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2021.09.16

北朝鮮の巡航ミサイル発射など

 北朝鮮は9月11~12日、初の巡航ミサイルを発射し、1500キロ先の標的に命中させたと発表した。15日にはさらに、短距離弾道ミサイルを2発、移動中の列車から発射した。後者のミサイルはロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の北朝鮮版だとみられている。

 いずれも北朝鮮の軍事能力の向上を示すことであるが、本稿では軍事技術の問題はさておいて、政治的な側面を注目しておきたい。

 一つは、北朝鮮は建国記念日の9月9日、首都平壌の金日成広場で軍事パレードを行ったが、ICBMやSLBMなど大型の戦略兵器は登場させなかった。また、正規軍でなく、労働者や農民で組織された「労農赤衛隊」治安部隊など予備選力が中心となって参加した。開催された時間は午前0時からで、これも異例であったという。

 もう一つは、王毅中国外相の韓国訪問と何らかの関係があるかという疑問である。ただし、王毅氏は9月10日から15日まで、ベトナム、カンボジア、シンガポールと韓国の4か国を訪問し、各国の首脳らと相次いで会談したのであり、その目的は、先月のハリス米副大統領およびブリンケン国務長官やオースティン国防長官の東南アジア訪問に対抗することであり、北朝鮮と直接関係するものではなかった。

 しかし、北朝鮮としては王毅外相の韓国訪問を不愉快に思った可能性がないとは言えない。かねてから、北朝鮮は中国の高官が韓国を訪問することを快く思っていなかった。2014年7月、習近平主席の韓国訪問に際しては、北朝鮮はあからさまに不快感を示し、6月から7月にかけてミサイルを相次いで発射した。『労働新聞』(7月24日付)は、「国際の正義に責任を持つ一部の国は自国の利益のため、米国の強権政治に対して沈黙している」と、名指しではないが、明らかに中国と分かる形で激しく批判した。同月11日は中朝同盟条約締結53周年記念日であったが、北朝鮮も中国も記念活動を行なわなかった。27日は朝鮮戦争休戦61周年記念日であったが、記念式典で金正恩は中国にまったく触れなかった。8月1日は中国人民解放軍建軍記念日であり、韓国を含め各国の大使館付武官は出席したが、在中国北朝鮮大使館付武官は誰も参加しなかった(『大公報』8月4日付)。

 その頃、中朝関係はどん底にあり、その後、米朝首脳会談などを契機に金正恩総書記(当時は「委員長」)は中国に頼る姿勢を見せるようになり、中国も北朝鮮との関係を重視する姿勢を示し、両国関係は顕著に改善された。
 
 現在、中朝関係が以前の険悪な状態に戻ったとは思わない。北朝鮮は国連の制裁を受けたままであり、中国への依存度はむしろ高まっているが、両国の関係には依然として脆弱な面がある。北朝鮮としては、王毅外相の韓国訪問など不愉快なことについては一定程度、その気持ちを表に出しても不思議でない。最新のミサイルを王毅外相の韓国訪問に合わせて発射したという可能性は、ちょっとうがちすぎかもしれないが、頭のどこかにしまっておいてよいと思われる。

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