平和外交研究所

10月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 5

2015.10.06

(短文)ドローンの危険性 

 3月14日にアップした「原発を危険にさらす無人飛行機ドローン」で、昨年、フランスにおいて原発の上空にドローンが侵入する事件が相次いで発生したこと、英国でも原発が危険にさらされていること、ドローンの性能は急速に向上しており、数十キロ飛行可能、高度1万フィート(約3千メートル)を飛行できる、映画ジュラシック・パークに出てくる翼竜ほど大きいものもあることなどを紹介した。以下はその後の目立った動きだ。

 9月19日、世界文化遺産・姫路城の大天守にドローンが衝突し、少し傷がついた。政治的な背景はなく、個人的な写真撮影が目的だったそうだが、ドローンの使用が拡大、多様化していることをあらためて思い知らされた。

 10月3日未明、アフガニスタン北部でタリバンとの交戦中の米軍機が病院を誤爆して多数の死傷者が出る事件が起こった。米軍は地上部隊を引き上げた後、空からの作戦を重視しているが、それにともない無人機の使用が増えていた。今回のタリバンへの攻撃においても無人機が活用された可能性がある。

 ロシアが核搭載無人潜水艇(コード名Kanyon)を建造しており、完成すれば大型核弾頭を搭載して米国の港湾に侵入して港湾や米潜水艦基地を破壊できるようになる、米国防省はこうしたロシアの活発な核戦力近代化計画遂行に懸念を抱いていると報道された。(9月8日 Free Beacon)

2015.10.05

シリアIS問題と米ロ

(ブリーフィング用資料)

○シリア内戦はいつ、なぜ始まったか。
2011年、チュニジアのジャスミン革命の影響を受けシリアで騒乱が起こったのが始まりであった。

○シリアの反政府勢力とは何か。
自由シリア軍とアル・カーイダ系反政府勢力(アル・ヌスラ戦線)がある。

自由シリア軍は、2011年、騒乱のなかで政府軍の一部が離反し結成した。米欧やトルコの支持を受けている。しかし、シリア国内では自由シリア軍への支持は広がらない。理由の一つは、シリア国民の多くがイスラエルを後押ししている米国から支援を受けるのを嫌っているためだ。イスラエルはレバノンへの武器輸送を防ぐためシリア国内を攻撃している。

アル・ヌスラ戦線はアル・カーイダ系の反政府組織。自由シリア軍とは敵対しており、シリア政府軍と三つ巴の関係にある。反政府勢力の実態は複雑だ。米国の武器が流れている可能性がある。もともと反米。自称ISの下部組織。

宗教的には、自由シリア軍もアル・ヌスラ戦線もスンニ派が主。アサドはシーア派の一派であるアラウィ教。シーア派のイランはアサドを支援している。ISもスンニ派。

○ISの発足。
2014年6月末、過激派組織「イスラム国」がイラク北西部からシリア東部にかけての一帯でイスラム国家の樹立を宣言。2015年5月にはシリア中部の要衝であるパルミラを制圧。

○米国はどのように関わっているか。
オバマ政権は自由シリア軍を支援し、武器供与もしている。反政府勢力には反米のアル・カーイダ系も含まれているので慎重な姿勢も維持していた。しかし、米国内の強硬派(共和党が多い)は、オバマ政権の姿勢を弱腰と批判し、地上軍を投入すべきだと主張。医療改革(オバマケア)とならぶオバマ批判となった。オバマ政権の弱点とみなされてきたが、最近のロシアによる空爆開始で強硬派の矛先はロシアに向かう可能性がある。

2014年9月22日、シリア内ISに対し、サウジアラビアなど中東5カ国とともに空爆を開始。国連決議はなかったが、多数の国が支持を表明した。

2015年7月、トルコはISを攻撃するため米軍の戦闘機などがトルコ領内の基地を使用することを認めた。

○ロシアのIS空爆
ロシアは2014年8月末から戦闘機をシリア内のラタキア空軍基地に配備。9月30日、ロシアはISへの空爆を開始。当初の発表では攻撃対象はISだけだったが、1日には、イドリブ県内のアル・カーイダ派の拠点を空爆(シリアの治安当局者の談。AFP)。ラブロフ外相もそれを認める発言をNYで行なった。この場所はISの支配地域に含まれておらず、ロシアの真の目標はISでなく、反アサド勢力だとの見方が強まった。
 イランがロシアの行動を直ちに支持(1日、アフハム外務省報道官)したのは、従来からのアサド支持からして当然か。
米国はロシアがIS以外の過激派拠点を攻撃していると非難している。現状ではシリア領内で米ロの戦闘機がぶつかる危険もある。
米政府は、シリア政府と反政府勢力が米ロの代理戦争に陥らないよう、ロシアと話し合う姿勢も見せている(国連安保理の内外で)。

ロシアの行動の背景には、ウクライナ問題で西側諸国がロシアに対して制裁措置を取ったことがある。ロシアはウクライナの親ロシア派への軍事支援(を黙認すること)を継続せざるをえないが、それを公開の場で米国などと論争するほど立場は強くなく、米欧から批判され続けている。ウクライナ問題の関係ではロシアとして取りうる選択肢は少ないが、仕返しをする機会をうかがっていた?
ロシアはシリアのタルトスに海軍補給基地を置いており、アサド政権を支持する必要がある。
シリア政府がISと戦っていることはロシアにとって好都合。シリア政府を支援すると国際的に批判されるが、ISに対する空爆であれば各国の支持が得られやすい。だからアサド政権支持を目立たせないようにできるという計算があるのか? そうであれば、ロシアはもともとアサド支援と伝統的に築き上げてきたシリアにおける権益の維持が目的。
2015.10.02

安保関連法の改正後、日本の対外関係はどうなるか

 安全保障関連法案の改正が成立したことによって我が国の対外関係にはどのような変化が生じるでしょうか。
 改正法案が国会に提出された当初、自衛隊が日本の領域外に出て活動することが想定されていたのは、集団的自衛権の行使に関わる事例と、集団安全保障に関わる事例でした。法案は成立しましたが、これらの事例は自衛隊の新しい任務になるでしょうか。必ずしもそうではないようです。
 とくに機雷の除去は、国会での審議が始まる前から重要な事例だとみなされていましたが、安倍首相は国会の会期末近くになって、「今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することは具体的に想定していない」と答弁したので、機雷除去は法改正により自動的に自衛隊の新任務になるのではないと思われます。
 避難してきた日本人を乗せた米国の艦船が第三国から攻撃を受けた場合についても、中谷防衛相は、日本人でなくても自衛艦の派遣が考えられるという説明に変えましたが、将来も米艦への防護を行う点では変わらないようです。
 
 国連決議に基づいて行われる「集団安全保障」の関係では、国連平和維持活動(PKO)といわゆる「多国籍軍」への協力が重要問題です。
 PKOについては、国際紛争に巻き込まれる危険はありませんが、自衛隊は、これまでできなかったいわゆる「駆け付け警護」が可能となり、同じ場所で活動している他国の隊員が危険な状況に陥った場合救助に駆け付け、必要であれば武器も使用できることになりました。これによって自衛隊は各国のPKO部隊と同等の活動ができるようになり、我が国は国際社会における責務を十分に果たせるようになりました。今次法改正で積極的に評価できる面です。
 一方、「多国籍軍」が組織あるいは派遣されるのは通常紛争が終わっていない場合であり、自衛隊がこれに協力すると国際紛争に巻き込まれる危険が大です。改正法は、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に、かつ「後方支援」に限れば問題ないとの考えに立っていますが、やはり敵対行為とみなされるという有力な反論があります。
 イラク戦争の際に自衛隊が派遣されたのは「多国籍軍」への協力のためでした。今後は、仮定の話ですが、過激派組織ISが勢力を拡大して中東の産油地帯を支配下に置き、そのため我が国などへの原油供給が大幅に減少するに至った場合、自衛隊は米軍などの空爆に協力できるかということなどが問題になりえます。改正法が定める要件を満たすと政府が判断すればそれも可能となりました。
 
 米国など諸外国は日本の法改正をどのように評価するでしょうか。
 安倍首相は国会での審議が始まるのに先立って訪米し、オバマ大統領に対してはもちろん、米議会でも法改正の趣旨を説明し、高い評価を得ました。改正された法律に従って自衛隊が米軍の活動に協力すれば、米軍の負担はかなり軽減されるでしょう。心強い味方となります。オバマ大統領の喜色満面の表情が今も目の前に浮かんできます。
 わが国の国会審議では、今回の法改正により米国の日本に対する信頼感が高まり、第三国からの攻撃に対する抑止力がはたらくという趣旨の答弁が行なわれました。しかし、抑止力は程度問題であり、「これだけ措置すれば抑止力が得られる、そうでないと抑止力は働かない」というようなことはありません。
 今回の法改正を米国は積極的に評価していますが、米国の我が国に対する期待感を完全に満たすものでないことは明白です。
 たとえば、米国は、日本や欧州諸国が防衛にどれだけ予算を割いているか、かねてからよく研究しており、とくに欧州諸国に対しては予算を増加させるようおおっぴらに要求しています。防衛予算のGDP比は、米国自身は3・5%程度ですが、欧州諸国は、英仏など多い国でも2%程度であり、少ない部分を米国が肩代わりしていると考えているからです。このことはNATOでも主要問題の一つになっています。
日本の防衛予算は安倍政権下で微増していますが、GDPとの比率では1%をわずかに越えたレベルです。今後、米国は、防衛政策を大転換した日本に対して予算増、しかも、小数点以下の微増でなく、かなりの増額を求めてくる可能性があります。それは、論理的で、自然な考えだと思います。
 これは一例にすぎません。米国には、米国本土が第三国から攻撃されても日本は米国の防衛に協力する義務はないことに不満を示す人も居ます。
 米国による抑止力を高めるには、本当は日米安保条約を改定する必要があります。それをしないで、日本の法改正だけで抑止力ができるというのは事態をあまりにも単純化しています。
 今回の安保関連法の改正は、集団的自衛権の行使を認めたという点ではたしかに日本の防衛政策の大転換でしたが、抑止力を高める必要があるというならば安保条約を改定し、日米が平等な立場に立つようにすべきか、国民的議論を行なうべきではないでしょうか。
 また、それとの関連で、憲法についても改正が必要か議論になるでしょう。日本はこれまでどのような事態に対しても「自衛」という風船を膨らませることで対応してきましたが、それは限界を超えて破裂しているのが実態であり、見直すべき時が来ているとも考えられます。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.