朝鮮半島
2017.06.29
米国にとって北朝鮮は朝鮮戦争以来一にも二にも安全保障上の問題であり、しかも最近は度重なる核やミサイルの実験のためますます北朝鮮の脅威が増大している。
一方、韓国にとって北朝鮮は同じ民族であり、第二次大戦が終わって以来統一国家の樹立を目標としてきた。この実現可能性は遠のいているが、韓国としては分野を問わず、可能な限り北朝鮮との関係を進展させたいという気持ちである。朴槿恵政権時代にそのような姿勢が見られなくなったこともあったが、北朝鮮との関係改善は歴代政権の悲願であり、現政権も北朝鮮との関係改善に熱意を示している。
核については、韓国は北朝鮮と直接交渉してでもその放棄を実現させたい考えである。韓国は1992年に北朝鮮と朝鮮半島の非核化に合意しており、その時以来考えは基本的に変わっていない。
しかし、米国は北朝鮮の核問題解決について韓国の力を頼りにしようとしない。米国が強く期待するのは、北朝鮮問題にかかわるのを嫌がる中国であることは周知である。
韓国が北朝鮮問題、特に非核化について、意図と異なり役割を果たせないのは、この問題における韓国の当事者能力に微妙な問題があるからだ。
まず、北朝鮮は韓国と非核化の交渉を行う気持ちでない。北朝鮮は、「自国の安全を脅かすのは米国であり、米国に対抗するには核とミサイルが必要」と考えている。それは国際的には認められないことだし、また、客観的に見ても誤りかもしれないが、北朝鮮がそのような立場であることは事実として認める必要がある。要するに、北朝鮮が相手と考えているのは米国であり、韓国を当事者とみなしていないのである。
一方、米国は北朝鮮ほどあからさまでないが、非核化について韓国の当事者能力を完全には認めていない。米国にとって韓国は重要な同盟国だが、両国は安全保障については対等の立場になく、米国が主で、韓国は従であろう。しかも、韓国には非核化を実現する能力がない。
米国が主、韓国が従であることについては朝鮮戦争以来の経緯がある。というのは、同戦争を戦ったのは、形式的には国連軍と北朝鮮軍であり、途中から中国の「義勇軍」が北朝鮮側に加わった。そして1953年に成立した休戦協定に署名したのは国連軍、北朝鮮軍、中国軍の各司令官であり、その中に韓国軍の名はなかった。これは有名な故事である。国連軍は実質的には米軍であり、司令官は米軍の将軍であった。そのため、韓国は当事者扱いされていなかったなどといわれたこともあった。
しかし、韓国軍を他の参加国軍と同様に扱うのは問題だ。朝鮮戦争で国連軍に参加した国の数は、医療支援まで含めると20を超えた。朝鮮半島で行われた戦争であり、当然だったが、その中で韓国軍が抜群に多かった。休戦交渉は米軍の代表によって行われたが、韓国軍の代表も参加していた。そして、休戦協定の署名は米軍の司令官によって行われたが、米軍や韓国軍など全参加国軍の代表としての署名であった。したがって、韓国軍は朝鮮戦争の休戦協定の当事者でなかったというのは誤りであり、むしろ一部であったと見るべきである。
それはともかく、国連軍の主力が米軍であったことは紛れもない事実であった。その後60年以上が経過し、韓国軍の実力は朝鮮戦争時とは比較にならないくらいレベルアップしたが、韓国の安全保障を、形式的には国連軍が、実質的には米軍が支えているという状況は基本的には変わっていない。
そのことの象徴(の一つ)が、朝鮮半島有事の際の作戦指揮権であり、これは朝鮮戦争以来米軍にゆだねられている。もっとも、作戦指揮権は2012年から韓国軍に移すことが2007年に合意された。しかし、その後の検討で2020年代中ごろまで延期されている。ともかく、韓国の当事者能力については、歴史的経緯からくる問題がまだ残っていると見るべきだろう。
先日、文正仁大統領補佐官による米韓合同軍事演習の縮小についての発言は、その可能性に言及しただけであったが、米側から反発の声が上がった。米国政府としての公式の反応は承知していないが、そのような反発が起こったことは驚きでなかった。
米国が韓国の防衛にコミットし、さまざまな努力を払っているのは、純粋に韓国を助けたいためではない。そのような気持ちもあるだろうが、基本的には東アジアにおける米国の安全保障戦略なのであり、むしろ米国と北朝鮮の関係である。文補佐官の発言はその戦略に意見を言ったと取られたのではないか。
韓国は朝鮮半島の非核化にかかわり、その実現に努力する理由も正当性もあるにもかかわらず、情勢の変化により、北朝鮮からは言うまでもなく、米国からも当事者性を完全には認められていない。そのように困難な立場にあることは我々としても理解すべきだが、韓国としても南北関係を重視するあまり米国との間で齟齬が生じることがないよう細心の注意が必要だと思われる。
北朝鮮をめぐる韓国と米国の立場の相違
文在寅大統領とトランプ大統領との会談(米国時間6月29~30日)で北朝鮮問題が話し合われる。韓国と米国はこの問題をめぐって原則論では一致しているように見えるが、実際には、両者の立場はかなり違っている。米国にとって北朝鮮は朝鮮戦争以来一にも二にも安全保障上の問題であり、しかも最近は度重なる核やミサイルの実験のためますます北朝鮮の脅威が増大している。
一方、韓国にとって北朝鮮は同じ民族であり、第二次大戦が終わって以来統一国家の樹立を目標としてきた。この実現可能性は遠のいているが、韓国としては分野を問わず、可能な限り北朝鮮との関係を進展させたいという気持ちである。朴槿恵政権時代にそのような姿勢が見られなくなったこともあったが、北朝鮮との関係改善は歴代政権の悲願であり、現政権も北朝鮮との関係改善に熱意を示している。
核については、韓国は北朝鮮と直接交渉してでもその放棄を実現させたい考えである。韓国は1992年に北朝鮮と朝鮮半島の非核化に合意しており、その時以来考えは基本的に変わっていない。
しかし、米国は北朝鮮の核問題解決について韓国の力を頼りにしようとしない。米国が強く期待するのは、北朝鮮問題にかかわるのを嫌がる中国であることは周知である。
韓国が北朝鮮問題、特に非核化について、意図と異なり役割を果たせないのは、この問題における韓国の当事者能力に微妙な問題があるからだ。
まず、北朝鮮は韓国と非核化の交渉を行う気持ちでない。北朝鮮は、「自国の安全を脅かすのは米国であり、米国に対抗するには核とミサイルが必要」と考えている。それは国際的には認められないことだし、また、客観的に見ても誤りかもしれないが、北朝鮮がそのような立場であることは事実として認める必要がある。要するに、北朝鮮が相手と考えているのは米国であり、韓国を当事者とみなしていないのである。
一方、米国は北朝鮮ほどあからさまでないが、非核化について韓国の当事者能力を完全には認めていない。米国にとって韓国は重要な同盟国だが、両国は安全保障については対等の立場になく、米国が主で、韓国は従であろう。しかも、韓国には非核化を実現する能力がない。
米国が主、韓国が従であることについては朝鮮戦争以来の経緯がある。というのは、同戦争を戦ったのは、形式的には国連軍と北朝鮮軍であり、途中から中国の「義勇軍」が北朝鮮側に加わった。そして1953年に成立した休戦協定に署名したのは国連軍、北朝鮮軍、中国軍の各司令官であり、その中に韓国軍の名はなかった。これは有名な故事である。国連軍は実質的には米軍であり、司令官は米軍の将軍であった。そのため、韓国は当事者扱いされていなかったなどといわれたこともあった。
しかし、韓国軍を他の参加国軍と同様に扱うのは問題だ。朝鮮戦争で国連軍に参加した国の数は、医療支援まで含めると20を超えた。朝鮮半島で行われた戦争であり、当然だったが、その中で韓国軍が抜群に多かった。休戦交渉は米軍の代表によって行われたが、韓国軍の代表も参加していた。そして、休戦協定の署名は米軍の司令官によって行われたが、米軍や韓国軍など全参加国軍の代表としての署名であった。したがって、韓国軍は朝鮮戦争の休戦協定の当事者でなかったというのは誤りであり、むしろ一部であったと見るべきである。
それはともかく、国連軍の主力が米軍であったことは紛れもない事実であった。その後60年以上が経過し、韓国軍の実力は朝鮮戦争時とは比較にならないくらいレベルアップしたが、韓国の安全保障を、形式的には国連軍が、実質的には米軍が支えているという状況は基本的には変わっていない。
そのことの象徴(の一つ)が、朝鮮半島有事の際の作戦指揮権であり、これは朝鮮戦争以来米軍にゆだねられている。もっとも、作戦指揮権は2012年から韓国軍に移すことが2007年に合意された。しかし、その後の検討で2020年代中ごろまで延期されている。ともかく、韓国の当事者能力については、歴史的経緯からくる問題がまだ残っていると見るべきだろう。
先日、文正仁大統領補佐官による米韓合同軍事演習の縮小についての発言は、その可能性に言及しただけであったが、米側から反発の声が上がった。米国政府としての公式の反応は承知していないが、そのような反発が起こったことは驚きでなかった。
米国が韓国の防衛にコミットし、さまざまな努力を払っているのは、純粋に韓国を助けたいためではない。そのような気持ちもあるだろうが、基本的には東アジアにおける米国の安全保障戦略なのであり、むしろ米国と北朝鮮の関係である。文補佐官の発言はその戦略に意見を言ったと取られたのではないか。
韓国は朝鮮半島の非核化にかかわり、その実現に努力する理由も正当性もあるにもかかわらず、情勢の変化により、北朝鮮からは言うまでもなく、米国からも当事者性を完全には認められていない。そのように困難な立場にあることは我々としても理解すべきだが、韓国としても南北関係を重視するあまり米国との間で齟齬が生じることがないよう細心の注意が必要だと思われる。
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