平和外交研究所

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2014.02.07

ソチ・オリンピックの陰にある政治問題

2月6日付のSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)レポートは、ソチ・オリンピックを成功させるためプーチン政権は500億ドル以上の投資を行ない、4万人もの警備員を投入しているが、すでに深刻な政治・国際問題が発生し、オリンピックが成功しても後に禍根が残るであろうという、Neil Melvin研究員のレポートを掲載している。

○プーチン政権が投下した資本はこれまでのどの冬季オリンピックより多額であるが、汚職、ネポティズム(縁故主義)、無能などのため、現地の経済はほとんど潤っていない。ソチ内外の村落は強制的に移住させられ、労働者は苛酷な待遇を強いられ、環境は破壊されており、現地の人たちの間には不満が高じている。
○ソチは紛争に明け暮れている北コーカサス地方にあり、プーチン政権は安全確保のため厳しい取り締まりを行なっている。その結果、紛争地域で続けられてきた対話と交渉は影を潜め、弾圧が強化されている。また、ロシアのかつての植民地政策によって引き起こされたサーカシアとの国境紛争に火をつける結果となっている。
○ロシアの警備隊は、安全対策として南オセチアで防御壁、監視カメラおよび国境検問所を設置したが、これらの措置はグルジアでの紛争を激化させている。
○この1月、ロシア政府はテロ対策と称して、ロシアと隣接するアブハジア地方との間で争いの対象となっている地域をソチ周辺の安全地帯に含めると発表した。これに対し、グルジア政府とNATOの事務総長はロシアの国境拡大に深刻な懸念を表明している。
○オリンピックは無事過ごせるかもしれないが、このままでは将来、地元の人々の不満がさらにひどくなり、暴力に転じる恐れがある。この地域で永続的な平和を実現するには地元の真のニーズにあった包括的・政治的なアプローチが必要である。

2014.01.19

靖国神社参拝に関する若者の反応 2

戦争指導者を敬う気持ちを持っている者は少ないのに、なぜ安倍首相の靖国神社参拝に多くの若者が賛同したのか。
一つには、靖国神社参拝が戦争指導者を敬うことになるという認識が若者には少ないためでないかと思われる。若者に限ったことでなく、靖国神社参拝を是とする人には、「靖国神社を参拝するのは戦争指導者を敬うためでない」と主張する人があり、安倍首相もそのような説明を行なっている。若者がそのような説明に影響されている可能性もあろう。
しかし、靖国神社参拝問題は戦後さんざん議論されてきたことであり、この問題に少しでも関心を持っている人なら、靖国神社がある時点から戦争指導者も祭ることにし、その方針を今でも変えようとしないことを知っている。多くの若者はそのことに注意を払う動機も機会もなかったので知らないだけだと思う。
もう一つの問題は、靖国神社参拝の是非を世論調査で問い、あるいは報道する場合に、「中国、韓国などの反応」に焦点を当てる傾向が、予期せぬ結果をもたらしているのではないかということである。先の大戦で大きな被害をこうむった隣国に配慮すべきであるのは当然だが、日本の若者は、常日頃中国や韓国から尖閣諸島、竹島、慰安婦、徴用工、教科書とあれもこれも言われるのに辟易し、しかもそれらは自分たちの世代が作り出したことでないので、靖国神社参拝についても「またか」という反応になりがちである。つまり、彼らは靖国神社参拝がよいことと思ったからでなく、中国や韓国が批判するからよいことだと思って、回答したり、書き込んだりしたのではないか。
もちろん、若者の反応を安易に一般化すべきでない。彼らには物事を理解する力があり、これからの未来を切り開いていく力がある。いわゆる歴史問題は彼らにとってとっつきにくく、厄介な問題であろうが、いずれそのような問題にも正しく対処していくであろう。若者は、我々年長の世代から見れば危ういと思うほど単純に反応することもあるが、無限の可能性を秘めており、我々としては、若者がどんな難問、難題にも対処できるよう、環境をよくし、手助けしていくべきであろう。
米国が「失望した」と言ったのは、このような観点から興味深い状況を作り出したように思われる。これを聞いて若者は驚いたのであろう。靖国神社参拝は中国や韓国による日本批判だけの問題でないという意味合いを感じ取ったからである。
私が話した若者は、靖国神社参拝は、中国や韓国がそれを批判するから問題なのではなく、戦争指導者を敬うことになるから問題なのだという私の考えを説明すると、きわめて率直に、「それなら話が違う。首相が参拝すべきでないことはよく分かる」という反応を示した。米国の態度表明と平仄があっているのではないか。

2014.01.17

靖国神社参拝に関する若者の反応

安倍首相の靖国神社参拝に関して、産経新聞社とFNNの合同世論調査(A)とNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションの分析(B)が相ついで公表された(後者は1月14日の日経新聞)。この二つの調査は手法が違うがともに靖国神社参拝に対する日本人の反応を調べるものであり、調査の結果はよく符合していると思う。
とくに興味深いのは若者の反応であり、Aは、若者(男)の半数以上が参拝に肯定的回答をしたとし、Bは、「ありがとう」「よくやった」「いいぞ」の声がネットにあふれたとしている。ネットへの書き込みをしたのは若者が多いと考えれば、Aと符合する。
しかし、日本人の若者はほんとうに首相が靖国神社参拝を支持しているか、疑問の余地がある。もし、「首相が戦争指導者を尊敬することを支持しますか」という問いであったら、回答者の半数以上が賛成したか。推測だがそうは思わない。
実は、安倍首相の靖国神社参拝の後、私も個人的に数人の青年と話をしてみた。これはAやBとは比較にならない小さい数であるが、符合する部分があった。とくに、安倍首相が靖国神社に参拝して、戦没軍人の慰霊をし、敬意を払うことには何も問題ないという反応である。
そこで、「では戦争指導者に敬意を払うことに賛成するか」と聞くと、明確に否定的な反応が返っていた。一般の戦没者に対するのと正反対である。
この点についてはAもBも触れていない。Aはそのような質問はしなかったのであろう。Bは、質問に対する回答でなく、ニュース速報を見聞きした人によるネットへの書き込みの分析なので、戦争指導者の書き込みがなかった(少なかった?)のはなんら不思議でない。
要するに、「戦争指導者を尊敬するべきか否か」という戦後の日本を苦しめてきた問題について日本国民がどのように考えているか。AでもBでも分からないのである。
一方、Bには、安倍首相が参拝した日の午後、米国の駐日大使館が声明を発表すると、そこで使われた「失望」がネットで一気に広がった。米国大使館の声明に若者は鋭敏に反応したのである。ただし、この反応が米国の声明内容に賛成、つまり安倍首相の参拝に反対したのかどうかは分からない。この分析はネットに書き込まれた言葉を単純に集計したにすぎないからである。

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