平和外交研究所

2014年6月

2014.06.16

素顔の中国人②

○青樹氏は日中関係の変化にも強い関心を向けている。当然であるが、長らく素顔の中国人と接触した同氏の観察は興味深い。
同氏が初めて中国と接した頃と比べると、中国語を学ぶ日本人学生の数は現在激減しており、同氏にとってもそれは衝撃的なことであった。その原因の一つは最近の日中関係の悪化にあるのであろう。
一方、中国でも世代の別を問わなければ日本を嫌う人の比率が非常に高くなっているが、その原因は子細に観察する必要がある。
○日本人が中国のことを知るのはニュースメディアからであり、他の情報源と比較してその比率は非常に高い。一方、中国人が日本のことを知るのは、ニュース番組もさることながら日本を描いたドラマの比率が高い。ニュース番組は当局の統制下にあるのでかなり歪曲されている。日本のニュースについても絶対正しいという保証はないが、中国は強い言論統制が敷かれており、比較にならない。
○さらにドラマについては大きな問題がある。いわゆる抗日ドラマであり、そのなかで描かれていることは言葉にするのがはばかられるくらいひどいものであり、日本人は残虐非道に描かれている。時代や、風習の考証も非常に問題があり、粗末である。残虐な日本兵が中国人を虐待する場面を見た中国人のなかには我を忘れて日本人を憎む人もいる。
○中国はつねに抗日ドラマを制作してきたわけではない。多くなったのは2009年以降であり、それ以前のドラマが好んで題材としたのは事件物(警察ドラマ2002-2004年)、時代劇(2004年から)、国民党との戦いを描いたスパイもの(2005-2008年)であった。2009年ごろから抗日が題材となったのは、台湾との関係が前進したので国民党を悪く描けなくなったためかもしれない。
○日中関係の悪化がこのような抗日ドラマに影響しているか。青樹氏の印象ではむしろ影響は少ないようである。ただし、世代の違いを勘案しなければならない。すくなくとも若者はあまり影響を受けていないようである。そのことを示すのが、日本語を学習する中国人学生の数であり、2009年と比べ2012年には26.5%増加している。2012年夏は尖閣諸島の関係で日中関係が緊張した時であったが、事件後もこの傾向は変わらなかった。
○共産党がこのように低劣な抗日ドラマの制作を直接指示しているとは言えないようである。たしかに当局は、ドラマが日本について好意的な報道が増加するのを警戒しており、検閲もある。ドラマの制作者は、当局との関係、検閲などの経験から一定のことはタブーあるいは危険水域として扱わなければならないと認識している。それは、中国人の国民性、日本人の人間性、具体的な戦時状況、日本人が行なった善行などである。
○ともかく若い世代の日本に対する関心や好みはあまり影響を受けていない。日本に好意を抱く人は、とくに若い世代で増加してきたのは事実であるし、これからも増えていくのではないか。もっとも今は日本に好意を抱いていても、年齢が高くなると違ってくることはありうるが、日本に対する好感度はたんなる年齢の問題でなく、1995年以降、さらに2000年以降に生まれたものはさらに日本を愛好する傾向が強いという人も居る。
○日本として、あるいは日本人としてどのように中国人と接するべきか。青樹氏の講話は参考に富む。大きく言って、年若い世代が成長し、実生活を経験していく中で対日好感度は変化するのか否か、また、共産党の独裁体制がどのようになっていくか、などには十分注意しながら、素顔の中国人との接触を大切にし、発展させていくことが肝要であると思われる。

2014.06.15

素顔の中国人①

「哈日族と抗日ドラマ」をテーマとした青樹明子氏の講演を聞いた。同氏は約17年間中国に居住し、北京師範大学、北京語言大学などで中国語を学んだ後1998年から2001年まで中国国際放送局に勤務した。
「哈日族」とは日本のアニメ、コスプレ、Jポップなど日本の現代文化を愛好する人たちのことで、もともと台湾の社会現象から生まれた言葉であったが中国へも波及し、今では中国にも「哈日族」がいるのである。
彼女の講演ではつぎの諸点が印象的であった。

○青樹氏は中国における豊かな経験をつうじて、共産党の支配体制の維持や金儲けに忙しい中国人でなく、日本人とも、またおそらく世界のどの国の人たちとも共通の感覚を持ち、また、日本の文化に対して興味を抱けばその気持ちを率直に表明できる若者と知りあった。我々は何らかの職業の関係で中国に滞在するのが普通であり、目の前に現れてくる中国人は多かれ少なかれ色がついており、自然な姿をさらけ出すことはまず期待できないが、ラジオ放送を通じて知り合った中国人は飾らない、素顔の人たちであり、彼女の体験はそれだけに貴重である。
○中国人は実は日本に好意を抱いている。もっとも、このことについてはいくつかの注釈が必要である。
まず、年代によって状況は違っている。日本に対し好意を持つ中国人は若者、とくに20歳以下が多い。世代別の調査によると、15-20歳代は12.3%が日本を好むが、21-30歳代になるとその3分の1くらいに激減する。
それはともかく、15-20歳代が日本を最も好む割合は他のどの国と比べても高く、日本の次ぎはフランス、米国、韓国となっている。
この傾向は学生の専攻科目選択においても同じことである。すなわち、過去5年間、大学を受験する学生の志望者が多かったのが英語、次いでコンピュータ、ITビジネス、その次に日本語であった。英語が一番なのは自然な結果なのであろう。コンピュータとITの次に日本語が来るのは意外な気持さえするが、受験生は「好み」で専攻を選ぶ傾向がかなり強いからだそうだ。専攻を選ぶ基準として「就職」と答えた者は意外に少なく(25.2%)、40.1%が「好み」で選ぶと答えている。
○中国にはこのような飾らない人たちがいることを感じている日本人は、中国で生活体験のあるなしにかかわらず、少なくないであろう。しかし、青樹氏の場合は完全にメークを洗い落とした中国人と接触することができた。それは、彼女が日本語で語りかけるのに耳を傾けるというラジオ放送の空間で初めて現れてきたことなのであろう。若者に限らないが、インターネットを通じて初めて知り合う人がいる。何の前提条件もなく、また、脅威を感じることのない状況で知り合うことができるのはインターネットもラジオ放送も共通なのかもしれない。しかもラジオの場合はインターネットのような不確かさが少ない。彼女の場合は中国当局から保証をえながら、当局がともすれば隠したがる素顔の中国人を知ることができたのである。
○青樹氏は知り合った人たちと北京郊外の抗日記念館に行こうと誘った時のことを話してくれた。数人いたが、どの中国人も行ったことはなかった。このこと自体ちょっとした発見であったが、これから行こうと誘ったら、なかに自分は行きたくないと断った人がいたそうであり、これは驚きであったらしい。
これはどういう事情なのか。もう少し聞きたかったが、他の質問に忙しく聞きそびれてしまった。ひょっとして、その人は共産党政権がすることなど全く信用していないのではないか。それはありうることだと思われる。

2014.06.13

中越関係に関する多維新聞論評について

昨日(12日)の『多維新聞』の論評について、「参考となる」と書いたが、具体的にはつぎの諸点を指摘できる。

○ベトナムは中越戦争で敗れ、今回の西沙諸島海域での紛争においても中国の軍艦を恐れているように記述しているが、中越戦争でベトナムは勝ったとは言えないにしても一方的に負けたのではなく、中国もかなり手こずったはずである。今回の紛争において、ベトナム側は中越戦争の二の舞になることを恐れ態度を軟化させたといえるか疑問である。
○『多維新聞』は中共中央宣伝部のコントロール下にないので、中国の内政については客観的な見方をすることが可能であり、したがってまた我々が参考にできる記事を書いているが、中国の対外関係については内政と違って中国側の立場に立ち、ナショナリスティックな傾向が露骨に出てきている印象がある。その例が、中国が現在柔軟な態度を取っているような描写をしていることである。中国は、一方では石油掘削機をあくまで動かす構えでありながら、他方で口先だけ物分かりの良いことを述べているにすぎないのではないか。そうであれば現政権特有の既成事実の押し付けに他ならない。
○中国は、日、比に対しては軍艦を派遣せずいわゆる「海警」でとどめている。すなわち、日本の海上保安庁に相当する機関の対応にとどめているが、ベトナムに対しては軍艦を派遣したという指摘は事実であるし、重要なことであろう。
○中国が2隻の軍艦を増派したことに関して、外交部と人民解放軍の姿勢に違いがあるのかという問題提起をしている点も興味深い。結論は「違いはない。国家安全委員会の統率下で矛盾はない」という趣旨にしているが、これはそのまま受け取るべきでなく、『多維新聞』は両者の間に違いがあることを婉曲に言っていると解すべきかもしれない。
○中国のベトナムに対する態度と、日、比に対するのとで違いがあるのは、ベトナムの場合西沙諸島を実効支配しており、かつ石油掘削機がすでに操業を開始しているので、強硬策を取るほかないと判断したためとも考えられる。

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