平和外交研究所

2月, 2020 - 平和外交研究所

2020.02.29

新型コロナウイルスによる感染-日韓比較

新型コロナウイルスによる感染について、日韓両国の状況は類似している面とそうでない面がある。医学的・疫学的な検証が必要な問題だが、両国の状況をざっと比較しておきたい。

中国からの入国規制(水際規制)については、日本と韓国は他の諸国と異なり、中国の地域を限定して入国を禁止している。日本は中国の湖北省(武漢市はその一部)と浙江省、それに加えて韓国の大邱(テグ)市と慶尚北道の一部地域からの入国も禁止している。韓国も湖北省に限定して入国を禁止している。

しかし、国内でとっている感染予防・コントロール措置は大きく違っている。韓国政府が取っている措置は日本政府に比べはるかに厳しい。中国から韓国に入国する人に対して、政府のモバイルアプリケーションをダウンロードさせ、健康情報を毎日報告させるほか、もし2日間、報告がなければ、政府から連絡をかけ、所在を追跡している。感染者は、個人情報を収集されるということを告知され、最近の移動経路の公開などについて拒否することは認められていない。

このような措置は、日本では必要でないと考えられたためか、人権侵害になることを恐れたためか、取られていない。なお、感染者の移動経路を追跡するのは中国などほかの国でも行われているが、韓国政府が国民に公開している情報はより具体的だという。

韓国政府の情報提供は日本よりはるかに詳細である。感染者の性別・国籍・年齢、感染経路、感染が確認された日、感染者のクレジットカードの利用明細、防犯カメラの映像、スマートフォンの位置情報、公共交通機関の利用履歴、出入国情報現在の入院機関、接触した人数まで国の機関のホームページで提供している。

このような詳細な情報提供について、米国の「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」紙は「感染者の追跡に21世紀的なデジタル手段を駆使していて、公衆保健の面で非常に興味深い」と評価する専門家の声を伝えている。ただし、手放しで称賛しているのでなく、ここまで踏み込んだ措置は欧米など多くの国々から「個人のプライバシー侵害」という論争を呼ぶ可能性があるとも指摘している。
なお、同紙は中国政府の対応に強く批判的であり、China is the real sick man of Asiaと過激な題の記事を掲載した。中国政府はその記事に関連して3名の同紙記者を国外追放処分としたので、米国政府は報復する考えを示した経緯がある。
ウイルス検査でも韓国は日本をはるかにまさっている。1日当たりの検査数は5千人~1万4千人であり、2月29日までに計7万8千人が検査を終えている。

日本では、2月18~24日間の7日間で計約6300件、1日平均約900件、検査が行われていたと加藤勝信厚労大臣が国会で答弁した。ざっと、韓国の10分の1以下である。日本の検査があまりにも少ないのは、民間の力を活用しないからであると指摘されており、検査当局の姿勢に問題があるともいわれている。医師が検査が必要と判断しても保健所に問い合わせることが必要という仕組みにも問題があるという。

日本政府は25日、新型コロナウイルス対策本部を開き、感染の拡大に備えた対策の基本方針を決定した。また安倍首相は28日、全国すべての小中学校や高校などに来月2日から春休みに入るまで臨時休校とするよう要請した。が、韓国が取っている措置には遠く及ばない。

新型コロナウイルスによる感染に関する緊急対策費の点でも、日本は153億円であり、 韓国の1800億円(26日時点。防疫など緊急対策費と経済対策費を含む)の10分の1以下である。日本の対策費は後に増額される可能性があるのでこれらの数字だけで完全な比較はできないが、それにしても日本の追加支出は少ない。なお、シンガポールは5000億円、米国2700億円を緊急対策費としている。

しかしながら、韓国では強力な予防・コントロール措置にもかかわらず、感染者数が20日頃より急増した。しかも1日の増加数が29日現在も大きくなっている。つまり、増加傾向がさらに激しくなっているのである。26日には1000人を超え日本(891人)を追い越した。

こうなった原因は、大邱市の新興宗教団体「新天地イエス教会」において感染が急増したためである。この教会と慶尚北道・清道の病院に関連した感染者の数は、27日午前の時点でそれぞれ731人、114人と、韓国全体の感染者数の大部分を占めている。しかし、韓国政府が強力な対策を講じているにもかかわらず、なぜこの教会を中心に感染者が急増したかは今のところ謎である。

2020.02.24

新型コロナ「入国制限」「隔離」各国政府と日本の対応比較

ザページに「新型コロナ「入国制限」「隔離」各国政府と日本の対応比較」を寄稿しました。
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2020.02.22

ダイヤモンドプリンセス号での検疫体制の問題点

 日本における新型コロナウイルスによる感染数は2月20日現在で、728人(うちクルーズ船での感染数は634人)とまだ増え続けている。
 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(以下DP)からの非感染者の下船は予定通り19日から始まり、21日に終わるまでの3日間で970人が下船した。
 また、全国各地でも感染者が出てきており、日本全体が新型コロナウイルスによる感染への対応に追われている。
 
 日本政府は、武漢からの邦人の帰国、隔離、ウイルス検査、帰宅許可などについては正しく対応したが、DPに関しては次のような問題があった。

 1月20日に横浜から出航したDPが同港へ帰ってきたのは2月3日であった。その時点では、1月25日に香港で下船した80歳の男性乗客が新型コロナウイルスによる肺炎と確認されたことは分かっていた。
また、2月1日には那覇港に入港し、乗客の中に複数の発症者がいた(2月20日の国立感染症研究所の資料)。那覇では乗客のほとんどすべてが一時下船したので、発症者から沖縄県内に感染が広がった可能性があったという。

 そのような経緯はあったが、日本政府はDPの横浜港への入港を拒否しなかった。

 後に香港発のクルーズ船「ウエステルダム」が沖縄県などに入港許可を求めたが、日本政府は感染者がいる可能性があるとし、出入国管理・難民認定法に基づき入港を認めなかった。

 DPの場合は横浜港への入港を認めたが、検疫が条件であった(検疫法この第四条)。DPは日本政府の指定した場所に停泊し、検疫を受けることとなった。

 ここで日本政府は一つの大きな判断を行った。検疫をDPの船内で行うこととしたのである。

 一般に検疫は隔離状態で行われる。たとえば、武漢からチャーター機で帰国した人たちはいったん宿舎に入れられ、そこで検疫を受けた。このオペレーションだけでも大変困難であったが、それは大きな問題なく実行された。

 DPをチャーター機とみれば、検疫をDPの船内で行うのでなく、乗客・乗員をいったん下船させ、隔離に適した場所に移すことになったであろう。暖かい季節ならば、埠頭にテントを張り検疫を行うこともあり得た。

 しかし、DPの場合は、4千名近い乗客・乗員のうちかなりの人数が感染している疑いがあったので、日本政府はDPの船上で検疫を行うこととした。そして船内を隔離区域(レッドゾーン)と安全区域(グリーンゾーン)に分けた。加藤勝信厚生労働相が国会で答弁したとおりである。

 だが、これは中途半端な措置であり、実際には検疫体制を確保することはできなかった。

 2つ大きな問題があった。第1に、船はさまざまな人が交流するのに便利なように作られており、船の機能上、構造上、隔離施設と安全区域を截然と区別することは困難であった。

 第2に、船は船長の指揮下にあるという性格から脱却できなかった。真の検疫所にはなりえなかったのだ。船の中の一部を検疫所として使わせてもらっただけなのであった。政府の方では使わせてもらったという認識でなかっただろうが、実際には船を隔離地域(検疫所)と安全地域に分けても、それは小手先の措置でしかあり得なかった。

 事実、隔離区域と安全区域の区別が徹底されていないことは多くの乗客に目撃されていた。

 船内の状況を視察(調査?)した岩田健太郎神戸大学教授は、区別が維持できていない状況に非常な危機感を覚え、告発した。その告発に反論しようとした橋本岳厚労省副大臣は、驚くべきことに、岩田教授の指摘を裏付ける画像をツイートした。

 DPで検疫を開始する際、政府はこのような困難性を予測すべきであった。もし予測できていたならば、大きな決定が必要であることに気づいたであろう。政府の中には検疫について詳しい専門家は多数いる。その人たちは気づいていたと思うが、政府を動かした形跡はなかった。見えてきたのは、現場で献身的に働いている人たちが両区域の区別を守ろうと必死になって努力する姿と乗客の隔離への協力、つまり自室からでないことであった。

 日本政府は、後に船内が危険な状況になっていることに気づいたかもしれない。岩田教授の告発も橋本副大臣の証言もあったので、当然気づいたはずである。しかし、必要な決定を行わないで走り出した検疫体制は変えなかった。政治的な理由から、すべてはうまくいっているという説明は変えられなかったのかもしれない。そして、政府は隔離区域と安全区域との区別が維持されているといい続けた。

 日本政府がDP船上で検疫を行う際に必要な決定を行わなかったことは残念だが、なにせ実態が分かっていない新型コロナウイルスのことだし、今まで経験したことがない数の検疫が必要な事態であり、日本政府の怠慢も大目に見られるかもしれない。

 しかし、検疫所として問題があることが分かってからは、隔離区域と安全区域は区別されているといい続けるべきでなく、検疫体制を抜本的に変更すべきであった。具体的には、少なくとも次の2点を含む決定をすべきであった。

 ①DP全体を検疫所とする。つまり、船舶を借りて検疫を行うのでなく、隔離が徹底できる場所にすることである。
 ②それを適正に運営する体制を構築する。3千数百人について検疫を行う権限も実力も備えた体制である。船内で検疫を妨げる者が出てくれば、実力で排除することも必要だったかもしれない。自分たちだけでできなければ、警察の力を借りることも必要だったかもしれない。

 このような決定は従来からの検疫の常識では不可能であり、できたとすれば、それは政府をおいて他にはありえなかった。

 政府は新型コロナウイルス感染症対策本部を設置し、安倍首相が本部長になっていた。ところが、閣僚の欠席が相次ぐ有様であった。安倍首相も14日には8分しか会議に居なかった。安倍首相の実際の行動は、2月9日の「やるべき施策はちゅうちょなく実施する」との発言とはまるで違っていた。

 検疫の実態について憂慮が深まっても、担当の加藤厚労相は現場へは行かなかった。その部下の副大臣がひどい状況を伝える写真を撮ってきても動かなかった。

 政治家の認識不足と怠慢は言い逃れできないのではないか。

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