中国
2021.01.26
トランプ政権が最後まで台湾を擁護する姿勢を示したことは周知であるが、バイデン新政権も初日から台湾を支持する姿勢を示し、大統領の就任式に事実上の駐米台湾大使を招待した。これはトランプ政権もなしえなかったことで、1979年の米中国交回復以来初めてのことであった。
すると、中国は、軍の爆撃機と戦闘機など計28機を23、24日、台湾南西部の防空識別圏に侵入させた。中国軍は近年、台湾周辺での活動を活発化させていたが、1日に10機以上は異例の規模であった。
中国軍機の飛行に関し、米国務省のネッド・プライス報道官は23日、声明を発表。「米国は中国が繰り返し、台湾など周辺に脅威を与える行動を取っていることを憂慮している」、「米国は台湾との関係を強化し続ける」、「中国政府に対し、軍事、外交、経済の面で台湾に圧力をかけるのをやめ、民主的に選ばれた台湾の代表らと意味のある対話を始めるよう強く求める」と述べた。
また同日、米軍の空母艦隊が「航行の自由作戦(Freedom of Navigation Operations)」の一環で、南シナ海(South China Sea)を通行した。
バイデン新政権の対中政策については、オバマ政権時代に戻るのではないかと憶測が飛び交っていたが、トランプ政権と同様強く台湾を支持する姿勢を打ち出したのである。バイデン政権の高官の発言は中国に対し厳しいものであり、即興で言えるようなことでない。時間をかけて検討した結果だとみられる。これでバイデン政権の対中方針がすべて固まったわけではないが、政治・安全保障面では中国に対して妥協する余地がないと考えていることがうかがわれる。
これに対し習近平主席は、中国軍機による台湾防空識別圏への侵入の翌日(25日)、世界経済フォーラム(WEF)が開いたオンライン会合「ダボス・アジェンダ」で演説し、「『新冷戦』によって他者を排斥、威嚇し、制裁を行うことは世界を分裂や対抗に向かわせるだけだ」、「分裂した世界では人類共通の課題に立ち向かえない」、「差異を尊重し、他国の内政に干渉せず対話を通じて相違を解決する必要がある」、「対立や対抗の道を歩めば、冷戦であれ貿易戦争であれ科学技術戦争であれ、最終的には各国の利益を損う」などと述べた。
これらの演説内容に問題はないとする見方もあろう。米国と対立する恐れがある問題についてはある程度オブラートに包んだ発言であったが、中国の実際の行動はまるで異なるものである。南シナ海(公海)では米国を締め出そうとしている。東南アジア諸国の抗議を無視し人工島を建設するなどしている。制裁もちらつかせている。国際仲裁裁判所の判決に従わないことを明言している。
また、中国は最近「海警法」を制定した。外国の軍艦や公船への強制措置を認めるなど、一般的な国際法の解釈とはいちじるしく異なる内容を含むものである。
たとえば、武器の使用規定や活動海域は曖昧である。
「海警」など中国当局による法執行権限が及ぶ範囲を「管轄海域」と規定。中国最高人民法院(最高裁)は「管轄海域」を「内水、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、及び中国が管轄するその他の海域」としており、その範囲は広大かつ曖昧だ。
外国軍艦や公船が「管轄海域」で不法行為をすれば「強制退去・えい航などの措置を取る権利がある」と定めた。「管轄海域」の島や洋上にある構造物を強制撤去する権限も盛り込んだ。
もし、このような規定通りに「海警法」が執行されると、周辺の国との衝突は不可避となろう。
ヨーロッパも最近中国への警戒心を高めている。中国はEUと投資協定を早期に結びたいようだが、その締結を米国が邪魔しているととらえ、批判している。が、バイデン政権もヨーロッパ諸国も、トランプ政権時代に悪化した米欧関係の修復が先だと考えている。
米欧日は中国に国際法を尊重し、また、国際協調を重視すべきことを求めているが、中国は「中国の特色ある社会主義」を建設するのだとして耳を傾けず、都合の悪いことは「主権にかかわる」などと言って排除する。習主席のいう、「差異を尊重する」とは中国流を押し通すことではないか。中国は荒れ狂う巨象のように手が付けられなくなる方向に向かっているのではないかとさえ思われる。
経済・貿易関係は、本来政治・安全保障面での矛盾を緩和するものであり、米国としてもこの面では今後も中国との協力を継続・維持する必要がある。だが、中国はWTOに加盟したころと違って、いわゆる国家資本主義傾向を再び強めており、その結果、中国企業と中国政府の結びつきが強くなり、経済合理性が働く余地は小さくなっている。経済・貿易面での相互依存関係が積極的な効果を発揮することを期待したいが、まだ不透明と言わざるを得ない。
バイデン新政権の中国政策序章
バイデン新政権が発足して以来わずか1週間であるが、米国と中国が火花を散らしている。特に注目されたのは、新疆ウイグル自治区における中国政府による強硬なウイグル族同化政策について、ブリンケン次期国務長官が「ジェノサイド」だという判断を示したことと、台湾に関して米新政府が中国に一歩も引かぬ姿勢を取ったことである。前者は別の機会に譲り、本稿では後者を見ておきたい。トランプ政権が最後まで台湾を擁護する姿勢を示したことは周知であるが、バイデン新政権も初日から台湾を支持する姿勢を示し、大統領の就任式に事実上の駐米台湾大使を招待した。これはトランプ政権もなしえなかったことで、1979年の米中国交回復以来初めてのことであった。
すると、中国は、軍の爆撃機と戦闘機など計28機を23、24日、台湾南西部の防空識別圏に侵入させた。中国軍は近年、台湾周辺での活動を活発化させていたが、1日に10機以上は異例の規模であった。
中国軍機の飛行に関し、米国務省のネッド・プライス報道官は23日、声明を発表。「米国は中国が繰り返し、台湾など周辺に脅威を与える行動を取っていることを憂慮している」、「米国は台湾との関係を強化し続ける」、「中国政府に対し、軍事、外交、経済の面で台湾に圧力をかけるのをやめ、民主的に選ばれた台湾の代表らと意味のある対話を始めるよう強く求める」と述べた。
また同日、米軍の空母艦隊が「航行の自由作戦(Freedom of Navigation Operations)」の一環で、南シナ海(South China Sea)を通行した。
バイデン新政権の対中政策については、オバマ政権時代に戻るのではないかと憶測が飛び交っていたが、トランプ政権と同様強く台湾を支持する姿勢を打ち出したのである。バイデン政権の高官の発言は中国に対し厳しいものであり、即興で言えるようなことでない。時間をかけて検討した結果だとみられる。これでバイデン政権の対中方針がすべて固まったわけではないが、政治・安全保障面では中国に対して妥協する余地がないと考えていることがうかがわれる。
これに対し習近平主席は、中国軍機による台湾防空識別圏への侵入の翌日(25日)、世界経済フォーラム(WEF)が開いたオンライン会合「ダボス・アジェンダ」で演説し、「『新冷戦』によって他者を排斥、威嚇し、制裁を行うことは世界を分裂や対抗に向かわせるだけだ」、「分裂した世界では人類共通の課題に立ち向かえない」、「差異を尊重し、他国の内政に干渉せず対話を通じて相違を解決する必要がある」、「対立や対抗の道を歩めば、冷戦であれ貿易戦争であれ科学技術戦争であれ、最終的には各国の利益を損う」などと述べた。
これらの演説内容に問題はないとする見方もあろう。米国と対立する恐れがある問題についてはある程度オブラートに包んだ発言であったが、中国の実際の行動はまるで異なるものである。南シナ海(公海)では米国を締め出そうとしている。東南アジア諸国の抗議を無視し人工島を建設するなどしている。制裁もちらつかせている。国際仲裁裁判所の判決に従わないことを明言している。
また、中国は最近「海警法」を制定した。外国の軍艦や公船への強制措置を認めるなど、一般的な国際法の解釈とはいちじるしく異なる内容を含むものである。
たとえば、武器の使用規定や活動海域は曖昧である。
「海警」など中国当局による法執行権限が及ぶ範囲を「管轄海域」と規定。中国最高人民法院(最高裁)は「管轄海域」を「内水、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、及び中国が管轄するその他の海域」としており、その範囲は広大かつ曖昧だ。
外国軍艦や公船が「管轄海域」で不法行為をすれば「強制退去・えい航などの措置を取る権利がある」と定めた。「管轄海域」の島や洋上にある構造物を強制撤去する権限も盛り込んだ。
もし、このような規定通りに「海警法」が執行されると、周辺の国との衝突は不可避となろう。
ヨーロッパも最近中国への警戒心を高めている。中国はEUと投資協定を早期に結びたいようだが、その締結を米国が邪魔しているととらえ、批判している。が、バイデン政権もヨーロッパ諸国も、トランプ政権時代に悪化した米欧関係の修復が先だと考えている。
米欧日は中国に国際法を尊重し、また、国際協調を重視すべきことを求めているが、中国は「中国の特色ある社会主義」を建設するのだとして耳を傾けず、都合の悪いことは「主権にかかわる」などと言って排除する。習主席のいう、「差異を尊重する」とは中国流を押し通すことではないか。中国は荒れ狂う巨象のように手が付けられなくなる方向に向かっているのではないかとさえ思われる。
経済・貿易関係は、本来政治・安全保障面での矛盾を緩和するものであり、米国としてもこの面では今後も中国との協力を継続・維持する必要がある。だが、中国はWTOに加盟したころと違って、いわゆる国家資本主義傾向を再び強めており、その結果、中国企業と中国政府の結びつきが強くなり、経済合理性が働く余地は小さくなっている。経済・貿易面での相互依存関係が積極的な効果を発揮することを期待したいが、まだ不透明と言わざるを得ない。
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