平和外交研究所

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2015.05.11

対独勝利70周年記念式典と日本、ロシア、中国

 10年前の対独勝利60周年の際には、戦争に敗れたドイツも含め西側主要国の首脳がロシアで行われた記念行事に参加した。日本の小泉首相も参加した。記念したことはドイツに対する勝利であるが、戦争が終わって60年もたち、冷戦も終結し、戦勝国側とドイツが和解に向けて前進していることを象徴するという積極的な意義があったからである。第2次大戦で敗れた日独伊三国の首脳は式典で端に近い場所を割り当てられたが、この積極的意義の前にはそれもたいした問題にならなかった。
 ロシアにとって対独勝利記念式典は非常に重要であり、今年も多数の参加を確保したかったが、現実には20カ国程度にとどまった。60年の際の50カ国以上と比べれば大幅な減少である。こうなったのはウクライナ問題をきっかけにロシアと西側の関係が悪化し、ドイツとの和解をロシアと米欧諸国がともに祝う状況でなくなったからである。
 今回、ロシアがとくに重視したのは中国の習近平主席の出席であり、それは奏効した。しかも、中国を含め数カ国の外国軍隊がパレードへ参加し、記念式典を盛り上げた。

 しかし、広い目で見ると、今年の記念式典は2つのことを際立たせる結果になった。1つは、10年前の和解がロシアと西側諸国との対立に代わったことである。
 にぎにぎしい軍事パレードはそれをいっそう強調した。さらにロシアと中国の艦隊が初めて地中海で合同演習を行なうという、欧州にとって刺激的なおまけまでついた。
 プーチン大統領としては、対立は欧米諸国に原因がある、今回の式典から和解の意義をなくしたのは西側だと言いたいのかもしれないが、対立傾向をことさらに強調することはロシアにとって利益にならないはずである。
 もう1つ際立ったのは、中国の大国化である。一部の報道では、記念式典の主役は(ドイツとの戦争に関係のない)中国の習近平主席であったと言われている。まさに赤の広場はそういう雰囲気になったのであろう。

 来る9月3日には、中国で対日戦勝記念式典が開催される。中国が第2次世界大戦の2つの記念行事を戦略的に利用しようとしていることは、1月31日の当研究所HPを見ていただきたい。
 中国としては大国であることを諸外国に誇示すると同時に、国内的な考慮、つまり、体制維持に役立たせようという意図もあったのではないか。国内的なことは透明性が低いが、長い目で見ていかなければならない。

 日本にとって、ロシアをめぐる状況はウクライナ問題の発生以来非常に困難になっているところへ、さらに中国との関係が新たな角度から加わってきたわけである。日本政府は日ロ関係を早急に改善させ、北方領土問題の解決を図りたいであろうが、日本も含む西側とロシアおよび中国の間の対立を先鋭化させず、協力関係を強化していくことと並行して進める必要がある。
 日本として二国間関係より多国間関係を重視すべきだと言うのではない。プーチン大統領は習近平主席の招待に応じ。9月の対日戦勝記念行事に出席すると回答したと伝えられている。しかるに、70年前の9月には、ソ連は対日宣戦していたが、そもそも日ソ中立条約に違反していた。条約違反を犯しておきながら戦争を始めたロシアが中国と対日戦争勝利を記念する行事に出席するのは勝手だが、日本として喜んで認めるべき筋合いのことではない。かといって、このことを声高に叫ぶのは賢明でないだろうが、日本としてはロシアとの関係改善を望むと同時に、ロシアが対日戦争をにぎにぎしく記念することは承服できないことを何らかの形で示すべきでないか。ロシアにも中国にも戦略的な考慮があるのは結構であるが、歴史がかき消されてはならない。
2015.05.01

(短文)ASEAN首脳会議で露呈された「一帯一路」構想の矛盾

 4月27日、クアラルンプールで開かれた首脳会議の結果発表された議長(マレーシア)声明は、南沙諸島のファイアリー・クロス礁などにおける中国の埋め立て工事に対し、「深刻な懸念を表明する」「このような工事は信頼を損なった(eroded)」「南シナ海における平和、安全、安定を揺るがす(undermine)恐れがある」などとかなり強い言葉でASEAN諸国の見解を表明した。
 この会議では、中国による埋め立て工事に関し激しい議論があったことが報道からうかがわれる。最初の議長声明案ではこの問題にまったく触れられていなかったが、フィリピンやベトナムなどが強い懸念を表明し、議長声明に書き込むことを主張した結果このような文言となった。中国との関係は国によって違っており、このような議論があったのは当然である。
 また、議長声明は埋め立て工事の中止を要求するに至らなかったのも、理解できることである。このようなASEAN内部の立場の不一致にもかかわらず今回の議長声明がこのような表明をしたことは注目すべきことであった。

 ASEANの10カ国はすべてアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備に参加している。IIBとペアで進められている「一帯一路」とくに「一路」は中国から地中海にまで伸びる海上交通ラインであり、南シナ海はその重要な一部である。中国はその建設を提唱し各国にそれに対する支持を呼びかけながら、その「一路」上で東南アジア諸国と紛争を起こしているのであり、それは、少なくとも東南アジア諸国の立場からすれば「一路」建設を阻害する行為と映るであろう。
 一方、中国はあくまで自己の主張を貫き、東南アジア諸国の懸念に耳を傾けない姿勢である。ASEAN首脳会議の議長声明に対して、中国外交部の報道官は「中国の主権の範囲内のことである」と突っぱねた。中国は今後もそのような主張を変えないだろう。要するに、中国の考えではそのような主張は「一路」建設と矛盾しないのである。
このように見てくれば、中国の提唱する「一帯一路」構想は各国と共通の言葉で語られていないという実態が浮かび上がってくる。そうであれば、中国が「一帯一路」構想と言っていることの意味は中国の立場で理解する必要がある。それは中国の国益に従うことを含んでいる。つまり、「一帯一路」は中国の国益に従うという前提に立っているのである。
2015.04.30

安倍首相の訪米 2015年4月

 訪米した安倍首相はオバマ大統領から異例の歓待を受け、また米議会では日本人として初の上下両院合同会議で演説した。日米同盟は強化され、自衛隊は米軍に地球規模で協力可能となった。
 もちろん、米国と欧州諸国やカナダなどとの安全保障協力であるNATOは、広範な地域を対象とする点で日米同盟より先輩格であり、米国としては今後もNATOを世界の安全保障秩序の要として強化に努めるであろう。しかし、NATOにとってはロシアとの関係が今なお頭の痛い問題であり、ウクライナ情勢などに関してはむしろ冷戦時代に後戻りしている感もある。
 また、肝心の英仏独などは理屈っぽく、時には、米国に反旗を翻すまではいかないが、米国の旗印の下に集まってこないことがある。たとえば、独仏はイラク戦争に参加しなかった。
 米国とドイツの間では、メルケル首相の通信が傍受されていたことも問題になった。ドイツはことを大きくしないで済ませたが、米国との不協和音は看過できない。ドイツはエネルギーの供給の関係でもロシアとの関係悪化を避けたい気持ちが強い。
 米国にとって最も親い英国も単独行動することがある。たとえば、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立準備における中国の呼びかけに、英国は欧州諸国の先頭を切って参加すると手を挙げた。もっとも、英国が単独で行動したのは、米議会が頑強に反対しているためIMF改革が進まず、中国にAIIB設立の口実を与えてしまったという気持ちがあるためかもしれない。
 ともかく、NATOにおいて米国は米国以上に理屈っぽい相手と安全保障面の協力をしていかなければならない。また、欧州諸国の防衛予算が少ないことも米国にとって問題である。

 今般強化された日米同盟は、米国にとってNATO諸国との協力の限界を補う上でも大きな意味がある。日本の自衛隊の協力を得ることにより、米軍の活動能力は大きく拡大する。後方支援の能力においてはおそらく日本は世界でもトップレベルであり、その面だけをとっても、自衛隊は米軍にとって頼もしい援軍となる。
 防衛予算については、今次防衛協力ガイドラインには直接触れられていないが、今後自衛隊の活動範囲の拡大に伴って経費負担がさらに増加する、つまり米国の負担がそれだけ軽減する可能性がある。
 このような事情により、日本の安全保障関係の法律整備と今回の日米防衛協力ガイドライン改定は、米国にとり人的、物的両面できわめて重要な意味があり、オバマ政権は近年まれな大成功を収めたと言って過言でない。首脳会談と記者会見、公式晩餐などにおいてオバマ大統領が見せた喜色満面の笑顔は印象的であった。

 日米同盟の強化は日本にとっても、もちろん大きなメリットがある。自衛隊が地球規模で行動できるようになったことが日本にとって利益か否か、これは明らかでないが、とくに台頭著しい中国との関係が悪化するのを防ぎ、さらに安定的に発展させる基本的な枠組みがしっかり強化されたことの意義は大きい。
 海洋大国化戦略に基づく東シナ海、南シナ海での中国の横暴は目に余るものがあり、国際ルールを無視した自己主張に対抗するには日米安保体制の強化は絶対必要である。その意味では昨年の閣議決定と安保関連法律の整備、日米防衛協力ガイドラインの改定は正しい目標に向かっていると評価できる。

 しかし、目標へ到達するための方法については重大な疑義がある。
 第1に、自衛隊の活動範囲を世界的規模にまで拡大させることを、憲法下で、つまり現憲法を変えないで認めることは問題である。日本国憲法は、日本が国際紛争に巻き込まれ、武力を行使することを固く禁じている。これは第二次大戦の教訓から来たことであり、日本国憲法の改正作業は占領軍の影響を強く受けたとしても、憲法9条はその後国民に定着し、国民の大多数はそれを重要な規範として受け入れている。つまり、日本国民は、日本が国際紛争において武力を行使しないという規範を国民的信念として堅持しているのである。
 第2に、日本は、他国が武力攻撃を受けている際に自衛隊を出動させるか否か決定するのに、「我が国の存立が脅かされること(実際の文言はもっと長い)」を要件とした。このことは米国などによって理解されているか。国務省やペンタゴンの一部では理解されていても、政府全体で、かつ、将来にわたって理解され続けるか疑問である。
 この要件は、日本国憲法を変えず、かつ、従来の憲法解釈も変えずに、しかし、何としてでも集団的自衛権の行使を認めるという結論を導き出すために必要となった文言であったが、「他国が攻撃され危険な状況に陥っている場合に、日本の存立が脅かされること」というのは通常はありそうにない、頭が混乱しそうなことであり、諸外国に正しく理解されないばかりか、日本国内でもよく分からないのではないか。
 もし日本が自衛隊の出動を要請された場合、この要件が満たされないという理由で拒否したら、相手の国は日本がなぜ断るのか理解できず、ひいては、日本は自衛隊を出動できるようにしたはずなのに断る、日本は協力的でないという疑念を抱く危険もある。
 第3に、自衛隊が地球規模で活動できるようにするには、憲法と日米安保条約を改正すべきである。国内政治的に困難なので憲法改正でなく法律でかいくぐろうとしたり、なし崩し的に既成事実を積み重ねようとするのは邪道であり、短期的には成果をあげられる方策であっても、中長期的には日本と各国との間に矛盾を作り出す原因となるおそれがある。
 若い世代に安全保障についてよく考えてもらうことも絶対的に必要である。そのためにも、正面から問題を取り上げ、何が必要で、どうしなければならないか、議論を戦わせるべきである。上述したような難解な言葉は若い世代に理解されないだけでなく、関心を持つことも拒否されるのではないか。

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