平和外交研究所

ブログ

中国

2018.12.19

中国人研究者による習近平主席批判

 本稿で紹介する習近平主席と中国政治の批判は、中国の著名な改革派経済学者である茅于軾(ぼううしょく)氏が最近Voice of Americaのインタビューで語ったものである。その内容は現在の中国ではめったに聞かれないくらい激しい。2014年2月、茅于軾は来日してある研究所で講演を行ったが、あまりの激しさ、率直さに、聴衆から「こんな研究者が中国にいるのかと驚いた」という感想がその場で出たこともあった。

 茅于軾はその後も批判を繰り返している。日本で報道されることは少ないが、巨大で複雑な中国を理解するのに参考になるので、本HPで今回の発言をあらためて紹介する。

 なお、さる7月末、中国の最高学府の一つである清華大学の許章潤教授も、習近平政権の「指導者を個人崇拝する動き」や「国家主席の任期の撤廃」を痛烈に批判する論文、「我々の現在の恐怖と期待」を発表して話題になった。

 中国では12月18日、改革開放が始まって40周年の記念式典が開かれ、習近平主席はその成果を誇り、今後も中国の特色ある社会主義を推進していく方針を強調した。表舞台を無視するわけではないが、茅于軾や許章潤の発言や論文はきわめて重要である。当研究所はかねてから中国内の「緊張感」に注目しており、両人の言論はまさにそれを示している。

 茅于軾の発言では、まず、習近平批判が注目される。茅于軾は、「習近平は今日に至るまで国家を指導する理念を作っておらず、国をどの方向に導いていくか、どのような道筋で、何を目標に、どのような人を用いて治めていくか明確にしていない。アドバイザーに助けられて指導者らしくしているのか。あるいは表面は立派だとほめられながら実際には批判されているのか。それとも本人が馬鹿なのか。終身的に地位を確保するには憲法を改正する必要などない」と述べている(なおこの引用は読みやすくしたが、キーワードは発言のままである)。
 「国家を指導する理念を示していない」とは、習近平主席が「政治体制改革」を謳い、多くの横断的「小組(WG)」を作り、その主任になっているが、具体的な改革は打ち出すに至っていないことを言っているのだろう。とくに、民主化の課題については改革案を示さないどころか、逆に強権的に統制していることを問題視しての発言と推測される。
 また、茅于軾は、習近平が毛沢東に倣っていると指摘している。この点は我々にはわかりにくいが、茅于軾は以前から毛沢東についても意見を発表しており、2011年には「毛沢東を一般人に戻そう」で毛沢東の神格化を批判している。茅于軾が考えていた習近平と毛沢東の類似点は「神格化」だと思われる。

 一方、茅于軾は中国の将来を楽観視しており、「世界は、好むと好まざるにかかわらず変わっていく。そう遠くない将来変化は現実になると信じている。ただし私はすでに90歳、この目で変化を確かめられるか、保証の限りでないが」と語っている。この「世界」とは中国のことであり、「中国の指導者と中産階級の者はみな子供を米国に出している。このことは時代が変化しつつあることを示している」と述べている。
妻子を欧米に出すことはかねてから問題になっていた。中国では汚職の追及を逃れるためとして批判されているが、茅于軾は将来起こる変化の予兆ととらえているのである。中国人は結局現体制を信用していないという考えに立てば、茅于軾の発言は理解しやすい。

 茅于軾は、経済が発展したのはよいことだと言いながら、「政治は清く明るくなければならない。言論の自由、司法の独立を確保できなければ経済発展は阻害される。80年代は言論の自由があったが今は失われている。実際、経済は権力の介入により制約されている」と指摘しており、いわゆる「国進民退」の傾向を批判している。

 茅于軾は、中国共産党による党員に対する統制についても批判的であり、「現在多くの知識人が中国共産党から脱退したいと考えているが、それは阻止されている。(自分を含め)一部の党員は党から脱退するため党費を払わないでいる。党の規定では6ヶ月以上党費を滞納すると、党員資格が停止されるからだ」と述べている。
 また、先般、民営企業を含むすべての企業に党支部の設置を義務付けたことも強く批判し、「全く無意味だ。できることではない」としている。

 さらに茅于軾は、「国家が転覆されると言うが、これはあり得ないことである。国家を転覆することは不可能だ。転覆できるのは政府であり、政治である。政府も政治も本来変えられるものだ」と断言している。
 この発言も意味深長である。中国では日本などでは想像もつかない体制維持への不安がある。国外へも1年に数回、そのような懸念表明が伝わってくるが、茅于軾はそのことをもっと聞いているのだろう。
 要するに、茅于軾は、共産党の一党独裁は長続きしないと思っているのである。

 このように大胆な発言をする茅于軾とはどんな人物か。茅于軾は1929年に南京で生まれた。祖父も父親も中国で有名な橋梁と鉄道の専門家であった。茅于軾も上海交通大学を卒業後、機関車の運転手、エンジニアなどを経験した。文化大革命中に一念発起し、工場で働きながら独学で経済学を学んで学者となり、中国社会科学院米国研究所で勤務した。この間、多くの実績を上げた。「最適配分の理論」などという論文も発表した。
 1993年に退職後、「天則経済研究所」の設立に尽力した。現在同研究所の名誉理事長である。

 しかし、この研究所は閉鎖の危機に見舞われている。前述の許章潤の論文を発表したのも同研究所のウェブサイトであった。中国当局は研究所や、問題発言を繰り返す茅于軾と許章潤に対して指導をしようとしたのだろうが、応じなかったらしい。当局は同サイトをブロックし、中国国内では閲覧できなくなった。日本では12月17日の時点でアクセスが可能であったが、翌18日にはできなくなっていた。

 なお、許章潤の論文が掲載されたのは7月24日であり、その時同人は日本に滞在中であった。現在も日本にいるとも言われているが状況は不明である。第三国に亡命を申請するのではないかという憶測も流れている。

 当局は「天則経済研究所」を閉鎖しようとしたらしい。今年春、事務所の契約期間はまだ2年以上も残っていたが、不動産会社から退去を求められた。研究所が争う構えを見せると、鉄格子が設置され出入りが封じられてしまった。同研究所ではその後もホテルなどで学術交流会を開こうとしたが、当局の関係者とみられる集団に妨害されたという。

 このような状況の中で、茅于軾がなおも意気軒昂に習近平と現体制批判を行っているのは驚異的と言うほかない。中国には茅于軾の他にも、共産党が強権で従えさせるのが困難な「長老」が健在である。かれらの言動が現実の体制と政治にどのくらいインパクトがあるか、定かではないが、影響力がないのであればほっておけばよいはずだ。そうはいかないのが現実であるようだ。
 また、比較的若い世代には民主化を望む人たちが大勢おり、だからこそ、「国家転覆」だの「体制に対する脅威」が問題になるのである。茅于軾らの戦いは世界中が注目すべきである。

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.