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2014.06.04

天安門事件記念日

本日は天安門事件25周年記念日。中国政府はこの日を迎えるのに神経をとがらせ、デモが発生しないよう厳戒態勢を敷いている。外国人が関連の報道をするのをあまりに厳しく規制するので悶着も起こっている。中国人記者は政府によって厳しいコントロール下に置かれており、問題を起こすような状況でないようだ。
さる5月4日、中国は北京大学で5・4運動記念(95周年)行事を行なった。これは中国共産党にとってきわめて重要な記念日であり大々的に祝賀したかったが、1ヵ月後に、同党として祝いたくない天安門事件記念日を控えていたので、警戒態勢を敷き緊張した雰囲気のなかで記念行事を行った。民主化運動を恐れその芽を早期に摘んでしまおうとする習近平政権の面目躍如であった。
しかし、天安門事件の再評価を求める声は強い。25年前天安門広場で多数の死傷者を出してまでデモを武力鎮圧したことを正当化した当時の評価を変え、民主化運動を進めたいという気持ちは学生を中心に中国人の間で再び強くなっている。
しかし習近平政権は天安門事件の再評価を認めようとしない。学生による自由な行動を許すと民主化運動に火が付き収拾できなくなると恐れているからである。5・4運動は、第1次大戦後の秩序を確立したベルサイユ体制が、中国を侵略した日本の帝国主義的行動を認めたことに学生が抗議して起こしたものであり、中国民衆の政治的不満から中国共産党が生まれた。同党は今日事実上一党独裁を確立しているが、学生の運動はやはり恐れているのである。

5・4運動記念日と6・4天安門事件記念日のあいだで、中国の大国化がもたらす弊害を示す出来事が起こった。5月27日、ロスアンジェルスで7千人の中国人旅行者が押し寄せ、一緒に写真撮影した。これだけの規模の写真撮影は稀有というより前代未聞かもしれないが、そのこと自体はまだしも、彼らは国歌と「昇起五星紅旗」を合唱した。これは想像を絶することである。米国人はどのような目で見たのだろうか。かりに同じことが日本で起こればわれわれはどのような気持ちになるか想像に難くない。
さらに、この7千人の旅行者は、旅行はまだ終わっていないが、1人平均1万元、普通の旅行客の4倍をすでに消費したそうである。これは中国の国営通信社、新華社が29日に伝えていることである。
中国共産党は5・4運動から天安門事件までの95年間に、体制変革を求める立場から体制変革を恐れる立場に変わり、その間、中国人は米国有数の大都市の住民の耳目を驚かす、裕福で、気前がよく、さらにそれをひけらかすのを恥じない国民になったのだろうか。7千人は中国の人口からすれば、微々たる比率であり、これをもって中国人を一般化できないのは当然である。しかし、そのようにわずかな比率の中国人であっても、他の国では圧倒的に巨大なグループとなりうる。

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2014.06.03

シャングリラー中国の反撃

今次会議に出席の中国軍人でトップの王冠中副総参謀長(シビリアンでは傅瑩元外交部副部長)は6月1日の演説で原稿の読み上げを途中で中止し、安倍首相とヘーゲル長官の発言に反発し、「両氏は事前に打ち合わせの上演説した」「中国に対して根拠のない非難をした」「強引な主張をしているのは中国でない」「中国が安定を阻害しているなどと言うのは建設的でない」「覇権を求めているのは米国だ」「安倍首相は中国を名指ししなかったが、ヘーゲル長官のほうが好ましい」などと反論した。しかし、これらの言葉は大して強くない。王副総参謀長が使ったもっとも強い言葉は、安倍首相とヘーゲル長官が「中国を挑発した」ということであり、しかも何回も「挑発」と言ったが、これもさほど強くないと思う。中国からの参加者は傅瑩を含め、会議の外で口々に安倍・ヘーゲル両氏の演説に文句を唱えており、そのような状況からすると王副総参謀長はもっと激烈な言葉を使う可能性があったが、実際には、どちらかと言えば抑制された発言であった。
中国を批判したのは安倍・ヘーゲル両氏に限らず出席者の大多数であり中国は非常に孤立していたので、さすがに中国としても攻撃的になるとさらに違いを目立たせるという考慮があったので、反発はしつつも抑制気味にしたのかもしれない。かつて、中国の代表が国際会議の場で「中国はフランスなど必要としていない」と粗野な言葉を使用したことがある。
一方、中国からの参加者のなかには議長の再三の制止を無視して強引に発言を続けたり、各国の国防大臣にリザーブされている席を勝手に占め、主宰者側の抗議など意に介さないで占拠し続けることがあった。中国は口では中国から問題を起こしたことなどないと言うが、実際の行動はまったく違う場合がある。とくに中国軍人が主張を始めると冷静な議論など吹き飛んでしまう。

今次会議では、南シナ海がしばしば話題に上ったため、王副総参謀長が最後に、中国がかねてから領有権を主張している「九段線」(「牛の舌」とも言われる。英語訳はnine dotted line 事実上南シナ海の全域のこと)について次の通り説明した。
「南シナ海は二千年以上も前から中国の主権下にあった。南沙、西沙諸島などを含め、中国政府はこの海域を一貫して管轄下に置いてきた。日本に侵略されていた時だけ例外であったが、戦争が終わった後の1946年に回復し、48年に中国は主権の宣言をした。これに対しどの国も異議を唱えなかった。各国が領有権を主張し始めたのは石油資源の埋蔵が指摘されて以降である。
中国は海洋法条約を批准し、遵守している。しかし、海洋法ができたのは1990年代の初頭であり、中国の歴史は2千年以上である。
海洋法条約は領土主権を決定するものではない。
米国は海洋法条約を批准していないにもかかわらず、攻撃するために都合のよい時だけ持ち出してくる。
仲裁については、中国は留保しており、主権の問題について仲裁に行くことは受け入れられない。中国は引き続き話し合いを続けていく。」

以上のような状況を総括して、各国がいくら正しいことを主張しても中国を変えられないだろうとコメントした米国の新聞がある。たしかに、このような対話だけで中国軍を動かすことは期待できないであろう。しかし、シャングリラ対話は、日本を含め中国を除く各国が中国に対してとっている方針が正しいことを示す結果になっている。中国だけが特異な主張をして、孤立しているのは中国にとって不利益であり、損をしているのは中国である。
あまり中国を怒らせると、対話に出てこなくなる、そうなっては元もなくなると心配する向きがあるが、旧知のIISS研究員は、中国は、中国のいないところで論じられることを我慢できないだろうから、来なくなる心配はないと言っていた。ただし、中国からどのレベルが来るかはIISSにとっていつも問題だそうだ。これまで中国の国防大臣が来たのは1回きりである。

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2014.06.02

第13回シャングリラ対話

シンガポールで開催されるアジア安全保障会議はアジアのみならず米欧諸国も参加し、その議題は特定の問題に偏ることなく、アジアの主要な安全保障に関する諸問題を取り上げるが、中国の軍と率直な対話ができる唯一の場であり、また、各議題の下での議論に中国が関係することが多いので、実感としては中国との対話が会議全体の半分くらいを占めている。
しかし5月30日から6月1日まで開催された今年の会議(第13回)は、日本の安倍首相が基調演説で名指しこそしなかったが、中国の行動を非難し、国際法に従った行動を求める強い内容の演説(5月31日本ブログ)を行い、また、米国のヘーゲル国防長官も次のような、安倍首相の演説よりもさらに直接的に中国を非難する発言を行なったので、今回の会議は日米両国が他の諸国とともに中国に物申す場となった。

「アジア・太平洋地域は深刻な脅威に見舞われている。南シナ海および東シナ海での領土・海洋紛争、それに北朝鮮の挑発的行動、核兵器及びミサイルの開発などである」
「オバマ大統領が言ったように、米国は世界をリードしていく。もしそうしなければどの国もしないだろう」
「4つの重要点がある。第1に、紛争の平和的解決を促すことであり、航海の自由を含む諸原則を守り、強制、脅し(intimidation)、侵略に立ち向かう。第2に、国際的なルールと規範に従った地域的な協力のメカニズムを作り上げる。第3に、我々の同盟諸国が自力で安全を確保できるように、その能力を向上させる。第4に、我々自身の地域防衛能力を向上させる」
「最近、中国は南シナ海に対する権利を主張してこの地域を不安定化させ、一方的な行動を取っている。中国はスカーボロー礁へのアクセスを制限し、セカンド・トーマス礁におけるフィリピンのプレゼンスに圧力を加え、また、複数の島嶼に対する主権を主張し始め、移動式石油掘削設備を西沙諸島付近に移動した。」
「米国は多国間の領土紛争に介入しないが、どの国であれ、主張を実現するために脅したり、強制したり、武力を行使するのに断固反対する。また、どの国であれ、軍用船あるいは民間船による飛行や航行の自由を制限することに反対する。米国は、国際間の秩序に関する基本的な原則が挑戦を受ければ立ち向かう。我々はそのような諸原則を重要なものと考える。昨年11月、中国が一方的に設定した、尖閣諸島の上空を含む東シナ海の防空識別圏を従わないと声明した。また、尖閣諸島はオバマ大統領が先月明確に述べたように、日米安保条約が適用される」
「中国はWTOで第三者による紛争解決に同意し、ベトナムとの海上での国境紛争を平和的に解決し、ASEANとの友好協力協定に署名したではないか。」
「米国はオバマ大統領と習近平主席が合意した、協力を進め、競争を管理し、ライバルになることを避ける国家関係の新しいモデルを今後も追求する。」
「米国は、サイバー攻撃に関する中国との持続的、実質的な意見交換を支持していく。中国は米中両国の作業部会を停止すると発表したが、我々は今後もサイバー攻撃問題を中国側に提起していく」

これに対する中国代表の発言は『朝日新聞』(6月2日付)が報道しているが、私の感想は次回のブログで。

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