平和外交研究所

2013年9月

2013.09.16

シリアの化学兵器に関する米ロ合意

シリアの化学兵器の国際的管理に関する米ロ協議が合意に達したことは、実際的に問題を処理する大きなステップであり、喜ばしい。
化学兵器問題が解決したわけではなく、解決へ向けての道筋ができただけである。シリア政府は1週間以内に、どのような化学兵器をいくら保有しているかを示すリストを提出する。この申告が間違っていたり、虚偽であったりしないか、実際に貯蔵されている施設で検証が行われる。シリア政府はもちろんこれに協力しなければならない。検証するのは化学兵器禁止条約機関(これは有効な検証機能を備えている)と、米ロ、それにフランスなども参加するかもしれない。そして来年半ばまでにすべての化学兵器を廃棄する。以上のような道筋であるが、これを予定通り実行するのは容易なことでない。
しかし、化学兵器がシリアに残っているかぎりさらに被害者が増える危険があるので、常識的には無理であっても何とか実現すべきであるし、右に言及した以外の各国も協力が必要である。我が国は化学兵器禁止機関の検証部門に専門家を出しており、その人が直接関与する可能性もある。
また、今回米ロ間で合意された筋書きを担保するために国連安保理決議が必要であるが、はたして近日中に成立するか、成立するとしてもその内容はどうなるか、とくにロシアと中国はどう出てくるか、なども問題である。
米国としては、国連が十分機能しない場合などに備えて、単独、あるいは有志の国と共同で武力行使に踏み来るオプションを残しておくことが、今回のシナリオ通りの廃棄を実現するためにも必要であると考えているであろう。
これに対し、シリアは、化学兵器を国際管理に委ねること、化学兵器禁止条約に加盟することなどは合意しつつも、シリアに対する武力行使が行われないという保証が前提であると牽制しており、米国がもっとも恐れていた時間稼ぎに今回の合意が利用されない保証はない。
現段階では不確実なことは多々あり、今後のさらなる進展を見守る必要がある。

2013.09.14

朱建栄氏の拘束

1986年以来日本に居住し、東洋学園大学の教授を務めている朱建栄氏が中国当局に拘束されている。7月中旬に上海へ到着して以来しばし行方が分からなくなっていたが、非公式に消息が伝えられるようになり、9月11日の記者会見では、中国外交部の報道官が、同氏が当局に拘束されていることを強く示唆する発言を行なった。
同氏は、日本の言論界でもっとも活躍している中国人学者の一人である一方、中国政府と密接な関係があるとも見られている。今回拘束されたことについて中国の報道官は、朱氏は中国人として法律を順守しなければならないなどと述べているようであるが、中国当局は法律にしたがって拘束していることをきちんと説明できるか。朱氏の人権を侵害していないかなど、問題はありそうだ。
今回中国当局がこのような挙に出た理由については、対日関係上の意図があったとする見方もある。それを否定するわけではないが、中国は思想工作面(この内容は非常に広く言論統制なども含む。薄熙来の問題とも関連する)で現在なかなか困難な状況にあり、インターネットに対するコントロールを強化し、当局が好ましくないと思う言説をネット上で流している人を相次いで逮捕している。今秋の中央委員会総会に向けて習近平主席としても難しいかじ取りを強いられており、中国内にはかなりの緊張があるようだ。このようなことは日本ではもとより、中国にいても外国人にはわかりにくい状況である。中国のことをよく知っている朱建栄氏も油断していたのかもしれない。国内が緊張状態にある場合、当局が過剰に反応する傾向があるのは過去にもみられたことである。朱建栄氏の拘束もそのような状況を背景に見ていく必要があるのではないか。

2013.09.13

北朝鮮の黒鉛減速炉再稼働?

北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)にある黒鉛減速型原子炉を再稼働しているか、あるいはその準備を始めていると報道されている。米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮研究グループの衛星写真分析結果に基づくものであり、韓国ではこれに対し、まだそうは言えない、わざとそう思わせているだけだという声もあるようだ。北朝鮮はさる4月に黒鉛減速炉を「再整備、再稼働する措置をとる」と表明していたから今回の報道が正しいと見るのではないが、核の問題に関する韓国の見方には甘いところがあると、私はかねてから思っている。
北朝鮮で起こっていることについては少々違った角度から疑問がある。4月の発表時にすでにあった問題であるが、北朝鮮は二〇〇九年に、従来から使用していた黒鉛減速炉の代わりに各国で使用されている軽水炉を自力で開発することにしたと訪朝した米人科学者に述べており、その際は二〇一二年までに軽水炉を完成させるとしていた経緯がある。しかし、それは少なくとも時間的に無理だというのが米人科学者の見方であったが、準備、とくに軽水炉に必要な濃縮ウランを製造する施設は当時すでにできており、訪問した人たちは「顎が外れるくらいに驚いた」そうである。米人の表現であり、日本語なら「腰が抜けるほど」と言ったところであろう。
二〇一三年四月の黒鉛減速炉再稼働の発表は、二〇〇九年の軽水炉計画とどのように関係していたのか、気になるが、今でもはっきりしていない。推測にすぎないが、軽水炉計画が遅れているので、とりあえず方針を一部修正して、黒鉛減速炉も再稼働させることとしたのかもしれない。
北朝鮮では、「人工衛星」発射実験、核実験、さらにその一連の流れのなかで行なった朝鮮戦争の休戦協定破棄宣言、さらには高級軍人の頻繁な人事異動など変化がかなり激しく起こっており、これらは金正恩第一書記の采配(口出し?)が原因ではないかと思っている。黒鉛減速炉についてもそのような面があるのかもしれない。

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