中国
2020.08.15
元慰安婦問題についても日韓の二国間関係と国際機関の両方の側面があるが、後者の方の扱いはどうしても弱くなる傾向がある。
中国の姿勢はまったく違っており、国際機関に対して国家戦略をもって臨んでいる。
現在、国連には専門機関が15あるが、そのうち、国連食糧農業機関(FAO)、国連工業開発機関(UNIDO)、国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)の4つの機関のトップに中国人を送り込んでいる。国際機関のことを少しでも知っている人なら、これがいかにものすごいことなのか、すぐ分かるだろう。
日本も国際機関で勤務する日本人職員を増やすことを目標に取り組んできたが、せいぜい2つの国際機関で同時に日本人がトップを務めていたに過ぎない。しかも、短い期間に限られていた。
中国の戦略の一つは、各省の次官を送り込んでいることだ。日本や欧米ではなかなかそうならない。国際機関の事務局長になるには選挙で勝たなければならないが、次官であっても勝てる保証はない。競争相手は大臣経験者だったりする。日本などではそのように「危ない」ところへ各省庁で最も成功した人である次官を送り出すわけにいかないという考えが強い。
中国が選挙に強いのは開発途上国を多数味方にしているからだ。そんなことができるのは、中国がカネに糸目をつけず協力しているからではないか。2019年6月に行われた国連食糧農業機関(FAO)の事務局長選で中国の屈冬玉候補が191票中108票を獲得して圧勝したのは、やはりカネの力にものを言わせたからであっ たという。この選挙にはカメルーンも立候補していたのだが、中国は同国の債務の帳消しにすることにより、同候補を撤退させた。また、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイに対しては、中国代表を支持しなければ輸出を停止すると圧力を加えた。
これらの裏事情が事実か、検証が必要であるのはもちろんであるが、中国はヒトとカネの両面で戦略的に臨んでいるのである。そんな戦略を取ることが本当によいか、疑問の余地もあるが、結果を出していることは明らかである。
そんな国際機関など勝手にすればよいというわけにもいかない。そのトップの影響力は無視できない。中国人のトップについてはあまりにも母国の利益を優先させている疑いがある。国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長(中国元財務次官)は「一帯一路」の推進のためUNIDOの経済支援プロジェクトをあからさまに利用してきたと言われている。
国際電気通信連合(ITU)でも、中国出身の趙厚麟事務局長は「一帯一路」との連携を主張している。また、中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)を米国の批判から擁護する発言もしている。
中国人がトップになっている国際機関では、台湾を締め出そうとしていることも大問題である。世界保健機関(WHO)の事務局長はエチオピア人であるが、中国寄りの姿勢が強いと批判されている。また、同機関は台湾を締め出している。
国際民間航空機関(ICAO)の柳芳事務局長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、台湾を世界保健機関(WHO)から排除していることに批判的な見解を投稿した米研究者らのツイッターのアカウントをブロックし、物議を醸した。また、台湾の総会参加を認めないのはWHOと同様である。
このような傾向を前に、米国は、自国の利益を優先させるような人物を事務局長にすべきでないと主張しているが、賛同するのは西側諸国に限られている。数の上では圧倒的に不利である。
中国は4つの国際機関でも満足せず、さる3月には世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長にも中国人を送り込もうとした。さすがにその時は米国が危機感を募らせ、中国人がトップに就けば、知的財産に関わる重要な情報が中国に流れる恐れがあるとして、シンガポール知的財産権庁長官のダレン・タンへの支持を呼びかけ、他国がそれに同調してタン事務局長が選出されたという(エコノミストOnline 2020年7月4日)。
日本や米欧諸国ができることは限られており、豊富な資金力を背景にしっかりした戦略で国際機関のトップに自国民をつける中国に対抗するのは困難だ。国際機関でのトップの選出を加盟国の選挙によるという方法を変えない限り、抜本的な対策は立てようがない。究極の方策としては、ポンペオ国務長官がカリフォルニアでの演説で述べたように、「中国に対抗するための新しい同盟関係」が必要かもしれない。しかし、このようなかげきな方策は、当面、実現困難だろう。
日本では、専門機関は窓口は外務省だが、実質的には関係の省庁が主管し、対応している。しかし、こんなことでは戦略的に行動する中国に到底及ばない。日本としては、各省庁の縦割り行政を抜本的に改めることは最低限必要だ。これさえ過激と見られるだろうが、外務省だけでなく、内閣がその気になれば、統一的に対応することは不可能でない。
国際機関に対する中国の戦略的外交
国際機関と聞くとひるんだり、敬遠したりする人が多いようである。そういう反応になるのは理由がないわけではない。国際機関は分かりにくい。言葉の問題もある。これらは誰にもある問題だ。また、日本の国益にあまり関係ないと思っている人もいるようだ。元慰安婦問題についても日韓の二国間関係と国際機関の両方の側面があるが、後者の方の扱いはどうしても弱くなる傾向がある。
中国の姿勢はまったく違っており、国際機関に対して国家戦略をもって臨んでいる。
現在、国連には専門機関が15あるが、そのうち、国連食糧農業機関(FAO)、国連工業開発機関(UNIDO)、国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)の4つの機関のトップに中国人を送り込んでいる。国際機関のことを少しでも知っている人なら、これがいかにものすごいことなのか、すぐ分かるだろう。
日本も国際機関で勤務する日本人職員を増やすことを目標に取り組んできたが、せいぜい2つの国際機関で同時に日本人がトップを務めていたに過ぎない。しかも、短い期間に限られていた。
中国の戦略の一つは、各省の次官を送り込んでいることだ。日本や欧米ではなかなかそうならない。国際機関の事務局長になるには選挙で勝たなければならないが、次官であっても勝てる保証はない。競争相手は大臣経験者だったりする。日本などではそのように「危ない」ところへ各省庁で最も成功した人である次官を送り出すわけにいかないという考えが強い。
中国が選挙に強いのは開発途上国を多数味方にしているからだ。そんなことができるのは、中国がカネに糸目をつけず協力しているからではないか。2019年6月に行われた国連食糧農業機関(FAO)の事務局長選で中国の屈冬玉候補が191票中108票を獲得して圧勝したのは、やはりカネの力にものを言わせたからであっ たという。この選挙にはカメルーンも立候補していたのだが、中国は同国の債務の帳消しにすることにより、同候補を撤退させた。また、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイに対しては、中国代表を支持しなければ輸出を停止すると圧力を加えた。
これらの裏事情が事実か、検証が必要であるのはもちろんであるが、中国はヒトとカネの両面で戦略的に臨んでいるのである。そんな戦略を取ることが本当によいか、疑問の余地もあるが、結果を出していることは明らかである。
そんな国際機関など勝手にすればよいというわけにもいかない。そのトップの影響力は無視できない。中国人のトップについてはあまりにも母国の利益を優先させている疑いがある。国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長(中国元財務次官)は「一帯一路」の推進のためUNIDOの経済支援プロジェクトをあからさまに利用してきたと言われている。
国際電気通信連合(ITU)でも、中国出身の趙厚麟事務局長は「一帯一路」との連携を主張している。また、中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)を米国の批判から擁護する発言もしている。
中国人がトップになっている国際機関では、台湾を締め出そうとしていることも大問題である。世界保健機関(WHO)の事務局長はエチオピア人であるが、中国寄りの姿勢が強いと批判されている。また、同機関は台湾を締め出している。
国際民間航空機関(ICAO)の柳芳事務局長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、台湾を世界保健機関(WHO)から排除していることに批判的な見解を投稿した米研究者らのツイッターのアカウントをブロックし、物議を醸した。また、台湾の総会参加を認めないのはWHOと同様である。
このような傾向を前に、米国は、自国の利益を優先させるような人物を事務局長にすべきでないと主張しているが、賛同するのは西側諸国に限られている。数の上では圧倒的に不利である。
中国は4つの国際機関でも満足せず、さる3月には世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長にも中国人を送り込もうとした。さすがにその時は米国が危機感を募らせ、中国人がトップに就けば、知的財産に関わる重要な情報が中国に流れる恐れがあるとして、シンガポール知的財産権庁長官のダレン・タンへの支持を呼びかけ、他国がそれに同調してタン事務局長が選出されたという(エコノミストOnline 2020年7月4日)。
日本や米欧諸国ができることは限られており、豊富な資金力を背景にしっかりした戦略で国際機関のトップに自国民をつける中国に対抗するのは困難だ。国際機関でのトップの選出を加盟国の選挙によるという方法を変えない限り、抜本的な対策は立てようがない。究極の方策としては、ポンペオ国務長官がカリフォルニアでの演説で述べたように、「中国に対抗するための新しい同盟関係」が必要かもしれない。しかし、このようなかげきな方策は、当面、実現困難だろう。
日本では、専門機関は窓口は外務省だが、実質的には関係の省庁が主管し、対応している。しかし、こんなことでは戦略的に行動する中国に到底及ばない。日本としては、各省庁の縦割り行政を抜本的に改めることは最低限必要だ。これさえ過激と見られるだろうが、外務省だけでなく、内閣がその気になれば、統一的に対応することは不可能でない。
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