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2015.06.10

エルマウ・サミットと日ロ関係

 2015年のG7サミットは、6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催された。サミットの有用性、必要性についてはかねてからさまざまな議論があり、今年も会議場の周辺でサミット反対の示威行動があったが、自由、領土保全、国際法、人権尊重などの価値を共有するG7諸国が、ロシアと中国に対し注文を付ける形になった今年のG7サミットは、その有用性をあらためて強調する機会になったと思われる。
 日本が重視していた南シナ海での中国の行動への関心は比較的低かったという見方もあるようだが、ロシアと中国に対する扱いをバランスよく比較するのは困難である。また、サミットに先立ち、4月にリューベックで開催されたG7外相会議では「海上の安全保障に関する宣言」が採択されており、G7として南シナ海問題にどのように対応したかについては、その宣言もあわせて考慮する必要がある。
 それはともかく、今年のサミットでは、ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点であり、議論の結果は、ロシアがミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守し、ウクライナ領内の親ロシア派に対するロシアからの越境支援を中止することを求め、さもなければロシアに対する制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となった。
 ロシアとの関係では、米国、欧州諸国、それに日本の立場が違っているのは事実であり、そのため、ロシアに対しもっとも強硬な米国に欧州と日本がどこまで同調するかが注目された。しかし、この違いは誇張されるきらいがあり、とくに、オバマ大統領の任期が終わりに近づいているためにその政治的立場が弱くなっていることと関連付けて見られることがあるが、今回の首脳宣言は米国の主導かつ主張する強い姿勢が他のG7諸国にとっても必要であることを再確認する結果となった。
 しかしロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨むことに不満であり、日ロ関係にも悪影響が及ぶとなかば脅しのようなことも口にする。
 一方、米国は、日本がロシアとの関係を進めると西側としての連帯を弱めると警戒し、牽制とも受け取れる発言を行なう。
 日本は、このように微妙な状況の中でロシアとの関係をいかに進めていくべきか。安倍首相にとっては、今次G7サミットは日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする一つの機会であっただろう。安倍首相はフランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのレンツィ首相と相次いで会談し、ロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解が得られたと言われている。
 サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。
 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っている。
 しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らない保証はない。この度のG7エルマウ・サミットにおいて、安倍首相は日ロ関係を進める見通しがついたという判断があるかもしれないが、事態はまだかなり流動的であると思われる。

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