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2018.09.19

多国籍軍への自衛隊派遣

(要旨)

〇陸上自衛隊を「多国籍軍」に派遣することを検討中という。
〇「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
〇「多国籍軍」への部隊派遣については日本国憲法違反の問題がある。
〇イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。
〇2015年に成立した安保関連法によれば、自衛隊の「多国籍軍」への派遣は認められる。イラク戦争の際のような法擬制を作る必要はなくなったのだが、そもそも安保関連法は憲法違反の疑いが濃いものである。
〇今回検討されている「多国籍軍」への派遣は自衛隊を「PKOに派遣する場合の5原則に照らして問題ないと法律で定められていると言うが、PKOでない活動にPKO原則を適用するのは筋違いであり、意味がない。
〇日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。

(説明)
 日本政府は派遣をまだ決定していない。陸上自衛隊員2名の派遣を考えているようだ。
 
 この報道が行われたのは2018年9月18日である。

 PKOは、国連の決議でPKOとして認定された活動である。「多国籍軍」の場合、PKOとしての認定がないのはもちろんだ。しかし、国連の決議がまったくないわけではない。関連の決議はあるが、その内容が問題であり、国連として「武力行使」を認定しているか否かについて各国の意見が分かれる。イラク戦争の場合が「多国籍軍」の例であり、1991年の湾岸戦争以来何本かの決議が安保理で採択された。しかし、2003年のイラクへの攻撃開始の直前になっても、直接的にイラクを攻撃してもよいという決議は、米英などが懸命に努めたが反対意見が強く、成立しなかった。反対意見の最大の根拠は、査察が行われている途中だからであった。
 しかし、米国はそのような国連の状況ではらちが明かないと判断して攻撃に踏み切り、英国などが続いた。

 日本は、特別措置法を制定して、自衛隊を戦争の近くに派遣した。戦争に巻き込まれてはならないので「非戦闘地域」に限って自衛隊が活動できるようにした。しかし、これは法律によって作り出された擬制であり、「戦闘地域」と「非戦闘地域」の区別は言葉としては明確でも実際にははっきりしなかった。国会でその区別の説明を求められた小泉首相は、「そんなことは分からない。自衛隊が派遣されているところが非戦闘地域だ」と、条件と結論をさかさまにした答弁を行った。

 日本国憲法は、日本が国際紛争に巻き込まれ、武力行使することを禁止している(9条1項)。「多国籍軍」は紛争がある中で行動するので、それに参加すれば憲法違反となる危険が高い。そのため政府は「イラク復興支援特別措置法」を制定し、そのような仕組みにしたのであった。憲法をかいくぐるための措置であったが、政府としては米国に協力するためやむを得ない判断だった。

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