平和外交研究所

4月, 2019 - 平和外交研究所 - Page 4

2019.04.09

中国の「一帯一路」による中南米への進出

 VOAの中国語版である「美国之音」は4月7日、中国の「一帯一路」による中南米への進出を米国が警戒しているとして次の諸点を報道している。

「中南米の諸国は相次いで中国からの投資を歓迎し、「一帯一路」への参加希望を表明している。

パナマのバレーラ大統領は先般香港訪問した際、パナマ運河によりアジアと米国を結びつける構想について発言した。中国は現在すでにパナマ運河の第2の利用国である。
パナマは昨年台湾と断交した。習近平主席が同国を訪問した際、「一帯一路」への支持を表明した。パナマは米国との摩擦は避けたいが、中国との投資・貿易関係の強化は進めたい考えである。
ポンペオ米国務長官は昨年10月、パナマを訪問し、バレーラ大統領にあって米国の考えを伝えた。

なお、メキシコも「一帯一路」への参加を検討中である。

トリニダードトバゴは昨年5月、「一帯一路」への参加を表明した。すでに中国企業が同国で港湾改修契約を結んでいる。

中国は1990年代から中南米諸国と石油など開発のための借款・投資について合意しており、「一帯一路」によりさらに拡大したい考えである。

ベネズエラに対しては620億ドル、ブラジルには420億ドル、アルゼンチンには180億ドル、エクアドルには170億ドルの借款供与に合意している。
2019.04.04

シナイ半島多国籍軍への自衛隊員派遣

 日本政府は4月2日の閣議でシナイ半島で活動する多国籍軍への自衛官2名の派遣を決定した。これは改正安保法により可能となった「国際連携平和安全活動」として初めてのケースである。

 「多国籍軍」への自衛隊派遣については日本国憲法違反の疑いが濃厚である。政府は、派遣されるのは司令部であり、また、安全な地域だから日本のPKO原則に照らして問題ないとの趣旨の説明をしているが、「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
 安全か否かは極めて微妙な問題であり、安定的に安全であればPKOになる。シナイ半島ではPKOでなく、多国籍軍であるということは安定的に安全でないことを意味している。また、情勢は比較的短期間に変化しうる。
 
 イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。この説明は国際的には通らない恐れが大きい。

 日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。

 以上は要点だけである。詳しい説明は当研究所HPの「2019.02.11 自衛隊の多国籍軍への派遣」、「2018.09.19 多国籍軍への自衛隊派遣」、「2014.06.21 集団安全保障へ参加する?」、「2014.06.05 PKOと多国籍軍への参加」などを参照されたい。
2019.04.03

イタリアの「一帯一路」への参加と中国・EU関係の深化

 イタリアは、一方で欧州委から厳しい財政政策の実行を求められながら、中国の「一帯一路」に参加することにより、巨額の公共投資を国債の追加発行をしないで実施できることになった。
 中国が「一帯一路」戦略でギリシャに進出し、また中東欧諸国への投資を始めた結果、EU内では足並みの乱れが生じつつある。今回の、イタリアによる「一帯一路」に参加は一段と強いインパクトとなり、「中国は欧州を分断している」との懸念が高まった。
 マクロン大統領とメルケル首相はEU統合の2大プロモーター兼守護神である独仏両国の指導者としての矜持を示した。しかし、両国とも経済的な利益を確保することは怠らなかった。
 中国の進出によりEUはこれまでにない経験をしつつある。EUはむき出しのパワーが出がちの米国とは一味も二味も違った存在であり、日本が中国との関係を深めていくうえでも重要なパートナーとなるであろう。

(説明)
 習近平中国主席は3月末、イタリアとフランスを訪問した。イタリアは3月23日、中国が提唱する「一帯一路」に関する覚書に署名した。これによって両国は約30の分野で経済協力を行うことになった。実質的には中国による投資に関する合意であり、イタリアは約70億ユーロ(約8700億円)に上る資金を得たのに均しい。
 習近平主席はその後フランスを訪問し、25日、マクロン大統領との間で総額400億ユーロ(約5兆円)超の契約に合意し、中国が欧州エアバスから航空機300機を購入することなどが決まった。これは「一帯一路」とは関係のない契約とされている。

 イタリアでは2018年6月、EUに懐疑的な連立政権が発足した。この政権は長年続いている財政赤字にもかかわらず、失業者などに一定額を支給する「最低所得保障」など巨額の財源が必要な政策を掲げている。しかし、イタリアの政府債務は国内総生産(GDP)比約130%に達しており、ユーロ圏では財政危機に見舞われたギリシャに次いで高くなっている。イタリアの財政はさらに悪くなるとの懸念から国債は売られ、10年物国債の流通利回りは上昇(価格は下落)している。

E Uの欧州委員会はイタリアの財政政策に批判的であり、イタリア政府がEUに提出した2019年予算案では財政赤字が2・4%となっていたのに対し引き下げを求めた。
これに対しコンテ伊首相は、欧州委はイタリア経済の力を過小評価していると抵抗していたが、年末には、2019年の歳出を約40億ユーロ(約5100億円)圧縮し、財政赤字目標を当初の国内総生産(GDP)比2.04%に引き下げる修正をしたので、欧州委による制裁は回避できた。

 そんななか、イタリアは巨額の投資を中国から受けることになった。多くはインフラ建設に向けられ、西バルカン地域との窓口にあるトリエステ港、地中海の重要拠点であるジェノバ港などが含まれている。
 中国はさらにシチリアでの協力事業も考慮していると言われている。中国はギリシャですでにピレウス港の管理権を獲得し、またスペインではバレンシア港に参入している。これらに加えてイタリアの重要港湾にも参入することになった意義は大きい。

 イタリアとしては、一方で欧州委から厳しい財政政策の実行を求められながら、中国の「一帯一路」に参加することにより、巨額の公共投資を国債の追加発行をしないで実施できることになったわけであるが、EU内では、そのような方策は健全か、さらなる疑念が起こっている。

 イタリアは主要7カ国(G7)のメンバーとしては、「一帯一路」への支持を表明した初めての国となったのであり、ギリシャとは重みが違う。欧州委がEU内への波及を警戒するのはもっともである。

 これまでEUは、世界貿易機関(WTO)に加盟し、市場経済化を始めた中国との関係促進を重視してきた。低成長の欧州経済にとって高成長を続ける中国経済は大きなメリットがあり、中国との貿易額は顕著に増加した。一方、中国の市場経済化が進んでいないことや人権問題についてEUは批判的であった。

 ドイツのメルケル首相は中国との関係強化を先頭に立って進めてきた。2005年末に首相に就任して以来2018年5月に訪中するまでの約12年間に11回訪中している(中新網5月24日)。ほぼ毎年の訪中である。

 ドイツの経済界は中国が改革開放に転じてからいち早く強い関心をしめし、自動車関係ではフォルクスワーゲンが世界で初めて上海で合弁企業を立ち上げた。現在、中国には5千を超える数のドイツ企業が進出しており、ドイツにとって中国は2016年から第1の貿易相手国となっている。
 
 メルケル首相は人権問題にも強い関心を示している。2018年の訪中の際には、ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、故劉暁波(りゅう・ぎょうは)の妻で長年軟禁されていた劉霞(りゅう・か)のドイツへの出国を認めるよう李克強首相に働きかけ、了承を取り付けたという。その後、劉霞は実際にドイツに向けて中国を出国している。異例の頻度で中国を訪問しながら、中国がもっとも嫌う人権問題については話題に取り上げ圧力を加えることを辞さないメルケル首相はしたたかである。

 中国と欧州諸国との経済関係が深化するに伴い、双方の利益が調和しない問題も発生した。一つのきっかけは、2016年5月に公表されたドイツのロボット・メーカー、クーカ(KUKA)の中国による買収計画であり、ドイツ政府は経済安全保障上の理由から阻止しようとしたが、ドイツ企業が両国間の経済関係への悪影響を恐れたこともあり、買収を阻止することはできなかった。

 この件はEUの中国に対する警戒心を呼び起こしたと言われている。そして、中国が「一帯一路」戦略で、ギリシャに進出し、また中東欧諸国への投資が向かうようになると、EUでは中国に対する足並みの乱れに懸念が生じた。今回の、イタリアによる「一帯一路」に参加は一段と強いインパクトとなり、「中国は欧州を分断している」と公言するようになったのである。

 イタリアの財政赤字と中国の「一帯一路」による巨額投資については前述したが、欧州委にとってイタリアの行動はEUの一体性の観点からも問題である。英国がEUを離脱することとなり、またオランダなどでもEUからの離脱を求める声がジワリと増えている。欧州全体を見れば、EU離脱の動きが強まっているとはまだ言えないだろうが、中国との関係で意見を異にする国が出てきているのは紛れもない事実である。ハンガリーなどは、EUが中国の嫌がることを表明することに反対している。東南アジアの一部で起こっていることと同様の問題が進行しているのである。

 マクロン大統領は習近平主席との会談にメルケル首相とユンカー欧州委員会委員長を同席させた。EUとしての一体性を強調するためである。会談の席でメルケル首相は「我々ヨーロッパは「一帯一路」に積極的に役割を果たしたいと考えている。そのためには相互に努力しなければならない。我々はその点でまだすこし議論している」と発言した。ある程度外交用語で包まれた発言だが、明らかに警鐘である。

 マクロン大統領はメルケル首相以上に率直な発言をした。習主席との二者会談で、「WTO改革を急ぎ、透明性、供給過剰、国家補助、紛争処理などの諸問題を解決しなければならない」と注文を付けている。供給過剰は、たとえば鉄鋼については、価格面で有利な中国企業が市場を席巻し、日本を含む欧米企業の製品が売れなくなっていることである。国家補助は中国の国有企業による国家資本主義の問題である。紛争処理は、WTOの規則では中国問題に対応できず改革が必要と認識されている問題である。いずれについてもEU企業は日米などと同様の立場にあり、不満を募らせている。

 さらにマクロン大統領は、中国の人権問題を取り上げ、フランスは今後も関心を持ち続けると述べ、最近中国政府の姿勢が問われている新疆自治区のウイグル人の扱いにも言及した(THE DIPLOMAT, March 27, 2019)。

 マクロン大統領とメルケル首相は習近平主席に対して注文を付け、EU統合の2大プロモーター兼守護神である独仏両国の指導者としての矜持を示した。しかし、両国とも経済的な利益を確保することは怠らなかった。フランスは今回、中国と総額約400億ユーロ(約5兆円)の商談をまとめた。イタリアと違って、フランスは「一帯一路」に参加しなかったが、イタリアの得たよりも16倍もの巨額の契約を結んだのである。この中にはフランスだけでなく、EU4カ国が参加するエアバスからの航空機購入分が含まれており、それを差し引いても、フランスはイタリアの4倍に相当する100ユーロの契約を得たのである。

 これには欧州のメディアのなかにも「不可解」と評する向きが出てきている。マクロン大統領とメルケル首相が中国に対しずけずけと注文を付けながら、他方では経済的利益をちゃっかりと確保しているのは、ヨーロッパの観点からしても腑に落ちないところがあるらしい。

 ともかく、中国は小うるさいEUに対して、札束を大量に用意して乗り込んできたのであり、その結果、EUにとってはこれまで経験したことのない影響が生じている。今後、EUはメルケル首相が言うように議論を重ね、EUとしての一体性を確保しつつ、中国と向き合っていくのだろう。EUはむき出しのパワーが出がちの米国とは一味も二味も違った存在であり、日本が中国との関係を深めていくうえでも重要なパートナーとなるであろう。

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