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朝鮮半島

2017.07.18

北朝鮮のICBM実験ーザページへの寄稿

 北朝鮮によるICBM実験に関し、ザページへ2回にわたって寄稿した。

(北朝鮮と米国の関係を主に)
 「北朝鮮は7月4日、ついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験に踏み切りました。北朝鮮がICBMを保有するようになると米国は核攻撃の危険にさらされます。そのため、ICBMの実験は米国にとってレッドライン、つまり、忍耐の範囲を超えると見られていました。
 
しかし、米国は北朝鮮に対して当面は実力行使をしないと思います。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると同盟国である韓国や日本が甚大な被害、壊滅的ともいえる被害を被る可能性があるということです。さらに、米軍自体の犠牲も非常に大きくなるという予測が20年前のシミュレーションで示されていました。今ならもっと大きな被害、これは推測に過ぎませんが、米軍兵士の犠牲は作戦開始から3カ月で数万人に上るでしょう。

このシミュレーションは、北朝鮮の非核化を目指して、核とミサイルだけを標的にして攻撃することはほぼ不可能だという前提に立っています。中東では限定的な範囲の作戦が可能かもしれませんが、北朝鮮の場合は、国土が消滅するくらいの攻撃でない限り、核とミサイルを完全に破壊することは不可能だと見られています。つまり、北朝鮮との間では限定戦争ではとどまらず、全面戦争になることは避けがたいのです。

 今回実験したミサイルは本当にICBMか、疑問なので米国は本気になっていないとする見方もあります。北朝鮮はICBMだと発表しました。米国は当初慎重でしたが後にICBMだと認めました。しかし、ロシアは「中距離弾道ミサイル」だと言っています。

 しかし、遺憾なことに、北朝鮮のミサイル性能は、米国本土への到達が可能なぐらいにいずれ向上するでしょう。そうなるとレッドラインはどこまでか、あらためて問題になりそうですが、レッドラインは事前に示しておくようなことではありません。米国としてはどう対応するか選択の余地を残しておくでしょう。これは米国だけのことでなく、国際間で対立状態にある場合の常識です。トランプ大統領自身、「レッドラインはひかない」と言っています。
 
 米国は今後どう対応するでしょうか。トランプ政権はさる4月中旬、つぎのような北朝鮮政策を決定したと伝えられました。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。

 第4番目の「軍事的措置の検討」は今後も続けられるでしょう。つねに最適の選択肢を求め続けていくわけです。

一方、中国に北朝鮮への影響力を強めるよう促すことについては、黄信号が灯りはじめました。米中間で中国企業への制裁や台湾への武器売却などをめぐって不協和音が出始めたのです。北朝鮮による実験直後に開かれた国連安保理では、中国はロシアとともに制裁の強化に反対しました。トランプ大統領はその後も中国に期待するとの発言を行っていますが、中国はロシアとともに米国に協力しなくなりつつあるのです。

 一方、トランプ大統領は、この4項目政策には含まれていませんが、北朝鮮に対してミサイル実験を控えさせるため強い姿勢を示しました。4月中旬、空母、高性能潜水艦、爆撃機などを朝鮮半島に派遣し、「これは無敵艦隊だ」と述べるなど外交的には異例の行動に出たのです。俗な言葉では、「恫喝」しようとしたと言っても過言でないでしょう。

推測ですが、北朝鮮はトランプ大統領の出方に非常に神経をとがらせたと思います。一つ間違えば北朝鮮は完全に抹殺されてしまう危険があったからです。

しかし、トランプ大統領のこのようなおどろおどろしい発言は効果的でありませんでした。それから3カ月近い時間をかけ、慎重に状況を見極めた結果、北朝鮮はICBMの実験をしても米国が軍事行動に出ることはない、軍事行動は米国や韓国および日本にとってあまりにも大きな犠牲となるので米国は踏み切れないと判断したのでしょう。ICBMの発射強行は、いわば米国の足元を見た形です。

その間、一時期は、米中両国が協力して北朝鮮への圧力を強めるという、北朝鮮がもっとも嫌悪する状況になりました。北朝鮮を擁護してくれる国がなくなるからです。しかしその後、両国の意見はふたたび食い違ってきました。この経緯は北朝鮮の判断にとって重要な補強材料になったと思われます。

国際社会の抗議を無視して核とミサイルの実験を繰り返す北朝鮮を容認することはもちろんできませんが、北朝鮮はある意味、命がけで行っている挑発行為であり、それには緻密に組み立てられた対応が必要です。米国は中国に頼るだけでなく、みずから北朝鮮と向き合い解決の道を探るべきだと思います。」

(米国と中国及びロシアの関係を主に)
 「北朝鮮は7月4日、米国側のレッドラインと目されてきた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に踏み切りました。これは深刻な問題であり、国際社会が一致して対応しなければならないはずですが、残念ながら、主要関係国の足並みは乱れてきました。

その象徴的な表れが、翌日に国連本部で開催された安全保障理事会の緊急会合でした。安保理では、これまで北朝鮮が核やミサイルの実験を行うたびに決議、あるいは報道声明を行ってきました。今回は、これまでのどの実験よりも大きな問題であるICBMの発射実験でしたが、その対応をめぐり各国は合意できませんでした。

北朝鮮問題は安保理会合の直後にドイツで開催されたG20首脳会議、またその際に行われた日米、日韓、米韓、米ロなど個別の会談でも話し合われました。これらの会議では関係国間の連携を強化するなど意見が一致したと盛んに言われましたが、実質的な内容は乏しく、かえって各国間の立場の相違をさらけ出した印象です。

 安保理が失敗に終わった原因は、第1に、米国作成の決議案について、ロシアがICBMではなく中距離弾道ミサイルであると主張し、制裁の強化に賛成しなかったからであり、 第2に、中国も制裁強化に賛成しなかったからでした。
 
ロシアは従来、北朝鮮の核・ミサイル問題について、自国の見解を強く主張することはありませんでしたが、今回の安保理では急にしゃしゃり出てきて米国作成の決議案の修正を強く求めました。ロシアが積極姿勢に転換した背景には、貨客船万景峰(マンギョンボン)号の定期運航開始にみられるように、北朝鮮とロシアとの関係緊密化があると見られています。

従来、国際的に北朝鮮の立場を擁護するのは事実上中国だけでした。しかし、北朝鮮は金正恩委員長の下で中国に不満を示すことが多く、とくにトランプ政権下で米中が協力して北朝鮮に対する圧力を強化する姿勢を見せるようになったことから、北朝鮮は一層ロシアの方を向くようになったのです。

注意すべきは、ロシアが北朝鮮問題についても中東問題と同様、米国との関係全体を踏まえて行動するようになっていることであり、単純化して言えば、米国の勝手にさせないという気持ちが出てきていることです。
 
一方、中国はさる4月の習近平主席の訪米以降、米国に協力する姿勢をより鮮明にするようになり、トランプ大統領は中国が努力していることを評価する発言を行っていました。

しかし、6月21日に開催された両国間の外交・安全保障対話から再び両国の立場の相違が目立つようになりました。 米政府は同月末、中国企業に対し新たな制裁を行うと発表する一方で、台湾に対する武器売却を決定しました。さらに7月2日には、南シナ海のパラセル諸島(中国名西沙諸島)トリトン島から12カイリ内で「航行の自由作戦」を行いました。

いずれも中国が嫌悪することです。推測ですが、トランプ大統領は、中国が不満を抱くことが想像できたので、習近平主席に電話し、会談しました。しかし、習氏は「両国関係はいくつかのマイナス要因によって影響を受けている」とこぼしたと言われています。事実とすれば、これはかなり強い不満の表明です。

トランプ大統領は、その後も中国が北朝鮮に対する圧力を強化することを期待していると語っています。オバマ大統領時代の対北朝鮮政策「戦略的忍耐」をこき下ろしたうえで、去る4月に打ち出した新しい対北政策方針を維持しているのですが、ここへ来て中国はふたたび米国から距離を置くようになりました。そして、ロシアが強面を見せ始めました。

さらに、トランプ大統領は北朝鮮にミサイルの発射を止めさせるため、空母を派遣するなどの「恫喝」までしました。これは今日の国際社会では常識的にはあり得ないことですが、米国の空母、高性能潜水艦、爆撃機のパワーを誇張して北朝鮮に見せつけたのです。しかし、これも効果は上がりませんでした。そのような強圧的方法で北朝鮮が動くことは今後もないでしょう。このような状況を鑑みるに、北朝鮮問題はオバマ政権の時より改善していないばかりか、一層困難になったと言わざるを得ません。

一方、北朝鮮の核・ミサイルの開発は着実に進んでいます。米国は一刻も早く堂々巡りのチキンレースを終わらせ、北朝鮮問題の本質、つまり朝鮮半島の「非核化」に自ら取り組むべきであり、軍事行動による非核化が困難なのであれば、北朝鮮との直接対話を始めるべきです。今のところトランプ政権は、対話の開始には「環境が整うこと」が必要としていますが、対話の条件はできるだけ少なくすべきです。

日本政府も「圧力強化」の一点張りでなく、トランプ大統領が対話に踏み切るよう後押しすべきでしょう。」

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