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2014.05.16

安保法制懇の報告ーグレーゾーン

5月15日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書が提出された。取り上げられている問題は集団的自衛権に限らない。いくつかの論点があるが、報道では今後与党での検討はいわゆるグレーゾーンに関する問題から始められるそうである。
具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。



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