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2019.03.18

プーチン大統領には平和条約締結への熱意がない

 ロシアのプーチン大統領は3月14日、モスクワで開かれたロシア経済界との非公開の会合で日ロ平和条約交渉に言及し、「打ち切ってはならない」とする一方で、「テンポが失われた」「落ち着く必要がある」などと発言した。北方領土を日本に引き渡した場合に米軍基地が設置される可能性にも改めて懸念を示したという。翌日のロシア紙『コメルサント』の報道として17日付の『朝日新聞』が伝えている。

 プーチン大統領はもとから日本との平和条約締結に熱意を持っていない。この発言の約1週間後にモスクワで行われた安倍首相との会談は何ら成果を得られないまま終了した。

 この会談後に「ザページ」に寄稿した一文を以下に再掲しておく。

「安倍首相は1月22日、モスクワにおいてプーチン大統領と平和条約・領土問題について会談しましたが、交渉を具体的に進展させることはできなかったようです。

 今回の交渉は、昨年11月14日の両首脳の合意から始まりましたが、これまでの先人たちの努力を最初から無視して交渉が始められたように思えます。安倍・プーチン両氏は、「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すと明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉の進展を図る」としましたが、日ロ両国間の最新かつ最重要の合意は、「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続する」という1993年の「東京宣言」でした。

 1956年宣言には歯舞・色丹島しか記載されていませんでしたが、その後、1973年の田中角栄首相とブレジネフ書記長との合意、1991年の海部俊樹首相・ゴルバチョフ書記長の合意を経て、1993年の細川護熙首相とエリツィン大統領による東京宣言で、「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島」の、いわゆる北方4島が明記され、しかも、その「帰属に関する問題解決する」ため交渉することになったのです。

 これは37年間にわたる日ロ両国の政治家や外交関係者らによる努力のたまものであり、重要な前進でした。1956年以降の交渉は少しも進展しなかったという人がいますが、事実に反します。

 にもかかわらず、安倍首相とプーチン大統領の両氏は2島しか記載されていない1956年日ソ共同宣言だけを基礎として交渉を進展させることにしたのです。先人たちが長年にわたって積み重ねてきた合意の一部だけを取り出す恣意的な扱いと言わざるをえません。

 私は今回のモスクワ交渉の結果、事態はさらに悪化したと思います。ロシア側は、「両国が合意可能な解決を目指す」と言いますが、「第2次世界大戦の結果、千島列島全島に対する主権を得た」という、日本としては認めることができないことを要求するようになったからです。

 第2次大戦の結果、日本の領土は大幅に削減されました。1945年8月の「ポツダム宣言」では本州、北海道、九州および四国は日本の領土であることがあらためて確認されましたが、「その他の島嶼」については、「どれが日本の領土として残るか、米英中ソの4か国が決定する」こととになり、日本はその方針を受け入れました。しかし、「千島列島」や「台湾」などについて、帰属は決定されませんでした。

 ポツダム宣言を受けて第2次大戦を法的に処理した「サンフランシスコ平和条約」は自由主義陣営と社会主義陣営による東西対立の影響を受け、「千島列島」や「台湾」の帰属を決定することはできず、日本はそれらを「放棄」するだけにとどまったのです。

 日本の戦前の領土を縮小したのはポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約の2つだけです。戦時中、米英ソの3国間ではドイツ降伏後のソ連の対日参戦などを盛り込んだ 「「ヤルタ協定」なども合意されましたが、それはあくまで連合国間の問題であり、日本はそれに拘束されません。

 日本は、今日でもポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約を忠実に守っており、「千島列島」については放棄したままです。ロシアは、現在の交渉において、「千島列島」は第2次大戦の結果としてロシアが獲得したことを認めよと主張していますが、「千島列島」を「放棄」した日本が、ロシアの主権を認めるのは同条約に違反することとなり、それはできません。法的に不可能なのです。また、このロシアの主張を裏付ける根拠は皆無であり、日本もその他の国もロシアが「千島列島」の領有権を得たと認めたことは一度もありません。

 ではそうすればよいでしょうか。ロシアが現在の主張を改め、国際法にしたがった理論構成の主張に変えるのが一つの方法ですが、ロシアが果たしてそのようなことに応じるか疑問です。

 もう一つの方法は、「第2次大戦の結果に基づいた解決方法をあらためて探求する」ことです。そのなかで米国の役割をあらたに明確化する必要があります。第2次大戦の処理においてもっとも影響力があったのは米国であり、実際ロシアに対して「千島列島」の「占領」を認めたのも、また、日本に対して、「千島列島」の放棄を求めつつ、ロシアへの帰属を認めなかったのも米国でした。

 日本としては、米国に、そこで止まらず最終的な帰属問題の解決まで協力を求めることは理屈の立つことです。

 もちろん、米国としても世界各地で起こる第三国間の領土紛争には関与しないという大方針があります。また、これまでの伝統的な米国政権の外交方針と一線を画すトランプ政権がどのようなポジションを取るか、予測困難な面もあります。しかし、「千島列島」の帰属の問題は米国による決定の結果です。現在の米国外交としては例外になるでしょうが、米国に関与を求めることは合理的です。

 一方、ロシアは米国との対決姿勢から、北方領土交渉に米国の協力を求めることはしたくないという気持ちが働くでしょうが、千島列島の帰属など日本に不可能なことを要求するより現実的ではないでしょうか。

 日ロ両国は、1956年宣言だけを交渉の基礎とするという不正常な状態を一刻も早く解消したうえ、あらためて日米ロ3国の立場を整理しなおし、その結果に従って米国の協力を求めるべきです。平和条約・北方領土問題については日ロ間で解決を図るという従来の方針とは大きく異なることになりますが、第2次大戦後の秩序を問題にすればするほど、二国間だけでは解決できなくなっていることは明らかです。

 なお、北方領土問題は経済協力などを含め、将来の利用を抜きには語れなくなっています。また、安全保障にかかわる問題も出てきています。米国の協力を得ることはこれらの点でも望ましくなっています。」

2019.03.15

韓国は北朝鮮の説得に乗り出せ

 ハノイでのドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長との会談は合意に至らず終了した。双方に読み違いがあったようであり、その分析も重要だが、仕切り直しとなった非核化交渉は今後どうなるかが問題である。
 
 文在寅大統領は、昨年、シンガポールでの米朝首脳会談が実現するまで米朝間の意思疎通を助け、また、必要な助言を与えるなど、長らく敵対関係にあった米国と北朝鮮を結びつける積極的な役割を果たした。
 
 しかし、今や米国も北朝鮮も文大統領による仲介を必要としなくなっている。金正恩委員長が文在寅大統領に約束した韓国訪問をなかなか実行しないのはその表れではないか。

 韓国国会でも、文大統領の北朝鮮寄りの姿勢は野党から厳しく批判されている。
  
 北朝鮮は今次首脳会談において、寧辺の核施設を廃棄し、その見返りに制裁を緩和ないし全廃するという案で米国と合意できると踏んでいたが、その案は米国から峻拒された。北朝鮮がこの案を事前に韓国に見せたり、相談したりしたとは思わないが、そのようなことはしなくても北朝鮮の案は、韓国の考えでもあったのであり、韓国の考えも拒否されたのであった。

 しかし、北朝鮮は、首脳会談終了後の李容浩外相による異例の記者説明で、「米朝間では信頼関係の構築が必要であり、北朝鮮は信頼関係に相応する範囲内でしか非核化を実行できない」という方針であることを明言した。この説明は金委員長の指示によるものであったことは明らかであり、今後の交渉においてもこの考えは北朝鮮の基本方針として維持されるだろう。
 
 さらに、北朝鮮は新たな動きも見せ、北西部・東倉里のミサイル発射場で、撤去した施設の一部を復旧している。これに対しトランプ大統領は「もしそうなら、非常に失望する」と懸念を表明している。

 米朝間では、今後、一方では交渉を継続しつつ、他方では相手をけん制しあう状況が続く。

 今後、そんななかで韓国の役割が問われることになる。米国は文氏が今までとは逆に、北朝鮮を説得することを求めるであろう。
 
 米国は、もともと非核化は米朝間の問題であるという考えから、韓国が関与することを必ずしも歓迎していなかった。また、韓国は何かと言えば制裁の緩和を目論み、開城工業団地など北との協力を進めようとしていると警戒してきた。それはまさに文在寅大統領に対する警戒であった。今後も文氏があいかわらず北朝鮮のために発言し、米国を説得しようとすれば、韓国と米国とのギャップは大きくなる。

 困難を伴うことであろうが、文在寅大統領は北朝鮮に対する方針を転換し、非核化の実現を急ぐよう説得することを求められている。文氏が、米韓間のギャップの拡大を防ぐことは、米国にとってのみならず、結局は韓国にとっても利益となるのではないか。

2019.03.13

中国の全人代(国会)-雰囲気は悪い

 現在、中国で開催中の全国人民代表大会(全人代 日本の国会に相当する)は昨年と異なり、陰鬱な雰囲気であるとラジオ・フランス・アンテルナショナル(3月13日付)が伝えている。要点は次のとおりである。

 李克強首相は恒例の「政府工作報告」を行った。その中で人民の日常生活に関係の深い減税などにも触れていたが、人々の関心は、李首相が「今年は中米貿易摩擦のために企業の生産、経営、市場に不利な影響が出ることが危惧される。環境はますます複雑で厳しい」などと読み上げたことや大汗をかいていたことに向けられていた。

 李克強首相は以前から改革を実行しようとして妨げられることが多く、非常に不満で、怒りを爆発させることもあったところ、中国政府に近い『多維新聞』は、今回の報告を読み上げる際にその不満をぶつけ、はけ口を求めたのではないと評論している。

 李克強首相の健康状態は以前ほどよくないそうである。それも影響しているかもしれないが、必死に読み上げたのは、どこかで読み間違いでもすると習近平主席に厳しくとがめられるからだという見方もある。

 今年の全人代が緊張しているのは、いくつかの原因があるが、すべて習近平主席につながる。習氏は「七つの危険」を感じているためか、他人には絶対的に服従を求めるのである。「七つの危険」とは、政治、意識形態、経済、科学技術、社会、外部環境および党の建設に関する危険である。

 最高法院の周強院長が全人代で取材している記者を避けているのも雰囲気を悪くしている。同院長は、陝西省で起こった大規模開発事件に関する訴訟資料の大量逸失について記者から追及されるのを避けているのである。逸失事件の直接の責任者は王林清であるが、王氏の説明に国民は納得していない。資料の中には周強院長の責任を示す証拠があると言われている。

 周強院長の「明りの下は真っ黒だ」発言も奇妙である。司法に不正があるわけだが、周氏が言っているのは最高法院のことであり、そうであれば自己の責任が問われるはずである。

 周院長の全人代での報告では、去年はあった「人権」への言及がなくなっていたのも問題である。

 全人代への新疆自治区代表団が3月12日、記者会見を開いた。これには外国の記者も出席を許された。新疆はかねてから、ムスリムに再教育を強制しているという疑いをもたれており、強制収容所だとも言われていた。
 この記者会見は内外の記者の誤解を解く絶好の機会であったはずであるが、各国から問題人物として注目されていた新疆のナンバーワン、陳全国党書記は壇上におりながら一言も発せず、すべての説明をウイグル族のショハラト・ザキル自治区主席にさせていた。
 また、壇上の新疆自治区代表に名札が一切置かれていなかったのも問題であった。名札がないと、だれが話しているか、質問に答えているかよく分からない。新疆は四六時中テロの危険におびえているが、それだけでなく、中央から統制されることも恐れているのである。

 ラジオ・フランス・アンテルナショナルの記事は以上であるが、今回の全人代で関心が集まっているのは、外商投資法の改正である。米国は貿易交渉において外国企業に対する中国企業への技術移転の義務付けを撤廃するよう求めている。中国がこれに応じるには、外商投資法の改正が必要なのである。

 昨年の全人代では永久国家主席への道が開かれるなど習近平主席への権力集中が最高に達した。しかし、それ以来習近平主席には批判的な意見も続出していた。そんな中で開催された全人代で習主席がどのように乗り切るか、また、今後も絶対的な権力者であり続けるか注目されていたのである。

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