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2016.08.22

ミャンマー・中国関係‐アウン・サン・スー・チー国家顧問の訪中

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が8月17日から21日まで中国を訪問した。この訪問は両国にとって重要な意義があると思う。
 ミャンマーでは今月末に、ビルマ族、各少数民族、武装グループがすべて参加する大同団結会議(新パンロン会議)が開催される予定だ。8月31日開催とも言われている。
 日本などでは少数民族といっても深刻な感じはないが、ミャンマーでは大問題だ。ミャンマーの政治はこれまで軍政とアウン・サン・スー・チーが率いるNLD(国民民主連盟)などが求める民主政治の2本柱で語られることが多かったが、実は、1948年に英国の植民地支配を脱して独立して以来これに少数民族が加わる三つ巴状態であった。ただ、少数民族問題はあまり進展しなかったために、軍と民主勢力のせめぎあいだけに焦点が当たってきた。
 実際には、少数民族問題はミャンマーの政治に強い影響を及ぼしていた。軍が政治を牛耳ってきたのは全人口の3割近い少数民族と政府が対立状態にあるからだ。彼らにとって政府はビルマ族であり、不信感は根強い。
 一方、政府はなんとか武装闘争をやめさせようと努力してきたが、現実には「国軍」に頼らざるを得なかった。
 しかし、民主化勢力にとって「国軍」は民主化を妨げる敵であった。その本質が露呈されたのが1990年の総選挙であり、NLDが大勝したが、時の軍事政権は選挙結果を完全に無視して政権の移譲を拒否した。それ以来、「国軍」は民主化に対する反対勢力となっており、民主的に選ばれた政権への移行が実現した今でも、議会では4分の1の議席を憲法上確保しており、国政に対して決定的な影響力を保持している。
 つまり、民主化勢力にとって、「国軍」は必要な友であると同時に敵でもある。また、「国軍」としては少数民族の武装闘争を鎮圧しなければならないが、過度の民主化には抵抗せざるを得ない。さらに少数民族としては、正当な要求を聞き入れてもらえずやむを得ず戦うが、敵は「国軍」だけでなくビルマ族主体の政府であり、NLDである。

 さる3月に発足した、アウン・サン・スー・チー氏が率いる新政権は少数民族との和解に力を注いできた。それが実現しない限りは軍の影響力を排除できず、憲法を民主的な内容に改正することもできず、真の民主政治を実現できないからだ。
 しかし、建国以来70年近い間解決しなかった少数民族問題であり、和解は簡単なことでない。新パンロン会議は当初7月の開催を目指していたが8月にずれ込んだ。ごく最近まで少数民族側には新政権に対しても不信感をあからさまに表明する指導者もおり、さらに一部地域では武装闘争が継続していた。はたして全少数民族が会議へ参加するか危ぶまれていたのだ。

 このようななか、会議まであと2週間というタイミングでアウン・サン・スー・チー国家顧問が訪中した。しかも4日間も中国に滞在する。新政権の最高指導者として国務に忙殺されているはずであり、常識的にはありえない訪問だが、2つのことが読み取れる。1つは、会議の開催準備が整い、スー・チー国家顧問が1週間近く国を離れられるようになったことであり、もう1つは少数民族が同会議に協力するよう中国が協力したことである。
 今回の会議成功のカギを握っているのはカチン州であり、カチン独立機構(KIO)とその軍隊(KIA)は数年前からミャンマー政府と武装闘争状態に陥っていた。この紛争で仲介役を務めてきたのが中国である。ミャンマーと中国との間には約1千キロの国境があり、ミャンマーの少数民族は中国との国境近くに居住しているため、かねてより中国との往来も、また、もめ事も多いが、カチンの問題について中国は不信感の強い政府とカチン族を雲南省の瑞麗(ruili)に招いて両者の協議を手助けするなどしてきた。
 中国とカチン州の関係は深く、カチンからの難民数千名が中国領内に逃れてきており、中国としてはカチンの和平が実現し、難民が帰国することを望んでいる。
 一方、ミャンマー側は、カチンの武装勢力に中国側から武器が提供されていること、ミャンマーの資源が中国に輸出され、環境破壊も起きていることなどへの懸念がある。なかでも36億ドルのプロジェクトであるミッソン・ダムは中国の資本によって建設されるがほとんどすべての発電は中国へ送られることになっていたところ、環境破壊のために反対が強くなり、建設は中止されている。
 しかし、スー・チー最高顧問は中国との関係を進め、かつ、カチン州の問題を解決して新パンロン会議を成功させるめどが立ったものと思われる。訪中に先立って、会議に対する中国の関与を求める考えを側近に漏らしたとも報道されている。

 一方、中国はかつてミャンマーの軍政を支持し、スー・チー氏から批判されていたが、新政権との関係を回復、増進させる方針に転換したようだ。王毅外相は新政権成立後各国要人に先立ってミャンマーを訪問し、関係改善への熱い気持ちを示し、そして今回、スー・チー最高顧問を最大限の歓待で迎えた。同顧問は9月に米国を訪問することになっており、また、日本からもスー・チー最高顧問の訪日を要請しているが、それに先立って実現したのだ。訪問の順序という点ではいろいろな考えがありうるが、ミャンマーとしては新政権の今後を左右する新パンロン会議を成功させるために必要だったのだろう。

 もちろん中国は慈善事業でミャンマーに協力しているのではなく、注文があるのは当然だ。ミッソン・ダムの凍結解除を求めるのではないかという観測が出ているが、これもカチン州にあり、住民の反対はなお強い。ミャンマーの新政権と中国との間では、環境への影響がより少ない小型のダムを複数建設することなど代替案を模索する動きもあるそうだ。
 また、中国はかねてからミャンマーの港湾利用のためミャンマー政府の協力を必要としている。ミャンマーの西海岸にあるチュオピュ港の建設とパイプラインで雲南とを結ぶ計画も進めている。
 このようなプロジェクトの重要性もさることながら、中国としては軍政時代の反動で反中国的傾向が強くなったミャンマーを再び中国に引き寄せ、東南アジアでカンボジア、ラオスに次ぐ親中国国にするという戦略を重視していると思われる。

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