平和外交研究所

5月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 2

2015.05.26

NPT・中東非核地帯構想・米イスラエル関係

 5月22日、NPTの再検討会議は、中東非核地帯構想をめぐる米欧とアラブ諸国の激しい対立が直接的な原因で決裂した。この構想は、1995年、NPTが無期限延長される際に、米国はじめ核保有国が例外的に大幅な譲歩を行なって検討課題にまで押し上げたが、その後は全く進展していない。中東和平が成立しない限り、生存の危機にあるイスラエルは核兵器を保有し続け、一方、アラブ諸国はNPTで核兵器の保有を禁止されているという状況が続くわけであり、そうである限り中東を非核地帯とすることは困難であろう。
 にもかかわらずこの構想実現のために国際会議を強引に開催すれば、イスラエルが袋叩きにあうのは不可避であり、米国や欧州諸国はそのようなことは認められないとして、これまで通りイスラエルを擁護したのである。

 一方、NPTの外で行なわれている、イランの核開発を抑制するための交渉は、2013年8月にロハニ大統領が就任して以来進展しており、イランは米国に対し国際原子力機関(IAEA)の「抜き打ち査察」を受け入れる用意があると表明したと報道された。「抜き打ち査察」を受け入れるとは、イランが2013年に署名したIAEAの「追加議定書」を批准することを意味している。イランは今まで通常の査察しか受け入れず、しかも、米欧諸国との交渉が進まなくなると査察官を締め出すなどしていた。つまり、通常の査察でさえ十分に協力しなかったので、イランが本当に「抜き打ち査察」を受け入れると、大きな前進となる。

 イスラエルは交渉の当事者ではないが、イランが核兵器を獲得すると直接脅威を受けるので、かねてから交渉6カ国が安易な妥協をしないよう強く要望していた。とくにネタニヤフ首相は強硬で、イランとの対話を実現したいオバマ大統領に批判的な姿勢をとっており、先だっては米国政府と協議しないで米議会を訪問してオバマ大統領に批判的な演説を行い、イスラエルと米国の関係は急激に悪化した。
 この度のNPT再検討会議で米国はイスラエルを擁護する姿勢を再確認したが、今後も米国とイスラエルの関係は微妙に変化する可能性がある。
 その1つの要因は、ネタニヤフ首相の強硬姿勢であり、これがいつまで続くかが問題となる。
 第2は、2016年に行われる米国の大統領選である。
 第3は、イランと6カ国の核交渉は6月に「枠組み合意」を実現することを目指している。
 第4は、イスラエルと中国の接近である。従来、中国はアラブ諸国よりであったが、新疆問題などを契機に中国とイスラム勢力との間の矛盾が増大したこともあり、また武器貿易の関係などからイスラエルに接近する姿勢を見せている。

 NPT再検討会議で米欧諸国が見せた明確なイスラエル支持の姿勢は、両者の基本関係が変わっていないことを示したが、中東をめぐる情勢、米国との関係、さらには中国との関係などは確実に複雑化している。
2015.05.25

(短文)アジアインフラ投資銀行(AIIB)の正体

 シンガポールで開かれていたアジアインフラ投資銀行設立準備の会合で、設立協定の内容が合意されたと中国財務省が発表した。その内容は明かされていないが、各紙の報道によると、中国の出資比率がダントツに多くて29%、議決権は26%と、中国だけが拒否権を持つことになった。銀行の本部所在地は北京で決定済み。総裁はこれから決定されるが、中国が決定権を握っているので、やはり中国人になると見られている。代表格の理事は北京に常駐しないことも合意されたそうだが、本部所在地が北京であるという性質は何ら薄まらない。また、AIIBの事業は中国の構想である「一帯一路」の実現と密接な関係がある。
 中国が各国の協力を得てこのような銀行設立に漕ぎつけたことは中国の開発金融への取り組みとして、また、中国外交としても大成功であると思う。
 しかし、平等な主権国家が協力して設立する国際機関とは言えない。AIIBは、中国が圧倒的な決定権を持ち、中国のための(つまり、「一帯一路」のための)、中国に活動の本拠があり、中国人が代表するという性格の銀行だからである。これに日本が税金を使って拠出することはありえない。日本の企業は今後、AIIBの事業に商業ベースでかかわっていけばよい。株式を取得するもよし、あるいは債券を購入するもよし。
 
 なお、AIIBと「一帯一路」については、2月16,18,19、23日、3月27日、4月1、6、10、15,20日、5月1,13日に当HPに掲載した記事を参照していただければ幸いである。
2015.05.22

中国に司法の独立はない―王岐山とF.フクヤマとの会談

 4月23日、反腐敗運動の司令官である(習近平は最高司令官)王岐山政治局常務委員は訪中したF.フクヤマ(政治学者)および青木昌彦(経済学者)と会談した。
 この会談内容を香港の東網(東方日報傘下のサイト)がどのように入手したのか分からないが、独立評論員の郭大眼の記事としてつぎのように報道しており、香港や多維新聞など海外に拠点がある新聞が転載している。
 「フクヤマは、法律の精神源は宗教にあり、宗派間の衝突から一定の相互監督作用が生まれ、最後に神が真理を判定する唯一の基準となり、統治する力となった、だから法律(神)の前で人は平等である、法の支配、司法の政府からの独立はこのようにして実現された、としつつ、王岐山に対して、中国で法の支配、司法の独立を実現できるかと尋ねた。
 率直な王岐山は「不可能。司法は絶対に党の指導下になければならない。これは中国の特色である。憲法は書いたもの(文件)である。人が書いたものに過ぎない。大統領、国会、さらに憲法があり、憲法は神聖でなければならないが、神ではない。公衆の法である。中国の皇帝は神であり、天子と呼ばれた。日本には天皇があり、英国には女王があり、ともに立憲君主である。米国とは異なる。」と答えた。
(このやり取りについて、郭大眼は、党の指導の優位性をこれほど明確に述べているものはないとしつつ、司法が党の統制下にある状況において、反腐敗運動はいかにして最終的勝利を勝ち取ることができるか、と疑問を呈し)王岐山は、「とくによい考えはない。長期にわたって党の自己監督、自浄の圧力を強める、これらは始まりに過ぎないことを我々は認識している、自己監督は医者が自分で手術するみたいなものだ、ネット上にはシベリアのある外科医が自分の虫様突起を取り除いた話が出ている、これだけである。自分で新しくすること、自浄は大変困難だ」と語った。」

 習近平と王岐山は反腐敗運動を誰よりも強力に推進しているように見えるが、共産党の指導がすべてに優先することは彼らにとっても至上命題である。したがって、この王岐山の説明は内容的には何も新味はなく、当たり前のことを再確認したに過ぎない。
 このように考えれば、この会談、またそれを報道したこの記事にどれほどの価値があるか疑問に思えるが、そもそもの問題は、「党の指導」が優先するか、「司法の独立」を認めるべきか、を議論すること自体にあるのではないか。2014年10月の四中全会(共産党第四回中央委員会全体会議)では主要議題として「法の支配の強化」を掲げ、その後、習近平主席は盛んに「法の支配」を唱えているが、表面だけ取り繕っているに過ぎないのではないか。答えが決まっていることを議論し、あるいは主要議題として取り上げているからである。

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