平和外交研究所

2017年12月

2017.12.31

西欧諸国の中国に対する姿勢

 西欧諸国が中国の経済成長に関心を向けるようになったのは1990年代中葉からである。中国は2001年、WTOに加盟して高度成長期に入り、数年後、そのGDPはイタリア、フランス、イギリス、ドイツを次々に追い抜き、2010年には日本を追い越した。
 西欧諸国は経済規模で中国に圧倒されつつも、中国経済は西欧諸国にも恩恵をもたらすことを学んだ。2011年12月21日付の英国エコノミスト紙が、「中国のWTO加盟10周年を記念しよう。中国の加盟により、世界はより豊かになった」とする記事を掲載したのは象徴的であった。

 西欧諸国の経済は近年、低成長を続け、時にはマイナス成長となるなど厳しい状況にあり、しかも最近は難民対策などの負担が増大している。
 一方、中国との間では、米国や日本と違って政治的問題は少なく、中国との経済関係を強めることにブレーキとなる要因はほとんどない。雪崩現象にもたとえられる中国への殺到はある意味、自然である。
 
 中国傾斜の先頭を切ったのは英国であり、2015年の3月、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)に参加した。米国から慎重に対応するよう、あらかじめくぎを刺されていたが、それには構わなかったという。
 国際金融に豊かな経験とノウハウを持つ英国がなぜそのような行動に出たか不可解であったが、英国としては英国経済の活性化を図るためやむをえない決断だったのだろう。
 その半年後、英国は訪英した習近平主席を大歓迎し、中国メディアが「最上級の待遇」と異例の報道をするくらい喜ばせた。しかも、中国製原発の輸入とそれに伴う中国資本の受け入れに同意したことはAIIBへの参加以上に驚きであった。ブラッドウェルの原発には中国広核集団(CGN)が66・5%を出資する。これだけの出資比率になると、発言力は極めて大きくなり、英側は中国の言いなりにならざるをえない。日本では考えられないことであった。
 
 ドイツの経済もやはり厳しい状況にあり、低成長かマイナス成長である。しかし、EUの最強のリーダーとして重い財政負担を強いられている。また、中近東・アフリカからの難民は大多数がドイツを目指してくる。したがって、急速に拡大を続ける中国経済は大きな魅力であり、中国との貿易・投資関係は顕著に増大している。
 ドイツの中国経済への強い関心を代表しているのがメルケル首相であり、2016年6月までに9回訪中した。メルケル氏は中国に人権の尊重や法の支配も訴えているが、中国側はそれらの問題は独中関係のごく一部であるとしてまともに取り合おうとしない。これに対し、ドイツ側もしつこく追及はしていない。

 しかし、西欧諸国は完全にエコノミック・アニマルになったのではないことをしめす出来事が起こった。
 12月13日、中国が南京事件80年記念の行事を行った日であったが、ドイツとフランスの在中国大使は連名で、英フィナンシャル・タイムズ紙中国語版に独仏の和解の経験を語る一文を投稿した。その中には、「犯罪を犯した者は自らの罪を認め、被害者は許さなければならない」との趣旨の言及があった。
 中国としては、「日本は罪を認めなければならない」というのはよいが、「中国は日本を許さなければならない」というのは癇に障ったのであろう。人民日報系の環球時報12月28日付が掲載した評論は、両大使の寄稿は「中国内政に対する粗暴な干渉」「中国人に対する無礼なお説教である」と述べるなど、不愉快極まりないという感情があふれていた。

 ドイツやフランスはかねてより、彼らの和解の経験を東アジアでも参考にしてほしいということがよくあった。また、中国も日本に対し、ドイツの姿勢を学んでほしいと何回も求めたことがあった。
 しかるに、両大使の寄稿文は中国にも努力を求めている。しかも南京事件を記念する日にその文章を発表しているので、日本に対するよりもむしろ中国に対する注文が多いと感じたのであろう。
 両大使は、中国のことをよく知っており、そのような中国側の反応を予測したうえでの寄稿だったと思われる。経済面では中国との関係を最大限重視しつつも、政治的には冷めているところがあることを思い起こさせる一事であった。

 なお、最近、ドイツの中国に対する見かたは変化しつつあるというドイツ人も出てきているそうである。

2017.12.29

悪化しつつある慰安婦問題

 慰安婦問題については、日韓間の動向と国際的な状況(国連や米国など)は関連がないわけではないが、区別して見ていく必要がある。

 日韓間では、この問題の「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった2015年合意の交渉過程などを調べていた韓国の外相直属の検証チームが、27日、検証結果を発表した。その内容は、「元慰安婦の意見が十分反映されなかった」、「不均衡な合意が一層不均衡になった」、「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃するしかない」などであった。
 文在寅大統領は翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明した。

 これに対し河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と、検証結果と文氏の発言を明確に拒否するとともに、合意に従って解決を図ることの重要性を強調した。当然の反応だったと思う。

 文在寅大統領の声明が日本に対し再交渉を求めていなかったことは評価できるが、そもそも文在寅政権の慰安婦問題についての対応は中途半端な印象が強い。
 最大の問題は、日韓の合意を一方的に否定しても事態は改善しないことである。国家間の合意は尊重していかなければ、正常な関係は維持できない。韓国側は、日本側の国際法と国際常識に基づく立場は岩のように堅固であることを容易に予測できたはずだのに、あえて検証を始めたのは賢明でなかったのではないか。
 
 日本の常識と韓国の常識がずれているという問題はあろう。韓国政府は、前政権がしたことを覆す。米国との間のTHAAD配備問題についても前政権が実行したことを覆そうとした。
しかし、それでは相手の国は困る。到底認められない。外交の常識から言えば、こちらの主張が100%正しいとは言えないかもしれない、相手方の主張もよく聞かなければならないが、慰安婦問題については、2年前の合意のほか、韓国から可能な具体策を聞いたことがない。安倍首相に謝罪を求めているが、日韓合意でも謝罪しているし、十数年前、橋本首相は謝罪の手紙を被害者に送っている。

 一方、国際社会での慰安婦問題をめぐる状況も悪化している。この面では、国連だけで慰安婦問題に関係する委員会がいくつかあり、また、米国各地で慰安婦問題を取り上げようとする動きがあるので、メディアとしても報道しにくいのだろうが、ともかく日本国内にはわかりやすく伝えられていない。日韓間の状況の報道に比べると、数分の一程度である。

 いずれにしても、2年前の「女子差別撤廃委員会」(1979年採択の条約の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場。条約の締約国数は現在189)での日本審査以降、国際社会の状況は日本にとって厳しさを増している。
 「拷問禁止委員会」が2017年5月、慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表したことはその表れであった。
 サンフランシスコ市と大阪市との間のやり取りは、政府間のことでないが、慰安婦問題全体について日本側のイメージダウンを助長した恐れがある。

 日本では、慰安婦問題というと日韓間のことに注意が向きがちであるが、国際社会の状況はある意味では日韓の問題より深刻である。今後、国連などでどのように対応すべきか、徹底した検討が必要である。

2017.12.27

女子差別撤廃委員会での北朝鮮審査

 「女子差別撤廃委員会」とは、男女の平等を達成することを目的とし、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする「女子差別撤廃条約」(1979年採択。現在の締約国数189)の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場であり、日本についての最新の審査は2016年2月に行われた。
 
 北朝鮮の審査は2005年以来行われていなかった。同国政府が条約の規定に反して、4年ごとの報告を怠っていたためであるが、2017年11月に実現した。どうして応じることにしたのか。先般の安保理緊急会合に北朝鮮代表が出席したのも異例であった。北朝鮮政府は、国際社会と対立するだけでなく、北朝鮮の立場を積極的に説明する方針に転換しようとしている可能性もある。仮説にすぎないが、今後も注意深く見守っていく必要がある。
 
次回の北朝鮮審査は2021年11月に予定されている。
 
なお、今回の審査に出席した同国代表団は、在ジュネーブ国際機関代表部大使をはじめ、人民最高会議、中央法院、教育省、保健省、外務省などの官員から構成されていた。審査は厳しいものとなることが予想された中で、北朝鮮として最善の体制で対応しようとしたのであろう。

 今回の審査ではこのほか、次のような点が注目された。

 北朝鮮に対する国連などの制裁は女性に対する影響が特に強いので、女性の権利を擁護するため必要な措置を優先的に取るべきだと指摘された。

 今回の審査にはHuman Rights WatchなどNGOが事前に文書で委員会に情報を提供し、審査にもオブザーバーとして出席した。その調査に基づいて、北朝鮮から中国へ出国し、一定の期間中国で性的サービスを強要された女性が北朝鮮へ帰国した後に収容所などでふたたび暴行される例などが報告された。女性差別撤廃委員会の審査では、当該国に対して最も重要な勧告を数点「フォローアップ事項」として指摘し、2年以内の再度の報告を求める慣例となっているが、北朝鮮に関しては、脱北し帰国した女性に対する収容所での性暴力・堕胎の強要がフォローアップの対象となった。
 北朝鮮の女性の性的被害はさまざまな形で、また、児童も被害者となるなど深刻であり、法整備を含め至急対策を講じる必要があると指摘された。

 今回の審査結果は北朝鮮にとって厳しい内容であったが、北朝鮮においては、一定の分野で女性が進出しており、例えば、最高人民会議の事務局長(閣僚レベル)も女性であり、最近は外交官になる女性も増加しているという説明もあった。

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