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2015.11.02

(短評)南シナ海問題と仲裁裁判

 オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は10月29日、フィリピン政府が申し立てていた南シナ海に関する中国との紛争の仲裁手続きを進めることを決めた。
 フィリピンの申し立ては2013年1月の中国への通報から始まり、中国は拒否したのでフィリピンは2014年3月に国連海洋法条約の強制的仲裁に提訴した。裁判所は中国にも陳述書の提出を求めたが拒否され、今年7月に中国抜きで口頭弁論が開始され、その結果、仲裁裁判所は中国の反対によって裁判所の管轄権がなくなるわけではないと判断し、今般の決定となったものである。
 同裁判所が管轄権を認めたのは、フィリピンが訴えた15項目中、中国が埋め立てた岩礁を「領海」の起点とすることの合法性や、フィリピン漁民への妨害行為など7項目だ。
 一方、南シナ海のほぼ全域に対し歴史的な主権を有するとの中国の主張(いわゆる「九段線」の主張)を審理するか否かについては、決定を留保した。
 今後は、フィリピン側の主張を検討するための聴聞会が開かれる。

 今回の決定をフィリピンや米国は歓迎したが、中国外交部の劉振民次官は翌30日、海洋法条約は領土主権について裁定を下すものでない、中国は今後も仲裁手続きに出席しないし、仲裁結果が出ても受け入れないとコメントした。
 中国は2006年8月25日、国連事務局に書面で声明を提出し、海洋の境界、領土紛争、軍事行動についてはいかなる国際司法裁判も国際仲裁裁判も受け入れないと表明しており、劉次官の発言は同声明に基づくものである。

 国際仲裁裁判所による今回の決定は、中国による南沙諸島での岩礁埋め立て以来、米艦の12カイリ内立ち入りに勝るとも劣らない、国際社会が踏み出した重要な一歩だ。
 国連海洋法第286条などには、「条約の解釈又は適用に関する紛争であって話し合いで解決できない場合、いずれかの紛争当事者の要請により、管轄権を有する裁判所に付託される」「いずれの国も、(中略)書面による宣言を行うことにより、この条約の解釈又は適用に関する紛争の解決のための次の手段のうち又は二以上の手段を自由に選択することができる」として、国際海洋裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所のいずれか(複数も可)を選択できると明記している。フィリピンと米国の行動と立場表明はこの規定にかなっている。
 しかしながら、中国の態度は相変わらずかたくなだ。領土主権について仲裁裁判は判断できないとしても、国際仲裁手続き全体を否定するのは国際法に違反しているではないか。
 

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