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2016.08.08

習近平政権のさらなる言論統制強化- 『炎黄春秋』編集人の交代

 『炎黄春秋』とは、中国革命の元老の次の世代、すなわち「紅二代」に属する胡徳平(胡耀邦の子)、李鋭(毛沢東の秘書)らにより出版されてきた雑誌であり、共産党中央におもねることなく比較的リベラルな発言で改革開放の推進を後押ししてきた。もちろん全く自由ではなく、一定の範囲内だが、中国ではユニークな立場にあり、例外的な雑誌である。
 しかし習近平政権の厳しい言論統制にあい、ごく最近、とうとう息の根を止められてしまった。
 『炎黄春秋』誌については、さる4月22日に当研究所HPに掲げた「習近平政権の言論統制‐2016年(その2)」で以下のような解説をした。

 「中央の宣伝部門にとっては、このような雑誌を野放しにしておくことは危険であり、様々な形で圧力を加えてきた。習近平主席が言論統制を強化する方針を打ち出したことは宣伝部門にとって追い風となり、2015年6月、当時の楊継縄編集長を辞任に追い込んだ(当研究所HP 2016.01.09付「習近平主席の2本の鞭-その2言論統制」)。
 習近平も「紅二代」だ。この雑誌の関係者は習近平と同等レベルの大物ばかりであり、その編集長を首にすることは習近平の直接の指示なしにはできないはずだ。
 一つ意外なことが『炎黄春秋』誌で起こった。同誌は閉刊近くまで追い込まれていたのだが、当局は今年の春節(旧正月)を前にして態度をがらりと変えた。習近平の側近が同誌を訪問し、天安門事件で失脚した趙紫陽の業績をたたえることを勧めたのだ(米国に本拠がある『多維新聞』3月22日付)。
 また、同誌は昨年、新春交歓会を直前になって突然中止させられたのだが、今年は開催を認められた。
 杜導正同誌社長はかつて趙紫陽の薫陶を受けた人物だ。直ちに趙紫陽の業績をたたえる一文を掲載した。趙紫陽は天安門事件で学生に同情しすぎて失脚したのであり、趙紫陽についてこのような文章を発表することは、いわゆる民主派の不満を吸収する政治的意義がある。
 ただし、習近平に変化があったか否か、この件だけで判断することは困難だ。ジェスチャーだけかもしれない。」

 そして、さる8月2日、『炎黄春秋』誌は「法定代表人が杜導正から郝慶軍に交替した」という「公告」を出した。今年の春起こったことはやはりジェスチャーだったようだ。
 ちなみに、郝慶軍は杜導正の半分くらいの年齢の(50歳未満)文学者であり、その権威は杜導正には比較にならないくらい低い人物だ。党中央としては思い通りに動かせるのだろう。
 要するに、中国において単なる党官僚の代弁者でなく、革命も重視しながら経済建設の行きすぎには苦言を呈する、したがってリベラルに見えることもある雑誌の息の根がとうとう止められてしまったのだ。習近平政権の過酷な言論統制を象徴する出来事である。


最後に、当研究所は中国の言論統制に関し次のような諸論評を掲げている。
2013.10.23 「中国の言論統制強化」
2016.01.09 「習近平主席の2本の鞭-その2言論統制」
2016.03.07 「習近平主席への公開状(抜粋)」
2016.03.28 「(短文)習近平主席に対して辞職を求める公開状の調査」
2016.03.30 「(短文)習近平に対する第2の辞任要求」
2016.04.20 「習近平政権の言論統制‐2016年(その1)」
2016.04.22 「習近平政権の言論統制‐2016年(その2)」 

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