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2017.03.04

(短文)スウェーデンの防衛能力強化

 スウェーデンは3月2日、7年前に廃止した同国の徴兵制を2018年1月から復活させると発表した。いまどき徴兵制を復活させるとは一体どういうことか、怪訝に思われる人も多いだろうが、スウェーデンでの徴兵制復活には、大きく言って2つの理由がある。
 その1つは、兵役に志願する若者の数が減少して防衛力の維持がおぼつかなくなってきたことだ。スウェーデンでは2010年に徴兵制が廃止されたのち、年4千人の新兵を志願兵で賄ってきたが、賃金が安いため志願者が減少し最近は3千人も集められなくなっていた。
 もう1つの理由は、ロシアの潜水艦がスウェーデンに近い海域にしばしば現れるようになったことだ。スウェーデンのフルトクビスト国防相は、「彼らは我々のすぐ近くで、多くの演習を行っている」などと指摘している。

 防衛能力を強化しようとしたのはスウェーデンに限らず、バルト三国も同様である。これらの国にはロシア系住民がおり、2014年のロシアによるクリミア併合のようなことが起こることを強く警戒している。
 
 スウェーデンの防衛能力強化は徴兵制の復活だけでない。2016年6月、スウェーデンは米国と軍事協力のための合意(statement of intent)に署名した。スウェーデンは中立を国是としており、そのためNATOにも参加していないが、NATOがロシアとパートナーシップを結ぶようになるに伴い、スウェーデンもNATOとの協力関係を進めた経緯がある。
 米国との合意は西側との軍事協力をさらに一歩進めるものであった。スウェーデンの中立性を損なわないよう、形式的には軽い合意になっているが、共同演習や武器のNATO仕様化などを含んでおり、フルトクビスト国防相は、「我々はこれまで米国と個別のことについては協力関係にあったが、この種の包括的な傘は初めてである」と述べている。

 スウェーデンの米国との軍事協力合意と徴兵制の復活は日本から見ても興味がある。
 第1に、スウェーデンは今後も中立であり、米国と同盟関係にないので、核はもとより通常兵器による防衛も米国に期待できない。したがって、かりにロシアと軍事的な衝突が起こっても自国の力で防衛するほかない。実際には国際社会から支援を受けるだろうが、それは政治的なものである。
しかし、だからと言って、スウェーデンは防衛努力を強化することを無駄と考えない。ロシアと大規模な軍事衝突が起こるとは想定していないだろうが、小規模の戦闘は起こりうる、その場合に備えることは必要との考えだ。
 第2に、日本では徴兵制などありえないと見られている。しかし、日本が米国の要望するように軍事安全保障面で対等の立場で協力することになれば、徴兵制も現実に検討の対象となるかもしれない。スウェーデンは中立国、日本は安保条約で守られているということは決定的な違いでない。
 日本は世界中で活動できるよう法整備を行った。国民の認識はそれに追いついていないようだが、スウェーデンで起こっていることを見ると、他人事でないかもしれないと思えてくる。

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