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2018.06.06

中国は外国航空会社に台湾の呼称を改めるよう要求

 去る4月、中国の民航当局は外国の航空会社に対し、「台湾」の呼称を改めるよう要求した。対象となった会社は30以上。日本の会社は含まれていないようだ。‘Chinese Taipei’ならよいという。
 台湾の名称は複雑だ。各国での扱い、国際機関での扱い、民間での扱いの3つの次元を区別して見ていく必要がある。
 国のレベルでは、まず、日本政府は「台湾」を使っている。日本と台湾の間には外交関係がないので、実務を処理する公益財団法人が設置されており、その名称は2017年1月1日から、「公益財団法人日本台湾交流協会」に変更されている。この名称はこの財団法人が独自で決めたのではなく、日本政府の事実上の承認を得ている。
 米国は台湾との関係を法律、Taiwan Relations Actで定めており、‘Taiwan’と呼んでいる。後で述べる’Republic of China’は使用していない。
 当事者である台湾では、「中華民国」が正式の呼称であり、通称は「台湾」であるが、むしろこの通称のほうが好まれる傾向がある。
 
 中国は「中華民国」という名称を認めない。逆に、台湾も「中華人民共和国」という中国の正式名称を認めない。両者は、法的には、今でも内戦状態にあるからだ。
 中国は、また、「台湾」については、中国の一部であることが表示されれば構わないという立場のようにも見受けられるが、実際には「中国台北」という名称を使っている。
 なお、台湾では、この「中国台北」は受け入れないが、「中華台北」ならしぶしぶだが、受け入れている。どちらも奇妙な名称だが、何が違うのか。「中国台北」では中国が前面に出るので、中国政府は、それでよいとし、台湾は同じ理由で受け入れないのだ。しかし、「中華台北」であれば、「中華」は「中華民国」にも入っているので受け入れているのだろう。
 いずれにしても、この違いは台湾や中国にとっては重要なのだろうが、漢字を使わない大多数の国にとっては、いずれの訳も’Chinese Taipei’となり、どちらでも構わないということになる。
 国際機関においては、国連での扱いがモデルになる。1971年、中国を代表するのは「中華民国」でなく「中華人民共和国」となって以来、国連には台湾を表示する機会が原則的になくなった。
 しかし、統計などではどうしても台湾に言及する必要があり、その場合には、長い注を付けて誤解のないようにしている。
 たとえば、国連には「世界地理区分」という統計スキームがある。そのなかで、「アジア」とはどの国と表示されており、台湾を無視することはできない。そこで国連は、次の注を付けている。
Note on Taiwan
Several institutions and research papers using classification schemes based on the UN geoscheme include Taiwan separately in their divisions of Eastern Asia. (1) The Unicode CLDR’s “Territory Containment (UN M.49)” includes Taiwan in its presentation of the UN M.49. (2) The public domain map dataset Natural Earth has metadata in the fields named “region_un” and “subregion” for Taiwan. (3)The regional split recommended by Lloyd’s of London for Eastern Asia (UN statistical divisions of Eastern Asia) contains Taiwan. (4) Based on the United Nations statistical divisions, the APRICOT (conference) includes Taiwan in East Asia. (5) Studying Website Usability in Asia, Ather Nawaz and Torkil Clemmensen select Asian countries on the basis of United Nations statistical divisions, and Taiwan is also included. (6) Taiwan is also included in the UN Geoscheme of Eastern Asia in one systematic review on attention deficit hyperactivity disorder.
 国際的には、国連など国際機関と並んで、国際スポーツ団体でも台湾を表示する必要があり、国際オリンピック連盟では’Chinese Taipei’名義を用いている。競技種目ごとに国際団体があるが、このオリンピック方式に倣っている。
 民間での呼称は国際的に決まっているわけではない。個人、あるいは個々の企業が決めることだが、通常は所属国政府が用いている呼称、具体的には’Taiwan’を用いている。今回中国の民航当局から通告を受けた企業も、確かめたわけではないが、’Taiwan’としているのだろう。中国政府はこれを嫌い、今般の通告を発したのだ。
 オーストラリアのカンタス航空はこの通告を受け入れる方針だと伝えられているが、米国企業がどう対応するかは不明だ。
かりに、航空会社が中国の通告に従わなければ、中国への飛行を、適当な理由で阻まれることになるのだろう。それは困るので、中国政府の言うなりに対応するということである。

 米ホワイトハウスのサンダーズ報道官は5月5日、中国の通告を厳しく批判して、”We call on China to stop threatening and coercing American carriers and citizens.” “part of a growing trend by the Chinese Communist Party to impose its political views on American citizens and private companies.”と述べ、また、中国当局の要求は “Orwellian nonsense”だともこき下ろした。「ジョージ・オーウェルが書いた『ナンセンス詩』のようにわけのわからない話だ」という意味であろうか。
ナンセンスかどうかはともかく、サンダーズ報道官の言うとおりである。中国は最近台湾の孤立化を進めようと躍起になっている。世界保健機関(WHO)オブザーバー参加を阻んだのも中国の差し金だ。要するに、中国は台湾統一を実現するためにあらゆる可能な手段を用いているのである。
 さらに注目すべきは、中国が、市場が巨大であることを利用して、強引に主張を通そうとしていることである。
 
 日本の場合は、日本航空も全日本空輸も、日本政府と同様「台湾」と表示している。中国は日本の航空会社に対しても同様の要求をしてくるか、今のところ不明であるが、このような政治的な問題に日本の企業を巻き込まないよう願いたいものだ。

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