平和外交研究所

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2015.12.06

(短評)テロ事件と無人飛行機

 パリにおける同時テロ事件が引き起こした波紋の一つだが、フランス政府は原発の警備を最大限にまで強化することにしたそうだ。フランスの治安機関には1万名のテロ容疑者のリスト(S-ファイル)があるが、EDF(フランス電力)はその最新版を持っていないので、人物確認には限界があると言う。

 本研究所HPはかねてから原発に対するテロ攻撃の危険性、とくに無人飛行機を使った攻撃などに警鐘を鳴らしてきた(2015年10月6日の「(短文)ドローンの危険性」など)こともあり、フランスでのこのような動きにはとくに関心を覚える。

 おりしも、日本ではドローンの競技会が開催されている。米国では、ドローンを使って注文された品物を短時間で配達するネット販売が盛んになっている。どうしてもこのようなことが報道されがちだが、ドローンを悪用した犯罪の危険性について全国民が警戒心を高めるべきだと思う。
2015.11.30

(短評)トルコによるロシア機撃墜

 トルコによるロシア機撃墜事件をめぐって両国関係が悪化し、ロシアはトルコに謝罪を求めるとともに、ISの石油をトルコが購入していると非難している。
 一方、トルコはロシア機がトルコの領空を侵犯し、トルコ側からの警告を無視したと主張し、謝罪に応じないので、ロシアはトルコに対する制裁としてビザなし渡航の停止、トルコからの輸入の制限、文化交流の中止、トルコ企業のロシア国内での活動の制限などを実施する方針だ、あるいはすでに実施したと伝えられている。
 この間、トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領との会談を希望しているが、プーチン大統領は応じていない。しかし、パリで開催されるCOP21に両人とも出席するので会談が実現するかもしれないと言われている。
 ロシアかトルコか、いずれの主張が正しいか我々には分からない。ただ、トルコは事件についてNATOで説明しなければならないので、虚偽の報告は困難になる一方、ロシアにはこのような制約はないという違いがあるとは言えるだろう。
 一方、かりにロシア機がトルコ側を挑発したとしても、しょせん十数秒間の侵犯であり、それを撃墜するのは適切であったか疑問であることも指摘できそうだ。

 今回の事件についてはこのようなことを含め、多くの人が様々な感想を抱いているだろうが、私は次のような原則を忘れないことが重要だと考える。
 第1に、上空や海上で起こったことの真相は分からない。日本の領海内でも海難事件が発生することがあるが、当事者の主張が対立するのは珍しくなく、真相の究明は裁判で初めて可能になる。裁判結果が出てもなお疑問が出ることもある。ましてや、国際間で起こった事件については、真相の究明は困難だ。
 したがって、事件にかかわる国の政府は、自国民の行為は絶対正しかったという前提に立たないで真相を究明する姿勢が必要だ。自国民を批判するのではない。誰にでも間違いは起こりうるということを国際間でも忘れないということだ。
 第2に、どの国の政府も国内の(偏狭な)ナショナリズムの突き上げをうまく処理する必要がある。ナショナリズムに迎合する行動をとらないことが肝要だが、実際にはその点で疑問があることがあり、ひどい場合には、ナショナリズムをあおる結果になる行動も見られる。
 第3に、国際の平和と安定を脅かす問題であれば、国連の安保理が取り上げ、事態の収拾を図る。これが国際社会の仕組みなので、それを利用すべきである。安保理以外に法的な判断をする国際司法裁判所、仲裁のための国際仲裁裁判所もある。さらに地域的な安全保障の仕組みを利用できる場合もあろう。今回の事件についてはまだそのような国際的仕組みに頼るまでに至っていないようだ。

 以上のような原則から現在のロシア・トルコ間の紛糾を見ると、双方ともお互いに相手方の要求を一定程度受け入れる余地がありそうだ。プーチン大統領は、トルコ側の謝罪を前提条件としないでエルドアン大統領と会談すべきであるし、エルドアン大統領は、トルコ側に非は全くなかったと突っぱねないで、トルコ側にも行き過ぎがあったかもしれないという前提で対応する余地があるように思われる。
 今回の事件は単独で見るべきでなく、ISとの戦いとの関連、さらにはウクライナ問題に関して西側諸国が制裁措置を取ったこととの関連など事件の背景にある複雑な諸要因についての考慮も必要だろうが、上にあげた3点は両国に当てはまる基本原則だと思われる。
2015.11.21

(短評)今年のAPEC首脳会議と中国

 マニラで開催されていたAPEC首脳会議は、19日、宣言を採択して閉幕した。今回の会議では、南シナ海問題がどのように扱われるか、関心が持たれていたが、議題になることはなかった。
 南シナ海の問題には排他的経済水域や資源の開発などに関係があり、APECで議論されても場違いというわけではなかったが、政治問題に深入りするのはAPECとして好ましいことでなかっただろう。
 しかし、オバマ大統領にとって今次会議は南シナ海問題をめぐってアジア・太平洋の諸国との連帯を強化する格好の場であり、とくに議長国のフィリピンを支持する姿勢をアピールした。東南アジア諸国の対応については、19日に当研究所のHPにアップした「オバマ大統領はシンガポールを訪問すべきだ」を参照願いたい。

 今回の会議が南シナ海問題を取り上げるのではないかと注目された一つの理由は、中国が会議の開催前から警戒心を高め、事前に議長のフィリピンに対し王毅外相が取り上げないよう働きかけていたからである。もし、会議で議論されれば中国による埋め立てなどが批判の対象となり、下手をすると中国にとって四面楚歌のような状況になりかねなかった。
 中国は、一方で各国の抗議を無視して拡張的行動をとりながら、他方では、中国がどのように各国から見られ、どのように扱われるか非常に気にしている。もし評判が気になるなら、国際法に従ってふるまえばよかった。そうしておれば中国の声望はさらに上がったであろうが、そうしはしない。

 APECの今次首脳会議がテロを強く非難し、国際社会の結束強化を呼びかけ、テロ対策に万全を期すよう呼びかけたのは当然だ。
 おりしも会議開催中に、中国人がISによって殺害されたことが判明し、習近平主席は19日、「テロは人類共通の敵だ。中国はあらゆる形式のテロに断固反対し、たたきのめす」と強く非難する談話を発表した。
 ISの野蛮な行為は中国にも及ぶようになったのだ。中国は、新疆自治区のウイグル族の処遇をめぐってISから敵視されており、テロ対策は中国にとっても喫緊の課題になっている。

 APEC首脳会議は、昨年は、日中関係が改善されるきっかけとなるかに注目が集まった。今年は南シナ海問題に焦点が当てられそうになった。いずれもこの会議が招いたことでないのはもちろんだが、今後も政治問題の影響を強く受ける傾向は続くと思われる。

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