平和外交研究所

2014年12月

2014.12.10

安倍政権の外交安全保障

THEPAGEに12月7日掲載された。

「第2次安倍政権が成立してから約2年になります。この間の外交活動はきわめて活発でした。安倍首相が訪問した国の数は2014年9月の時点で49カ国にのぼり、歴代トップとなりました。しかも、外国訪問の頻度は1ヵ月あたり2・3ヵ国と歴代の首相に比べ抜群の高さでした。49番目となったスリランカ訪問の後も、ニューヨークの国連総会、ミラノのアジア欧州会合(ASEM)、北京のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と続きましたので、安倍首相にとって文字通り席が温まる暇はありませんでした。
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、数々の困難を克服してこれだけ活発に外交活動を展開してきたことは特筆してよいでしょう。
 安倍首相の外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われています。「俯瞰」とは高いところから全体を見渡すという意味です。日本として米国やアジアの近隣諸国との関係を重視していくのは当然ですが、特定の国、地域に限定することなく地球規模で各国との友好関係増進に努めてきたからです。
日本が厳しい国際環境に置かれているなかで、安倍首相は積極的な安全保障政策を講じるとともに、日本としてはあくまで平和に徹し各国との協力関係を促進する「積極的平和主義」であることを強調しています。日本は、アジアのみならず世界において大きな責任を有しています。各国は日本が責任ある立場で、戦略的に積極的な施策を講じることを理解し、歓迎しています。Japan is back、つまり「日本が戻ってきた」という言葉で日本の姿勢を評価する研究者もいます。
 日本外交にとって、米国との関係はこれまでも、また今後もきわめて重要であり、安倍政権は米国の信頼を取り戻すことを重点施策の一つと位置付け、国の内外でその方針を実行に移してきました。東シナ海での協力は一つの例です。2013年秋には、日米両国の外務・防衛相が安全保障面での協力のあり方を協議するいわゆる2+2が久しぶりに開催されました。今後日米両国は、厳しい国際環境に対応するために防衛協力のあり方を示す新しい指針(ガイドライン)の策定に向け協議を継続していくことになっています。
 一方、アジア諸国との関係では、安倍首相はすでにすべての東南アジア諸国を訪問しており、またオーストラリアなどとも関係増進に努めていますが、日本のもっとも重要な隣国である中国および韓国との関係ではまだ問題があります。
 第2次安倍政権の発足以来懸案であった首脳同士の会談については、中国の習近平主席とは先般のAPEC首脳会議の際に会談が実現しました。これは一つの大きな前進でした。安倍・習会談に先立って行なわれた事務レベル協議では、東シナ海において不測の事態の発生を回避するため危機管理メカニズムを構築することで意見が一致しました。一方、中国は尖閣諸島に対する主張を維持していますし、昨年には防空識別圏の恣意的な設定や中国軍機が自衛隊機に異常接近する事態が起きています。両国の首脳は共通の関心事について機動的に、緊密に協議し、問題の迅速な解決を図っていかなければなりません。
 韓国との間では、米国大統領が仲介する形で、あるいはAPECなど多国間外交の場で安倍首相と朴槿恵大統領が短時間言葉を交わしただけで両首脳間の直接の会談は実現していません。韓国側は、慰安婦などいわゆる歴史問題に安倍首相が積極的に取り組むことを求め、その面での進展がないと首脳会談には応じないという姿勢です。歴史問題については韓国と中国の立場は共通しており、また、歴史問題の扱いを誤ると米国との関係を不必要に悪化させる危険もあります。それだけにこの問題の扱いは非常に困難ですが、日本としては中国および韓国との関係で加害者であったという歴史を軽視することなく、適切に対処していく必要があります。日韓関係は基本的にはまだ困難な状況にありますが、雰囲気が若干変化し、関係改善の兆しとも取れる面も出てきつつあるのでさらなる前進を図る必要があります。
 日中関係も日韓関係もきわめて重要であることは言うまでもなく、関係を増進するためには双方の努力が必要です。国家間で利害関係が一致しないことは何ら不思議でなく、時に極端な考えや行動に走り、いたずらにナショナリスティックになる危険がありますが、双方ともそのような危険を回避し、必要であれば我慢強く関係を増進させていかなければなりません。」

2014.12.09

周永康の処分か雨傘革命か

「最近処分された前政治局常務委員の周永康や前中央軍事委員会副主席の徐才厚らによる不正行為と香港の雨傘革命とかけて何と解く」「心は、ともに中国の指導者を恐れさせている」とでも言いたくなるほどこれらの人の処分と雨傘革命は結びつかないが、中央社会主義学院(共産党のみならずいわゆる民主諸党派が参加する趣旨で設立されたので「統一戦線」の学院とみなされている)の王占陽教授と人民解放軍の高級軍人とがこの二つの問題をめぐって激しく論争した。12月8日の香港紙『明報』の報道を以下に紹介する。

王教授は、『環球時報』紙(人民日報傘下の通俗紙)の年次会議で、「雨傘革命はジャスミン革命(チュニジアから始まった民主化革命)と言われるが、たいしたことはない。本当に怖いのは周永康や徐才厚のように銃をもった腐敗分子である」と発言した(注 周永康は軍人でないが、公安の元締めであるのでこのように表現されてもおかしくないのであろう)。
 これに対して出席していた3人の解放軍将官から激しい反論がなされ、昼食時にも王教授は彼らに取り囲まれた。王教授によると、議論の冒頭に「ジャスミン革命はわれわれからどのくらい遠いか」という短編の映画(ビデオ?)が放映されており、香港の雨傘革命はジャスミン革命の例とみなされていた。
 王教授の発言に最初に反論したのは中国国家安全論壇副秘書長の彭光謙であり、「西側の敵対勢力は中国の内部に彼らの意見を代弁する「第五縦隊」を育成しており、ある程度の組織と社会的基礎を形成している。ジャスミン革命は、中国では爆発のきっかけ(引爆点和時機)がないだけである」と言った。また、中国国際戦略学会の高級顧問である王海運少将もそれに同意し、「ジャスミン革命の社会土壌は基本的に出来上がっている。ことが起こっても、政府や共産党を擁護する人は少なく、中国共産党を批判するだろう。このような動きは現在大手を振って前進している。
王教授はまた、「腐敗が共産党を劣化させる(変成「黒党」)。しかし、中国は大きな国なので北アフリカや中東のように簡単には倒れない、西側諸国が逆に自信をなくしている。知識分子を警戒する必要はない。かれらは秀才であり、国家にたいした影響を与えることはない。鍵は、銃をもった腐敗分子であり、それが一番怖い。周永康や徐才厚は「黒色革命」、つまり共産党を赤い党から黒い党に変質させる危険がある」と述べた。
国防大学の前研究所長の楊毅海軍少将は、これに反論して「王教授は党の傘下にある学校の教授でありながら共産党を信用していない。社会主義学院は社会主義を擁護しないか」と批判した。彭光謙は「腐敗に反対することも、ジャスミン革命に反対することもともに必要だ。腐敗に反対するとジャスミン革命を批判したり、それを止めたりすることはできないということではない」とも言った。

王占陽教授と人民解放軍の高級軍人との論争は以上である。議論としては粗い論理であり、説得力はあまりないが、彼らの関心事項が何かを示していることは明らかであろう。この論争にも中国の指導者が体制維持について強い懸念を抱いていることが示されている。

2014.12.08

周永康の処分

前政治局常務委員の周永康に対する処分が12月5日の政治局会議で決定され、周永康は党籍を剥奪された。その子分格である国務院国有資産監督管理委員会の蒋潔敏主任(閣僚級)と前中央軍事委員会副主席の徐才厚がやはり党籍剥奪の処分を受けたのは今年の6月30日であったが、その時周永康の処分は発表されず、また10月の四中全会(共産党中央委員会第4回全体会議)でも発表がなかったので、その処分に政治的な圧力がかかっているのではないかと噂されていた経緯がある。
中国政府は今次決定の前日である12月4日を憲法の日と定めていた。これにタイミングを合わせて処分を決定、発表したのは、現政権が「法治」を重視していることをアピールするのに利用したためであるという見方がある。ただし、「法治」はさる10月の四中全会の中心議題であったので、それをアピールするためであればその時に発表したほうがよかったとも思われるが、その時点では発表の用意ができていなかったのかもしれない。タイミングの点についてはどうも状況がはっきりしない。
それより深刻な問題は、周永康らが厳しく処分されたのは、彼らが問題を起こしたこともさることながら権力闘争の結果であることだ。よく指摘されているのは、周永康が、第18回党大会の開催が間近な時点で失脚した前重慶市長の薄熙来と関係が深かったことであるが、さらに周永康は江沢民の庇護下にあり、同人に対する摘発、処分に江沢民がブレーキをかけていたとも言われていた。そうかもしれない。現時点で客観的に言えることは限られているが、いずれ関連の事実が公になるものと思われる。
周永康に対する処分決定により、反腐敗運動に力を入れてきた習近平政権としてさらに大きな成果を上げたことになる。しかし、「法治」については、中共は四中全会の目玉であるかの如く扱ったが、本当にそれが貫徹されると思うチャイナ・ウォッチャーはまずいないだろう。習近平政権が「憲法の日」を制定して憲法を重視していることをアピールしようとしたとしてもその面で成果があったとは思えない。中国は、司法も含め今後も中国共産党の指導下にある。昨年の春、「七不講」として政府が公式に指示したタブーの一つが、司法の独立について論じることであった。司法についても共産党の指導が優位であることは何も変わっていないのである。

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