかれてきた。
2002年胡錦涛政権になると、民営化はにぶくなった。国有企業の全面的な民営化は否定され、民営化に代わって、国有企業に民間資本を取り入れる「混合所有制改革」の方針が打ち出された。
近年は、国有企業への党と政府による介入が増えており、各企業は党支部を設置することを義務付けられている。国有企業の経営者は公務員化しているともいわれている。
1993年以来中国は「社会主義市場経済」を公式見解としており、表向きは市場経済化を一貫して重視しているように見えるが、実態は大きく変化し、国有企業中心の経済に回帰しつつある。それは党政府にとって都合がよいことだろうが、重要と供給のバランスを維持し、民間の活力を発揮させることは困難であろう。
そのような問題は中国経済が右肩上がりで伸びているときは表面化していなかったが、成長が鈍化し、財政が苦境に陥ると隠しとおせなくなるのではないか。
今回の3中全会コミュニケでは、「2035年までに、ハイレベルの社会主義市場経済体制を全面的に完成させる」と謳ったが、これは目標である。コミュニケには、「市場メカニズムの役割をよりよく発揮させる」、「より公平でより活力のある市場環境をつくり出す」、「資源配分において効率の最適化、効果の最大化をはかる」、「しっかりと市場の秩序を維持して市場の失敗を補完する」など、市場を重視すると読める言葉が書き込まれているが、同時に、
「揺るぐことなく公有制経済をうち固めて発展させる」ことと、「揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・リードする」ことが同時に謳われている。公有制企業とは国有企業であり、国有企業の重要性をないがしろにすることは許さないという大きなメッセージが明確に示されているのである。これでは市場経済は事実上ますます影が薄くなるのではないか。
経済成長の回復状況にもよるが、不動産業と地方政府の財政危機が今後どのように展開していくか、目が離せない。
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