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2016.03.18

(短評)李国強首相の奮闘と人物像

 中国の全国人民代表大会(全人代 国会に相当する)は3月16日、閉幕した。全人代は表舞台だから本当のことは分からないというのは半分間違いだ。30年前に中国で勤務した時でさえ、中国の本当の姿が、完全にではないが、漏れてくることがあった。今は、その時とは比較にならないくらい多くのことが見えるようになっている。

 まず注目されるのは政府活動報告である。政治的にデリケートな問題はそれを聞いてもわからないが、経済情勢と今後の見通しについてはかなり率直に実情が語られる。李国強首相の政府活動報告には特徴的なことが3つあった。
 第1に、今年の経済成長率の目標は6.5~7%と、かなり幅のある見通しが示された。昨年も「7.0%前後」と一定程度概数であったが、今年は昨年以上に予測困難な状況に立ち至っているのだろう。
 第2に、財政赤字の対GDP比率は3%と、昨年実績の2.4%を大きく上回る過去最高の水準となった。楼継偉・財政部長(財務相)は記者会見で、状況次第では財政赤字が3%以上になることもあると説明している。
 第3に、例年は明示されていた貿易総額(輸出入の合計)の目標数字が公表されなかった。ちなみに昨年は6.0%増という目標であった。

 この政府活動報告は、国政全般にわたる大部の報告(A4判36ページ)であり、李首相はこれを読むのに2時間近くかかった。その間、何回も言い直し、鉄鋼生産の減少量に至っては、9千万トンと原稿に記載されていたが、「900万トン」と読み違え、これはそのままとなった。李首相の政府活動報告を聞いていた各国記者の中には、李首相は元気がないと漏らした人もいたそうだ。

 全人代の終了に際して李首相は恒例の記者会見を開いたが、これがまた、大変だったらしい。香港の『大公報』紙3月16日付は、「もっとも厳しい(最先鋭)」記者会見だったと評し、「株式市場、養老年金、工場閉鎖と失業、国有企業、農民が受けた損失など経済社会の問題点を鋭く突く質問が相次いだ。中国経済は火山の噴火口の上にあるようなものだ。過去数十年間高成長の陰で隠れていた諸問題が噴出しかけている。記者会見が始まって間もなく、李首相は何回も無意識に姿勢を正していた。李首相は針の筵に座っているようだった」と報道している。

 蛇足かもしれないが、李国強首相は中国内で、一部であろうが、「弱い指導者」と見られている(本HP3月16日「ある中国人実業家の率直な発言が暴露した中国の政治状況?」参照)。
 その当否はともかく、中国内の政治状況には不安定な面があり、その中で李国強首相の立ち位置には注目が必要だ。

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