平和外交研究所

7月, 2021 - 平和外交研究所

2021.07.16

日本のコロナ禍は深刻でないと考えるか、欧米諸国は

 新型コロナの感染者数がまたもや急上昇し始め、東京都では7月14日から1千人を超え、8月中旬には2千数百人に達する可能性があるという予測も出ている中で、「日本は欧米諸国に比べ感染者数も死亡数も非常に少ない。日本の状況は欧米諸国に比べ深刻度ははるかに低い」という欧米の見解が紹介されることがある。さらに、「日本人は騒ぎすぎではないか」というニュアンスが込められていることさえある。

 統計をみると、7月15日の時点で、米国がもっとも被害が大きく、これまでに3395万人が感染し、61万人が死亡。ヨーロッパの国としてフランスを例にとると、感染者数は588万人、死亡数は11万人である。一方、日本は感染者数が83万人、死亡数が1万人である。これは米ジョンズ・ホプキンス大の集計から取った数字だと報道されている。四捨五入のために実数とは若干異なっており、日本の死亡数は実際は約1.5万人である。また各国の統計が正確か、取り方はそろっているか、コロナ禍の初期では風邪やインフルエンザとして統計処理された数字が混じっていたか、など困難の問題はあるが、ここではそれらに目をつぶるほかない。

 たしかに欧米の感染被害は日本よりはるかに多く、一言でいえば数倍から数十倍の多さである。単純にこの数字によれば、日本の深刻度は低いということになりかねない。しかし、コロナ禍がいかに国民を苦しめているかは数字だけで測れない。各国の国情は同じでない。

 日本では、丁寧に社会を作り、運営している。衛生、安全などにかかわる重要な分野では、日本人は安全で気持ちよく過ごせるよう生活環境を整え、生活している。米国でもヨーロッパでも、さほど危険だと思われない状況であっても、日本人としては防護柵を設けなければ安心できないということがよくある。

 医療中でも重要であり、日本ではすべての人が医療を受けられるよう優れた制度が作られており、それが不安定化しそうになると日本人は神経質に反応する。しかし、行き過ぎになることも起きている。病床がないからと言って病人を廊下に寝かせるということは絶対できないので、救急患者を受け入れないことも生じている。法律の問題もあるが、それはあってはならないことであるが、現実に起こっている。

 医療の面では日本人の我慢できる範囲は非常に狭い。かつて、修正主義者は、日本人は我慢強い、だから改革ができないと日本人を批判したが、これは一面しか見ない議論であり、日本人は人一倍我慢することもあれば、他の民族より我慢しないこともある。なぜそうなるかは長い歴史と文化によることであり、いいとか悪いとか簡単に言うべきでない。

 ともかく、日本にはそのような安全のバランスともいうべき状況がある。それが崩れると日本の社会全体が不安定化し、危機に陥る。そうなれば社会問題、ひいては国家的問題となる。

 日本の方法だけが優れているとか主張する気持ちはない。だが、各国の事情は尊重されるべきであり、数字に表れないことにも注意が必要である。

 テレビのワイドショーなどを見ていると、日本の数字が欧米より低いことはかなり多くの人が知っているようだが、日本は欧米に対してどのように日本の事情を説明し、理解を求めるべきか、この点を論じ、あるいは主張しようとする例はほとんど見られない。残念である。
2021.07.15

中国の演習予告取り消しと復活

 中国海事局は7月12日、黄海の2つの地域において同日12時から16日12時まで、「重大な軍事活動」を行うので船舶はその期間中当該海域に進入できないと発表した。また、この発表に先立ち、同月5日と6日に、黄海中部においてミサイルの残骸が落下すること、および「重大な軍事活動」が行われることが発表されていたが、後者は6時間が経過しないうちに取り消された。

 「重大な軍事活動」については、いったん発表され、すぐ取り消された後、6日間後に再び実施されることが発表されたのであり、異例の発表を行った中国当局の真意について憶測が生まれていた。

 米系の『多維新聞』などは、麻生副首相が5日に行った台湾に関する発言、すなわち、「中国が台湾に侵攻した場合『存立危機事態』にあたる可能性がある」との趣旨の発言と関係があり、中国はその発言に不満であることを示そうとしたのではないかと報道している。

 また中国外務省の趙立堅副報道局長は6日の定例会見で、麻生発言について、「強烈な不満と断固とした反対を表明する」、「(麻生氏の発言は)誤っており、危険だ」、「(過去の日本の侵略の歴史に触れて)現在の中国はすでに当時の中国ではない。いかなる方式であっても台湾問題に介入することは絶対に許さない」と述べ、日本側に抗議したことを明らかにした。

 さらに台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室も同日、「台湾問題に干渉する一切の誤った言動をやめるよう求める」とする報道官のコメントを発表した。

 麻生副首相の発言を中国がどのように見たかについては、これらの反応以上に我々が推測を加えるべきでないが、中国側では今後さらなる反応や反発があるか、また日本側でも類似の発言が続くか、注目しておく必要はあるだろう。

2021.07.07

中仏独首脳会談

 中国の習近平国家主席、フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相が5日、オンラインで会談した。

 習主席は、「世界には国連を中核とする国際体系しかなく、国連憲章が唯一のルールだ」と米国を意識した発言を行いつつ、「中国が望むのは自らの発展であり、他人に取って代わることではない。『一帯一路』を唱える目的は共同発展のチャンスを作り出すことであり、欧州が平和と安定、発展と繁栄をともに守ることを希望する」などと訴えたという。ただし、これは中国国営中央テレビ(CCTV)のウェブサイトの報道であった。

 中仏独の首脳会談が行われた背景には、中国に対し米国が欧州諸国と連携して厳しい態度で臨んでいることがある。欧州諸国は、基本的には米国と同様、香港や新疆における人権問題、南シナ海での国際ルールを無視した中国の行動に批判的であるが、米国と欧州が完全に一致しているわけではない。中国としては仏独両国が今まで以上に米国との足並みをそろえることを牽制し、また中国に対する各国の厳しい見方を緩和しようとしたのであろう。

 欧州のビジネス界は中国の国家資本主義的行動に批判的でありながら、一方では中国企業との関係になお期待を抱いている。欧州の有力なビジネスロビー団体「欧州産業ラウンドテーブル(ERT)」が6月5日、EUの首脳に対し行った要請にも中国に対する硬軟両様の考えが表れていた。
 
 中国ではこのような動きを注視し、ビジネス界にも働きかけている。習主席はマクロン仏大統領やメルケル独首相との会談で、中国としてはビジネス関係者などの往来を容易にする「ファストトラック」について制度を整える意向も示したという。
 
 しかし、中国による仏独への働きかけが奏功するか、全般的な状況は不透明である。最大の懸案となっている中欧投資協定も成立の見込みは立っていない。

 中仏独は3か月以内に第2回会談を行うこととしたというが、そこにも状況の不透明さが表われている。

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