平和外交研究所

1月, 2014 - 平和外交研究所 - Page 7

2014.01.08

米ICBM部隊の沈滞

米国の核ミサイル部隊で種々問題が発生していることは、軍や議会の関係者の間ではすでに知られていたらしいが、昨年の12月23日、AP通信のRobert Burns記者が現場の状況を報道して注目を集めた。全体的に核ミサイル部隊は深刻な沈滞ムードにあることを伝えている。主な点は次の通りである。
○ミサイル部隊のなかに規律違反で処分を受けるものが、2013年だけで4人いた。規則を無視してICBMの格納庫を開けたり、勤務中に居眠りしたためである。
○Maj. Gen. Michael Carey(Maj. Gen.は少将)は2013年10月にICBM部隊の司令官をクビになった。同少将は代表団を率いて3日間ロシアを訪問した際、泥酔し、現地のいかがわしい女性とパーティーをし、ロシア側のホスト役を侮辱し、他の人がいるところで自分の上司に対する不満をブチまけたためである。
○ICBM部隊は2人が1組となり、交代制で24時間、ミサイルに異常がないか、いつでも命令があれば発射できるか監視する。このような監視を数10年間継続してきたが、一度も発射されたことはなかった。冷戦中はそれでも緊張感があったが、今は明確な敵はおらず、脅威の実態は変わってきており、サイバー攻撃とかテロ攻撃が問題である。ICBMの監視は退屈極まりない仕事になっており、その真の敵は倦怠である。
○イランや北朝鮮をICBMで攻撃するにはロシア領を通過することになる公算が大であり、そうなるとロシアが自国への攻撃と誤解する危険もある。
○オバマ大統領は核兵器を減少しようとしている。いずれはなくなるという期待感さえ口しており、ICBM部隊にとって先行きはますます暗くなっている。
○ヘーゲル国防長官も、長官就任以前、10年以内にICBMをすべて廃棄すべきだという意見に賛成していた。国防長官就任後は、さすがにそのようなことは言わなくなったが、各部隊には「職業的な沈滞がある」ことは指摘している。

2014.01.07

人民解放軍の統一司令部設立問題

昨年秋の三中全会いらい人民解放軍の指揮系統を統一する問題が注目されている。人民解放軍は歴史的経緯から陸海空の三軍がバラバラであり、そのなかでは陸軍の力が圧倒的に強く、中枢機能である総政治部、総参謀部、総後勤部および総装備部も陸軍に置かれてきたが、近年海空両軍の重要性が飛躍的に高まり、統一的に軍を運用することが必要になったのにともない、3軍を統一指揮のもとに置き、総参謀部なども陸軍ではなく3軍の上に置くことが課題となっている。
しかるに三中全会から日も浅い時点で、一部の新聞が、国防部は「統一作戦司令部」の設置を決めたと断定的に報道したのに対し、国防部のスポークスマンは11月28日の定例記者会見でそれを否定した経緯があった。
その後一部の新聞が「国防部は連合作戦司令部を将来の適当な時期に設立することにしており、その準備を始めている」と、今度は設立の時期をぼかした報道をしたのに対し、年が明けて早々の5日、国防部はそれも「根拠のない報道である」と完全否定した。
事実関係はそれだけのことであるが、国防部の非常に神経質な反応は、軍内でこの決定がまだ行われていないだけでなく、陸軍などが承服せず微妙な問題になっていることをうかがわせるものである。

2014.01.06

張成沢事件に見る金正恩と軍の関係

張成沢の粛清に関し、金正恩第1書記が主導したか、軍がそうさせたか。金正恩が年若く、経験が浅いだけに一人ですべて指導したとは常識的に考えにくいことからありがちな疑問であるが、軍の影響力が強いことを示す材料は比較的少ないと思われる。たとえば、12月25日発行のラジオプレス『北朝鮮政策動向』(No492)は、北朝鮮当局による同事件の発表ぶりおよび事件前後の諸事情を詳細に分析しており、軍の関係では次のような指摘(私の言葉で言い換えてある)を行なっている。
○今回の事件についての北朝鮮の発表は、金正恩の主導を強く印象付けるものである。同人の指導のもとで労働党が行動したことが強調される一方、軍が特別の役割を果たしたという説明は見られない。
○張成沢の罪状のなかに軍事に直接関係することは入っておらず、張成沢が軍の利益を害していたことを伺わせるような記述もなかった。軍としてとくに張成沢を不快視していたというわけではなさそうであった。
○張成沢は何人かの古参の軍人と親しかったと言われており、むしろ張成沢に続いて追求される可能性がある軍幹部がいるかもしれない。
○なぜ通常の裁判でなく、軍事裁判となったかよく分からない。張成沢は職業軍人ではないが、国防委員会副委員長であり、また「大将」の肩書を持っていた関係では軍事裁判となったことは不思議でないが、適用された法律は軍法でなく、一般の刑法であった。
○最高司令官、すなわち金正恩の命令に服従しなかったことを指摘しているが、同時に労働党の方針のそむいたこともあげている。
○今回の発表は「先軍」にも、また、2013年の春から言い始めた「核開発と経済建設」の「並進」路線にも触れていない。一方9月、10月の北朝鮮メディアは経済建設重視を強調していた。
○張成沢と関係が深い朴奉珠首相は無事に残っている。一時期うわさされていたように張成沢の累が広く及んだ形跡はない。北朝鮮当局はむしろ抑制しようとしている節もある。
○崔竜海軍総政治部長の存在感が増しているのは事実であるが、つねに金正恩第1書記をたたえる発言を行なっている。今回どういう役割を果たしたか、検証が必要であろう。

金正恩第1書記と軍の関係については、以上の他、高級軍人の人事を異常なほど頻繁に行ない、また2年の間に総参謀長を3回代えたことなども注目する必要があることを付言しておく。

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