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2021.05.21

中国・EU投資協定と米欧中関係

 中国とEUが投資協定(CAI Comprehensive Agreement on Investment)の交渉を開始したのは2014年。35回の交渉を経て、2020年12月に原則合意された。中国側が、新疆ウイグル自治区の人権問題などに関する欧米の批判をやわらげ、また2020年内合意の目標を実現するために譲歩し、またEU側ではコロナ禍の中で経営難に陥っている欧州企業が中国市場でのビジネス機会の拡大を求めたことなどが背景として指摘されている。EUの閣僚理事会議長国が中国との経済関係促進に熱心なドイツであったことが大きな要因であったと見る向きもある。
 協定が発効すれば、EU側が問題視していた中国の国有企業や強制的な技術移転などについての規律が盛り込まれるなど、中国市場への参入障壁が一部緩和されることになる。今後の中国・EU経済関係の礎石となるとも言われていた。

 バイデン政権は成立前だったが、CAIの原則合意を止めようとしたとみられていた。国家安全保障担当補佐官に指名されていたジェイク・サリバンは、「バイデン・ハリス政権は、欧州のパートナーとの間で共通の関心である中国の経済慣行に関して、早い段階での協議に喜んで応じるだろう」とのコメントを発表したのだ。だがEUは交渉を止めず、合意にまで進んだという。CAIについて、米国内では肯定的な意見もないではなかったが、批判的な見方が多かった。

 3月22日、EUと英国、米国、カナダは、中国が新疆ウイグル自治区で重大な人権侵害を行っているとして、中国政府当局者に対する制裁措置を発表した。1月にバイデン米政権が発足してから初めての米欧協調行動であり、これら諸国はウイグル族の扱いに関する中国政府の責任を追及する姿勢を鮮明にしたのであった。

 これに対し、中国は報復措置として米国、EUなどに対して制裁を発動し、CAIは進まなくなった。

 5月20日、欧州議会は中国との交渉を再開する条件として、中国が対EU制裁を撤回することを求める決議を行った。中国の制裁は国際法に基づいていないとも主張した。

 しかしCAIは中国・EU関係にとどまらず、中国と米欧の問題になっている。中国はメンツにかけても応じないだろう。

 一方で中国は、EUの中でも関係が深いイタリアなどに、協定発効の必要性を説得しているが、それで事態が打開されることはありえない。ティエリ・ブルトン(Thierry Breton)欧州委員(域内市場担当)は5月6日、昨年末の「原則合意」は「合意」というより「方針」のようなものであり、CAIは当面実現しないだろうとの見解を示したという(AFP2021年5月7日付)。

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