中国
2017.03.27
林鄭氏の得票数は777票で、当選に必要な選挙委員(定員1200)の過半数(601)を1回目の投票で上回った。
世論調査で56%の支持率があった前財政官、曽俊華(ジョン・ツァン)氏は365票、元裁判官の胡国興氏は21票だった。
林鄭氏は梁振英(C・Y・リョン)現長官のもとで選挙制度改革を担当。若者が「真の普通選挙の実現」を訴えた2014年の大規模デモ「雨傘運動」で、香港政府代表として若者と対話し、要求を退けたことが習指導部に評価されたが、若者の支持は得られず、世論調査の支持率は曽氏の約半分まで低下していた。
(経緯と問題点)
行政長官の選挙方法については香港の中国への返還(1997年)以来問題があった。
1984年の中国と英国との返還合意では、「香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、50年間変えない」という有名な基本原則が謳われた(第1付属文書)。
英国統治時代の「総督」に代えて新たに「行政長官」が中国政府により任命されることになり、その選出については「現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する」とだけ記載されていた(中英合意第3項4)。普通選挙、つまり、香港住民による選挙とは記載されていなかったが、香港の住民の間では民主的な政治は維持・推進したいという願望が強かった。経緯の冒頭で引用した原則はそのことを示していた。
中英合意に従い1990年に制定された香港基本法(中国の法律)では、「行政長官は地元で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順を追って漸進するという原則に基づいて規定し、最終的目標は広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きを踏んで指名したのち普通選挙で選出されることである」と記された(第45条)。つまり、基本法は、前半では中英合意をそのまま記載しつつ、後半では「指名委員会」による指名の後「普通選挙による」としたのだった。
そのように2段階の選出方法にしたのは、住民による「普通選挙」を導入せざるを得ないとしても、ただそれを認めると「香港の中国化」は困難になるし、中国本土へ民主化の影響が及ぶ危険があるので、一定の統制は必要と考え、中国政府がコントロールする「指名委員会」での指名を条件にしたのであった。形式だけは普通選挙にしても、実質は完全なコントロールを維持することとしたと言えるだろう。
2014年、全人代に提出された行政長官選出案は、形式的には普通選挙を導入しているが、事実上親中国派しか立候補できない仕組みになっており、これには反対が強く成立しなかった。そのため今回の選挙も、1200人の選挙委員だけが投票権を持つ旧来の制度で実施された。選挙委の構成には民意はほとんど反映されず、中国とビジネス面で関係の深い業界団体の代表ら親中国派が8割以上を占めると言われる。民主派にとっては、立候補はできるが、当選できない仕組みが少なくとも5年続くわけだ。
林鄭氏は中国政府の任命を経て、7月1日に就任する予定だが、その日に香港返還20周年式典が開催される。民主派はこの機会に政府との対決姿勢を強めているとも言われる。林鄭氏は記者会見で、「分断を修復し、市民を団結させることが最重要の仕事になる」と語ったが、その実現は容易でない。
香港の行政長官選挙
香港政府のトップである行政長官の選挙が3月26日に行われ、中国政府の支持を受けた前政務長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が当選した。林鄭氏の得票数は777票で、当選に必要な選挙委員(定員1200)の過半数(601)を1回目の投票で上回った。
世論調査で56%の支持率があった前財政官、曽俊華(ジョン・ツァン)氏は365票、元裁判官の胡国興氏は21票だった。
林鄭氏は梁振英(C・Y・リョン)現長官のもとで選挙制度改革を担当。若者が「真の普通選挙の実現」を訴えた2014年の大規模デモ「雨傘運動」で、香港政府代表として若者と対話し、要求を退けたことが習指導部に評価されたが、若者の支持は得られず、世論調査の支持率は曽氏の約半分まで低下していた。
(経緯と問題点)
行政長官の選挙方法については香港の中国への返還(1997年)以来問題があった。
1984年の中国と英国との返還合意では、「香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、50年間変えない」という有名な基本原則が謳われた(第1付属文書)。
英国統治時代の「総督」に代えて新たに「行政長官」が中国政府により任命されることになり、その選出については「現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する」とだけ記載されていた(中英合意第3項4)。普通選挙、つまり、香港住民による選挙とは記載されていなかったが、香港の住民の間では民主的な政治は維持・推進したいという願望が強かった。経緯の冒頭で引用した原則はそのことを示していた。
中英合意に従い1990年に制定された香港基本法(中国の法律)では、「行政長官は地元で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順を追って漸進するという原則に基づいて規定し、最終的目標は広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きを踏んで指名したのち普通選挙で選出されることである」と記された(第45条)。つまり、基本法は、前半では中英合意をそのまま記載しつつ、後半では「指名委員会」による指名の後「普通選挙による」としたのだった。
そのように2段階の選出方法にしたのは、住民による「普通選挙」を導入せざるを得ないとしても、ただそれを認めると「香港の中国化」は困難になるし、中国本土へ民主化の影響が及ぶ危険があるので、一定の統制は必要と考え、中国政府がコントロールする「指名委員会」での指名を条件にしたのであった。形式だけは普通選挙にしても、実質は完全なコントロールを維持することとしたと言えるだろう。
2014年、全人代に提出された行政長官選出案は、形式的には普通選挙を導入しているが、事実上親中国派しか立候補できない仕組みになっており、これには反対が強く成立しなかった。そのため今回の選挙も、1200人の選挙委員だけが投票権を持つ旧来の制度で実施された。選挙委の構成には民意はほとんど反映されず、中国とビジネス面で関係の深い業界団体の代表ら親中国派が8割以上を占めると言われる。民主派にとっては、立候補はできるが、当選できない仕組みが少なくとも5年続くわけだ。
林鄭氏は中国政府の任命を経て、7月1日に就任する予定だが、その日に香港返還20周年式典が開催される。民主派はこの機会に政府との対決姿勢を強めているとも言われる。林鄭氏は記者会見で、「分断を修復し、市民を団結させることが最重要の仕事になる」と語ったが、その実現は容易でない。
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