平和外交研究所

2015 - 平和外交研究所 - Page 22

2015.09.10

安保法制案を強行採決すべきでない

 参議院特別委員会における安全保障関連法案の審議は山場を迎えているが、強行採決すべきでない。次の理由からだ。

 審議においては、法案の内容、とくに条文に即した質疑は驚くほど少ない。これは質問する側と答える側両方の責任である。また、質問と答弁で繰り返されるのは、「政府はどう考えるか」と「政府は○○しない」ということであり、それは政府の政策、方針の質疑にすぎず、法案の内容が適切か否かとは別の問題である。
 典型的な例は、法案には他国の領土で自衛隊が武力侵害を排除することが明記されているのに、政府は「自衛隊が外国領に派遣されることは絶対ない」と答弁し、それ以上、たとえば法案の記載と政府答弁が矛盾してることなどへ質疑が進まないことである。法律は一政府の見解を超えて普遍的な意味を持つ。持たなければならない。現政府が○○という考えであっても次の政府は異なる考えで対応することは避けられない。

 集団的自衛権の行使を認めることは憲法違反だと圧倒的多数の学者が判断しており、また一般の国民も強い疑問を抱いている。このことを軽視したり、無視したりしてはならない。政治家は、学者は政治に責任を持たないなどと傲慢に構えてはならない。

 わが憲法は、日本が国際紛争に巻き込まれることを厳禁している。これは敗戦という苦痛に満ちた経験を経て作られた根本原則であり、政府の見解で解釈を変更してはならない。「非戦闘地域」に限っての「後方支援」であれば紛争に巻き込まれないというのは机上の空論だ。このように姑息な手段を用いて憲法の禁止をかいくぐってはならない。

 日本の安全を確保するためにはどうしても米軍に軍事的・あるいは「自衛的」に協力する必要があると政府が考えるならば、憲法を改正し、また、日米安保条約を改正することを提議し、国民的議論を経て国家として判断しなければならない。

 我が国は「自衛」であれば憲法に抵触しないという解釈を始め、さらに「自衛」の内容を一定程度拡大してきた。それは国民にも理解され、受け入れられたが、今回の法制案は拡大しすぎであり、「自衛」の理論は破たんしている。つまり、これまで吹いてきた「自衛」という風船は膨らませすぎて破裂している。

以下は当研究所HPに掲載した安保法制関連の論考の一覧である。ご参考まで。

2015.07.15
そもそも「安保法案」とは?(国際貢献編)
2015.07.13
そもそも「安保法案」とは?(日本の防衛編)
2015.06.16
(再掲)安保法制改正案が憲法違反の理由
2015.06.08
安保法制改正案は憲法違反の疑いが濃厚
2015.06.04
6月1日の安保法制審議もかみ合わなかった
2015.06.01
「存立危機事態」と「武力攻撃事態」・国会での質疑に問題あり
2015.05.17
ガイドライン再改定で日米同盟はどう変わる?
2015.04.30
安倍首相の訪米 2015年4月
2015.04.28
(短文)日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定
2015.04.09
機雷除去の是非
2015.03.23
安保法制‐「自衛」か「紛争に巻き込まれない」か
2015.03.15
安全保障関連法案‐国連決議を条件にするべきだ
2015.01.29
自衛隊は邦人を救出出来るか
2015.01.16
グローバルな日米同盟?
2015.01.12
安全保障に関する法律改正
2014.12.12
安倍政権の安全保障政策
2014.12.10
安倍政権の外交安全保障
2014.11.14
集団的自衛権 行使は人道的措置に限って
2014.11.07
機雷除去について誤解が生じつつある
2014.10.23
「イスラム国」空爆と「保護する責任」
2014.10.20
日米防衛指針の中間報告2
2014.10.05
日米防衛指針の中間報告
2014.09.29
シリア空爆と集団的自衛権
2014.09.12
<集団的自衛権を考える>日本人母子が乗る米艦艇は防護できる?「事例編」
2014.09.07
<集団的自衛権を考える>武力行使ができるのはどんな時?「基礎編」
2014.07.27
集団的自衛権の閣議決定を急いだ理由
2014.07.02
集団的自衛権に関する閣議決定ではイラク戦争参戦は避けがたい
2014.06.21
集団安全保障へ参加する?
2014.06.11
集団的自衛権-わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合とは
2014.06.10
集団的自衛権に関する1972年の政府見解
2014.06.09
集団的自衛権論議-他国の領域へ自衛隊を派遣しない
2014.06.05
PKOと多国籍軍への参加
2014.05.16
安保法制懇の報告-グレーゾーン
2015.09.09

(案内)中国の今後の金融為替政策

 中国は最近人民元を切り下げた。膨大な外貨準備は減少傾向にある。中国人民銀行(中央銀行)は今後どのような政策運営を行なうか。「国際金融のトリレンマ」である「独立した金融政策」「自由な資本移動」「安定した為替相場」をいかにミックスしていくか。唐鎌大輔・みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの「中国は「為替の安定」を放棄するか」(ロイターFX Forum | 2015年 09月 3日掲載のコラム)は示唆に富む論考であり、参考になった。
2015.09.08

(短文)抗日戦争記念と江沢民の扱い

 これは、いわゆるチャイナ・ウォッチング、しかも今や時代遅れになりつつある分析手法かもしれないが、参考になる。

 抗日戦争70年記念パレードで、江沢民、胡錦濤、曾慶紅ら現役を退いているかつての国家指導者が天安門上に姿を現した。
 胡錦濤は前国家主席。江沢民はさらにその前の国家主席。曾慶紅は江沢民の側近とも言われ、胡錦濤の下で国家副主席を務めた。習近平政権の反腐敗運動により石油閥が検挙されるのに関連して、規律検査委員会の追及が曾慶紅にも、さらには江沢民にも及ぶのではないかと噂され、とくに江沢民については、その名や顔写真を掲載したポスターや看板などが撤去され注目されたこともあった。

『多維新聞』9月4日付によれば、「時局眼(時代の目といったところか)」というツイッターサイトが軍事パレードの報道について次のように解説している。 
 今回の記念パレードの報道ぶりは、2009年10月1日の国慶節パレードと比べはっきりとした違いがある。2009年の時は、江沢民(すでに引退していたので現在と同じ立場)と9人の政治局常務委員は赤色の見出しで報道され、江沢民は胡錦濤のすぐ後、常務委員より先に並べられていたが、今回、江沢民は普通の黒色の小さい字で、しかも政治局常務委員の後に並べられていた。
 中国の報道では、指導者の序列ははっきり決まっている 第18回党全国代表大会後規則が変わり、新旧の指導者が同時に公の場に出る場合、前指導者であっても序列を現指導者のすぐ後にはしないこととなった たとえば、2013年1月21日の楊白冰の葬儀の際、江沢民は第12番目であった。7人の政治局常務委員がまず並び、その次に当時なお国家的指導者として活動していた胡錦濤、呉邦国、温家宝、賈慶林が並び、江沢民はその次に置かれた。
 1月22日の新華社電によると、そのような規則変更が行われたのは、第18回党大会後、江沢民が、国家の指導者とともに公の場に出る際、自分を特別扱いせず、他の老幹部と同じにしてほしいと中共中央に要請し、認められたからである。
 9月4日の人民日報は、それを実行し、以前のように国家的指導者の名前をいちいち列挙することはやめ、もっとも重要なことに報道の重点を絞っていた。

 以上、『多維新聞』および「時局眼」は、中国の報道方針についての変更を解説しているが、その中から、江沢民は立派な指導者であり、また謙譲の徳を備えた人物だとみなされていることも読み取るべきなのだろう。つまり、江沢民についてはかつて何回か追及の噂が出ていたが、問題はないと中央が判断し、今回それを示したのだ。

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