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2019.10.23

2019年度ノーベル文学賞

 スウェーデン・アカデミーは10月10日、2019年のノーベル文学賞をオーストリアの作家ペーター・ハントケに授与すると発表した。昨年は、アカデミー関係者のスキャンダルで受賞者を発表できなかったので、18年度の賞を得たポーランドの作家オルガ・トカルチュクと同時発表となった。

 ハントケは日本ではあまり知られていない作家であり、ノーベル文学賞の受賞については、文学評論家など専門的な立場の人からは注目されたようだが、一般にはあまり関心を持たれなかった。

 科学の分野では国別を問わない普遍性があるので、外国人の受賞についてもある程度関心を持ちやすい。しかし、文学の場合、作品を読んだことがないと考えようがない。厳格な選考基準で判断されたことなのでそれなりに価値のある受賞だろうとは思うが、具体的なイメージはわいてこない。

 日本でのコメントは、ノーベル文学賞の受賞が欧州に偏っているなど比較的専門的な内容であったが、一部週刊誌は、ハントケが政治的に問題があり、ユーゴ国際刑事法廷で裁かれたミロシェビッチ元ユーゴ大統領を擁護する言動などがあったために欧米で激しく批判されていることを報道した。

 実際欧米ではどのように受け止められているかというと、たしかに、批判されているが、受賞を擁護するコメントもある。BBCもニューヨークタイムズも、ハントケの政治的言動に問題があったことは認めつつ、肯定的に論評している。それをうのみにするのではないが、そのコメント内容には興味深い点がある。

 第1は、今回の受賞でハントケ自身はメディアの激しい取材に悩まされたことであり、ハントケは「だれも私の作品を読みもしないで人から聞いた話を基に取材してくる。もうメディアの人には会わない」との趣旨を発言していることである。

 第2は、以前ノーベル文学賞を受賞した人たちの中に、ハントケほどではないかもしれないが政治的に問題があった作家は何人もいたことであり、ハロルド・ピンター(2005年受賞)、ギュンター・グラス(1999年)、ホセ・サラマゴ(1998年)、ガブリエル・マルケス(1982年)、ジャン・ポール・サルトル(1964年)などの実例が挙げられている。

 第3は、そのように優れた作家が政治的に問題のある言動を行ったことを肯定するのではないが、大事なことは作品であるという姿勢でコメントしていることである。日本でも作家が政治に興味を持つことはないではないが、欧米とは比較にならない。欧米のような状況をどう見るか、見方は分かれるかもしれないが、作品第一主義を貫きつつ、政治にも関心を持つことを間接的に認めることは欧米のパワーの一つではないかと思われる。

2019.09.25

イランの核合意見直しに関するローハニ大統領の発言

 国連総会に出席中のイランのローハニ大統領は9月24日、記者団に対し、「制裁が解除されれば、米国が一方的に離脱した核合意に関し、小さな修正や追加について議論する用意がある」と述べたと伝えられた。

 この発言をもってイランが米国と対話する考えになったとはただちには言えない。「制裁が解除されれば」という条件が付いているし、「小さな修正や追加について議論する用意がある」というのもどれほどのことか明確でない。したがって、ローハニ大統領のこの発言は表面的には従来からの姿勢と変わらないと言えるかもしれない。

 しかし、この発言はやはり注目される。

 第1に、この発言全体が穏やかな口調で語られており、トランプ米大統領に、米国が希望するなら条件次第で対話に応じる用意があるとのサインを送っていると解釈できるからである。

 ローハニ大統領は、欧米諸国からも積極的に評価される人物であることは差し引いてみなければならないが、それにしてもこの発言は穏やかである。

 第2に、9月14日、サウジアラビア東部のアブカイク及びクライスにある石油生産・出荷基地に対して行われた無人機(ドローン)攻撃に関し、イランに厳しい姿勢を取る米国は、当初、イランを責めていたが、その後慎重姿勢に転じた。一方、23日には英独仏の首脳がサウジへの攻撃には「イランに責任がある」との共同声明を行った。従来、欧州諸国はイランに理解を示し、米国の一方的離脱には批判的であったのと比べると逆の形になったのである。

 英独仏が言っている「イランに責任がある」とは、イランが攻撃したという意味でない。慎重に言えば、イランが「関与した」ということであり、具体的には攻撃をしたイェーメンの反政府勢力フーシ派を、「止めなかった」、あるいは「何らかの便宜を与えた」ことなどがありうる。

 そして注目すべきは、この厳しい声明に対するイランの反応が穏やかなことである。しかも、その声明の後でローハニ大統領は米国との対話に関して穏やかな、積極的とも見られる発言を行ったのである。つまり、きついことを言われたのにローハニ氏は穏やかな発言を行ったのである。この時系列も見逃せない。

 さらに、ローハニ大統領の、英仏独の煮え切らない態度に業を煮やして「制限破り」の第3弾を行うとの9月4日の発言とも著しくトーンが違っている。このように見ていくと、ローハニ大統領は「イランに責任がある」ことを、明言はできないが、事実上認めているのではないかと思われる。

 では、一体、イランの誰が攻撃に関与したのかという疑問が残る。ここから先はさらに大胆な仮説になるのだが、イランの内部には必ずしも大統領の了承なしに国際的に問題となる行動をする者がいるのではないかという仮説である。仮説は安易に拡大すべきでないが、ホルムズ海峡で起こっていることはこのような仮説が正しいことを裏付けているとも解釈できる。

 ともかく、今回の石油施設攻撃は断じて許されない蛮行であったが、これを奇貨として、イランと米英仏独が穏やかな解決に向けて前進してもらいたいものである。

2019.09.20

ネタニヤフ・イスラエル首相の一部パレスチナ併合宣言

 イスラエルの総選挙(定数120)が9月17日に行われた。さる4月の総選挙では、ネタニヤフ首相が率いる与党リクードは35議席を獲得したが、連立政権樹立に失敗したので、今回「やり直し総選挙」が行われた。

 しかし、出口調査では与野党の獲得議席数が拮抗(きっこう)しており、この選挙結果では連立政権樹立が成功する公算は低いという。かといって、3度目の選挙となれば国民の反発は避けられず、ネタニヤフ首相が率いる与党リクードと元参謀総長のベニ・ガンツ氏が率いる中道野党連合「青と白」との大連立を促す声も出ている。これも成功しない場合、ネタニヤフ首相は退陣を迫られるとの観測も現れている。

 また、ネタニヤフ氏には汚職の疑惑がかかっている。ネタニヤフ首相が国内通信大手に便宜を図った見返りに、傘下のニュースサイトで好意的な報道を要求したことなど、検察は3件の汚職容疑でネタニヤフ氏を起訴する方針だという。首相は被告人になることを回避するためにも、議会で多数派を握って「刑事免責」法案を可決したいところだが、連立政権が失敗するとそれもできなくなる。

 しかし、連立工作が進まないのは今回が初めてでない。そもそもイスラエルの総選挙において単独で過半数を獲得した政党はなかった。最多の議席は1969年総選挙でマアラハ(労働党)が獲得した56であった。イスラエルは建国の経緯からマルチエスニシティ国家であり、そのことが国政にも反映して小党の乱立状態になっていることが根本的な問題である。

 その中では、「中道右派」のリクードと「中道左派」の労働党が比較的大きく、ともに首相を輩出してきた。しかし、労働党は、指導者であったラビン元首相が1995年に暗殺されて以来衰退傾向となり、選挙のたびに議席を減らした。

 2019年2月21日に結成された「青と白」連合(ガンツ党首の回復党とイェシュ・アティッドのラピド党首の連合)は、4月の総選挙でリクードと同数の35議席を獲得し、労働党は5議席に落ち込んだ。この結果を見れば、「青と白」が労働党に代わってイスラエルの主要政党になるような気もするが、多数の政党が乱立するイスラエルでは今回の結果だけを見て中長期的な傾向を予測することは困難であろう。

 ネタニヤフ首相は再選挙を一週間前にした9月10日、自分の続投が決まれば、パレスチナ(政府は自治政府なので「パレスチナ自治区」とも呼ばれる)の一部をイスラエルに併合する、との強硬方針を表明した。選挙の結果は今回も楽観できず、右派の支持を固める必要があったためである。

 イスラエルとパレスチナの地理的状況は日本人にはわかりにくい。現在、イスラエルの東側にパレスチナがあり、その東がヨルダンである。つまり、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンが西から東へ並んでいる。パレスチナとヨルダンはヨルダン川を境に分かれているのでパレスチナは「ヨルダン川西岸」と呼ばれることもある。

 ネタニヤフは、このパレスチナのうち、ヨルダンと境界を接する領域を併合すると発表したのだ。その広さはパレスチナの約3分の1。それがもし実現すると、イスラエルの東に領土を削られたパレスチナがあり、その東がイスラエルが奪った領域であり、さらにその東がヨルダンとなるのである。そうなると、パレスチナは西側のイスラエルと東側の新イスラエル領に挟まれるという奇妙な状況になる。

 パレスチナは3分の1もの領土を奪われては黙っておれず、イスラエルと全面戦争になる危険もある。ヨルダンにも大きな影響が及び、イスラエルや西側諸国に友好的でなくなるとも言われている。それに国際社会が黙っていない。国連安保理では、イスラエルは決議違反を犯したと糾弾されるだろう。トランプ大統領はネタニヤフ首相の強力な支持者であるが、パレスチナの併合まで支持し続けることはできなくなるかもしれない。

 それでもイスラエルがこの地を奪おうとするのは、安全保障上の理由からだという。イスラエルと敵対するパレスチナにヨルダンから物資や武器が自由に搬入されるのを監視し、阻止する必要があるというのである。

 また、イスラエルの超正統派ユダヤ教徒の間には、パレスチナはもともとユダヤ人の土地だという考えがあるそうだ。今回の選挙でも、「ラビ(宗教的指導者)が言うからパレスチナ併合を支持する」と公言してはばからないネタニヤフ支持者がいる。

 イスラエルから時折法外な主張が出てくるのは、そもそも、エジプトとヨルダン以外のアラブ諸国がイスラエルの存在を認めないからであり、また、パレスチナと激しい敵対関係にあるからである。イスラエルがそのような環境にあることには国際的に一定の理解があるが、パレスチナの3分の1を奪うことなどは到底認められない。

 イスラエルのこれまでの指導者はパレスチナを奪うことの危険性と非現実性をよくわきまえており、ネタニヤフとしても実現しないのを見越して選挙目的のため危険な宣言をした可能性もあるが、それはそれで危険なかけである。そんなことまでせざるを得ないネタニヤフ首相が退陣に追い込まれるのはそう遠い将来のことではないかもしれない。

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