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中国

2020.08.20

最近の中国の政治状況

 中国では毎年恒例の北戴河会議(リゾート地、北戴河での非公式会議)が終了する頃である。すでに終わったという見方もある。中国共産党は来る10月に中央委員会総会を開催することにしており、それに向けての準備の意味もあったものと思われる。

 中国の現在の政治状況は順調に進んでいる面と、指導部、とくに習近平主席が批判されている面の両方を見ていく必要がある。ただ、両方の面が均衡しているわけではなく、後者のウェイトは比較的軽いとみるべきなのだろう。日本のメディアは概して後者の報道に慎重である。

 新型コロナウイルスの感染問題については、政府の隠ぺい体質が批判されたこともあった。治療に直接かかわった医師や、有名な言論人からの批判はあり、政府はそれに厳しく反応して強引に封じ込めたが、全体として感染対策は成功した。

 結果、中国では、日本のような第2の感染の山はまったく起きておらず、感染者の総数は3月頃からゼロに近い状態を続けている。北京などでは新たな感染もでたが、大勢は変わらない。
中国と比べ日本の感染者数はどんどん増加しており、8月17日のWHOのデータで55,667人、中国の89,859人に急速に近づきつつある。

 中国経済への影響は、1-3月期の成長率は6.8%減となったが、4-6月期は前年同期比3.2%のプラスだった。一方、日本などでは4-6月期も回復せず、さらに落ち込んだ。

 感染源の問題も一時期は中国にとって深刻であった。世界は武漢だと思っており、米国などからは公然と批判されたが、結局専門家の調査をWHOが行うこととなった。これで米国から一方的に攻撃されないで済むようになった。
 その予備調査のため中国入りしていた先遣隊は8月初旬、任務を終え、WHOに報告した。今後開始される本格調査においては、武漢以外の場所、中国以外の国も調査の対象になりうる。感染源が武漢でないという結論が出たわけではないが、中国政府だけが被告席に立たされることはなくなった。

 総じて中国政府をめぐる環境は大幅に改善した。
 一方、米国の感染者数は5,312,940人(日中と同じ8月17日現在)と中国の約60倍になっている。しかも、トランプ大統領は問題発言を重ね、内外から嘲笑を浴びた。これでは中国を、意図したのではもちろんなかったが、助けたようなものであった。

 コロナ問題を離れると、国内の状況は例年と比べ特に悪化したわけではなかったが、数件問題が発生し、党・政府は強い措置を取った。

 一つは腐敗の関係である。2019年の摘発件数は前年を下回り、2020年初に行われた中央規律検査委員会の全体会議で、習氏はこれまでの成果を誇った。しかし、反腐敗運動は新たな段階を迎えつつあるとも指摘された。

 注目されたのが政法系統(司法、公安、警察の関係)での摘発や失脚が多かったことである。

 4月19日、公安部の孫力軍次官が調査されていることが発表された。孫次官は「トラ級」の大物だという。
 孫氏は1969年1月、山東省青島市で生まれの51歳で、30代の時WHOの奨学金を得て、オーストラリアのサウスウェールズ大学に留学し、修士号を取得した。
 その後、警察官僚になって積極的に活動し、法輪功への弾圧や人権派弁護士の一斉拘束も主導した。さらに孫氏は、公安部の香港・マカオ・台湾政策担当のトップも兼任していた。公安部で6人いる次官のなかでも、最も重要な国内の治安維持を担当する「公安省第1局」の責任者であるばかりでなく、公共衛生管理学の専門家でもある。孫春蘭副首相の覚えもめでたかったという。

 コロナ問題が発生すると、孫副首相とともに武漢に派遣され、医学の専門知識を活かしつつ、都市封鎖を実行し、実績は認められていた。
 そして4月、北京に呼び戻された。孫力軍氏としては、期待に胸を弾ませての帰京であったが、孫氏を待っていたのは「裏切者」「党内のがん」などの罵声だったという。

 孫氏はなぜ失脚したのかが問題である。台湾の『聯合報』によると、孫力軍氏は共産党中央政治局委員で党中央政法委員会書記を務めた孟建柱氏と深いつながりがある。孟氏は江沢民元主席に近い“上海閥”の一員であり、習近平閥と対立していたそうだ。しかし、そんなことは初めから分かっていたはずであり、なぜ重要任務につけたのか。

 中国政府系メディア『人民公安報』によると、中国公安部は3月末に会議を開き、孫力軍氏に対する調査を決定した。その際、習近平氏の側近とされる王小洪・公安部筆頭次官が「周永康、孟宏偉、孫力軍らが残した弊害を取り除くべきだ」と主張したそうである。
 孫力軍氏の身柄拘束後、王次官は兼任していた北京市公安局長と北京市副市長を離れ、習氏ら党・政府の最高幹部を警護する公安部第8局、いわゆる「特勤局」と呼ばれ、中国版シークレットサービスの最高責任者である同省党委員会書記兼局長に任命されたという。このポストは次期公安部トップを見据えた人事だとみられている。
(NEWSポスト2020年5月10日)

 孫力軍の失脚後も公安関係者に対する調査が続いた。
 5月、司法部长傅政華が定年で退職した。行先は政治協商会議の委員という名誉職であった。
 6月、重慶市副市長、公安局局长の鄧恢林、中国公安部副部长の孟慶豊が罷免された。

 詳細は不明だが、司法や公安を担当する政法関係内の激しい移動に関連して、習近平主席の影が見え隠れする。以前から習主席が政法関係者に不満であったことは広く知られており、胡錦濤前政権下で政法関係担当の政治局常務委員であり、習近平政権下で無期懲役刑となった周永康に繋がる人脈の整理に時間がかかったのかもしれない。

 また、腐敗の関係でない現体制批判もいくつか発生した。

 不動産売買で巨万の富を築いた後、「微博」(中国版ツィッター)を通して大胆な意見を発表し、有名人になった任志強がコロナ問題に対する政府の対応を批判したことは4月9日、当研究所のHPに掲載したが、7月23日、任志強は党籍を剥奪された。

 7月6日、習近平指導部への批判的な意見を公表してきた改革派の知識人、許章潤・清華大学法学院教授が当局に拘束された。許氏は実名で党指導部への批判を続けた数少ない知識人であり、2018年7月には、憲法を改正して国家主席の任期制限を撤廃したことを批判する文書をインターネット上で公開し、大学から停職処分を受けたこともあった。
 今年の2月、新型ウイルスによる感染症の流行を早い段階で警告した医師らを中国当局が処分したことについて、「真相を隠し、感染拡大を防ぐ機会を逃した」と政府を批判する文書を公開した。5月には、政権が自国の感染対策を自賛していることで世界の反感を買っているとして、「中国は孤独な船だ」と訴える文章を発表していた。許章潤の逮捕は時間の問題だったのだろう。

 8月17日、中共中央党校の元教授、蔡霞が党籍をはく奪されたと発表された。蔡霞は任志強を擁護する文章を発表したこともあった。ネット上では蔡霞が行った私的な談話が流されており、その中で蔡霞は「なぜ共産党の体制は今日のありさまになってしまったのか」、「どうして習近平一人が偉くなってしまったのか」、「党の改革など何の役にも立たない。この体制は根本的に放棄しなければならない」、「憲法改正以来、共産党は死に体になってしまった」などと発言していた。これでは党籍をはく奪されても仕方ないだろう。しかし、蔡霞はすでに米国に逃れているという。

 体制批判は国家主席の任期制限を撤廃して以降増加したが、今のところ微熱が続いている感じである。

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