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2015.03.17

プーチン大統領の核使用発言

 プーチン大統領が、クリミアの併合に至る過程で核兵器をいつでも使用できる状態にしておく用意があったとロシアの国営テレビで語ったことが世界中に流れ、ひんしゅくを買っている。18日でクリミア併合からちょうど1年になるのに際して行われたインタビューである。「いつでも使用できる状態(alert)」とはボタンを押せば核ミサイルを発射できる状態であり、プーチン発言は「その状態にした」という完了形でなく、そうする用意があったということなので、実際にはしていなかったと解される。
 ちなみに、alertの状態は一つ間違えば核戦争が始まるのできわめて危険であり、今はどの核兵器国もそういう状態は極力少なくしている。ただし、核攻撃を受けると間髪を入れず反撃しなければならず、そのためにはalertの状態にしている核ミサイルもあるわけである。
 プーチン大統領の発言の真意は、alert状態にある核ミサイルを「増やす」用意があったということか、必ずしも明確でないが、その言葉の意味を詰めようとしてもあまり実益はないだろう。要するにプーチン大統領は核兵器を使う用意があったと言って怖い顔をしたかったものと思われる。プーチン大統領のインタビューでの発言はテレビの記者に聞かれたのに対する応答でなく、事前に用意されていた。同大統領は世界に対してそのように恐ろしいことを自分から言いたかったらしい。
 このようなプーチン大統領の発言は、冷戦時代に一歩も二歩も後戻りするものだと見られても仕方のないものであり、ウクライナ問題は今後ますます解決が困難になるという印象が強い。また、今年の春にはNPT(核兵器不拡散条約)が5年に1回の再検討会議を開くところ、プーチン発言はこの重要会議にも水をかけた。
 ただし、プーチン発言の背後の、あるいは裏の事情も見ておく必要がある。プーチン大統領は、ウクライナ問題で国際社会から孤立するのではないかということをおそれるロシアの青年たちに、ロシアは核兵器を含めしっかりと軍備しているので心配ないという趣旨のことを言ったこともある。
 さらにさかのぼれば、ロシアの軍事戦略においては、核兵器を通常戦争にも使用すべきであると語られる傾向が以前からあった。クリミアで核を使う用意があったという発言はまさにそのような軍事戦略に従っているのである。今回のテレビでの発言の重大性を薄めるつもりはないが、ロシアの軍事戦略にそのような傾向があったことを背景に見ていく必要がある。
 現在、ロシアは強いフラストレーションを感じている。「ウクライナ問題では西側はこれを機会にウクライナをロシア寄りから西欧寄りにしようとしており、NATOの影響力は増大する。石油価格が下落してロシアの経済状況は悪化している。米欧はロシアに対する制裁措置を維持しつつ何か起こると制裁強化を叫ぶ」などである。これらのことはロシアにも責任があるが、ロシアから見れば米欧は勝手だと映るのであろう。そのような状況の中で、危険な軍事戦略がより前面に出てくる傾向にあるようだ。

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