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2014.04.15

PKOと武力行使⑤


日本は、PKOで武力行使が許されるのは自衛権の行使だからであると解しているが、それは前述したように和平を前提とする国際協力において、国際紛争の存在を意味する自衛権行使の要件を当てはめるものであり、その結果、武力行使はきわめて限定的にしか認められないという結論になっている。このような整理の仕方が妥当か、再検討する余地があると前回指摘した。
もちろん、PKOに参加する諸国の軍に関する法令は一様でなく、どの国も自国の法令にしたがってPKO要員を派遣しているのは当然である。各国が具体的にどのように法的整理した上でPKO部隊を派遣しているか、とくにPKO活動の中で自衛権の発動があると考えているか研究の余地があるが、各国での検討を経て派遣されてきたPKO部隊は、国連決議が決定した業務を遂行するのに制約はないと考えているように思われる。そうであれば、各国の法制や法的整理に相違はあっても、PKOは憲章2条4項の武力行使の条件を満たすものであるという点では、考えが一致しているものと思われる。
日本の場合は、戦争の反省に立って厳格な平和主義を貫き、とくに海外での武力行使には慎重の上にも慎重なのであるが、そのような姿勢と、PKOにおいて各国と協力することの妥協点をどこに求めるか考えどころである。現在のように、「隊員の生命などを防護する場合(いわゆるA型)」は認められるが、「任務の遂行を実力で妨害する企てに対する抵抗の場合(B型)」は認められないというのも一つの考えであろう。
一方、国連憲章と日本国憲法の規定を見ると、PKOでの武力行使が認められるのはすでに述べたことであるし、日本国憲法では「国際紛争を解決する手段としては、武力による威嚇または武力の行使を禁止している(9条2項)ので、国際紛争でないPKOでは武力を行使できると解するのはある意味で自然である。
要は、PKOで自衛権が発動されると見るか、それとも、自衛権の発動とは関係のない2条4項の措置と見るかが意見の分かれ目であり、私は、PKOにおいて自衛権発動を考えることは水と油くらいに異なる問題をつなぎ合わせていると思うので、自衛権行使を想定するのは適切でなく、PKOは、国連憲章が認めている武力行使のもう一つのケースであると考える。
そのような法的整理で自衛隊のPKO参加を認める場合、武力行使については安保理決議の履行に必要な程度にまで許されるという一般的な制限以外、なんら制限はないこととなり、いわゆるB型も認められるという結論になる。以前、日本のPKO部隊は、装備も訓練も一流であるにもかかわらず、日本人しか助けないというはなはだしく適切さを欠いた結論になったが、このような法的整理をすれば問題は基本的に解決するであろう。

なお、わが国では「武器使用」と「武力行使」を区別し、前者は警察的な行動として認められるが、後者は禁止されるという説明が行なわれることもあるが、本論では、ここまで一貫して「武力行使」を論じてきた。国連憲章も日本国憲法もともに「武力行使」を論じており、言葉はそろえるほうがよいと考えたからである。

2014.04.14

PKOと武力行使④


PKOにおいて武器使用が認められるのはいかなる理由によるか。我が国では自衛権の行使だからということを理由にしているが、これについては再検討する余地がある。
国連憲章が認める武力行使禁止の例外は第42条の国連軍の場合か、51条の自衛権行使の場合か、いずれかしかないという考えに立つと、PKOは国連軍に似ている面があるが両者は決定的に違っているので、自衛権の行使が理由であると考えがちである。
しかし、自衛権の行使はいずれかの国が攻撃してきた場合であり、その場合攻撃する側と受ける側との間では「国際紛争」がある可能性が高い。攻撃以前の時点では敵味方ではなく平和な関係であったとしても、攻撃を仕掛けてきた場合はそこから「国際紛争」が始まると考えられる。つまり「国際紛争」は自衛権の行使と同時、あるいはそれ以前から起こっており、自衛権が行使される場合、通常は「国際紛争」があるのである。
一方、PKOの典型的な例は、特定の国家領域内で政府軍と反乱軍が戦闘行為を行なっていたが、両者の間で和平の合意が成立し、その前提に立って、情勢の不安定化を防ぐために国連がPKOを派遣する場合である。つまり、PKOの場合は和平が前提となっており、「国際紛争」の中で自衛権が行使されるのと前提がまったく異なっている。
武力行使について言えば、自衛権の場合は「国際紛争」の中で武力の行使が認められる一方、PKOの場合は和平が成立している中で武力行使が認められるので、その程度はおのずと異なる。自衛権の場合は自衛に必要な限度において認められ、たとえば、ミサイルなどが使用されることも多いが、PKOの場合は平和維持という任務遂行に必要な限度において認められるので、自衛権行使の場合と比較にならないくらい小規模であろう。
PKOの場合、いかなる理由で武力行使が認められるか。あらためて国連憲章を見直してみると、武力の行使を禁止している憲章第2条4項は、禁止される武力行使を3つの場合に分けて規定している。
第一が、「国家の領土保全」をおびやかす武力行使であり、第二が、「国家の政治的独立」を脅かす武力行使であり、第三が、「国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるもの」である。これはこの条項の文言そのものであり、一方、先に述べた、国連憲章が武力行使の禁止の例外として認めているのは国連軍と自衛権の行使だけであるというのは、憲章の解釈に過ぎず、憲章の規定ほど明確でないし、また解釈が変わることもありうる。しかるに、PKOが国連の目的に合致するのは明らかであり、したがって2条4項の三番目に該当する。つまり、PKOは国連軍でも、自衛権の行使でもないが、2条4項に合致しているのである。武力行使が認められる範囲は各PKOについて採択された決議の内容による。
PKOに参加する諸国はどの程度の武力行使の用意があるか。その説明ぶりは確かめなければならないが、結論的には、安保理決議にしたがいPKO業務に必要な程度武力行使を認めており、それ以外に制約があるとは考えていないであろう。
一方、PKOでなく、いわゆる多国籍軍の場合との相違も見ておく必要があろう。すなわち、多国籍軍に対しても安保理の決議はPKOと同様武力行使を認める場合があるが、PKOと違って多国籍軍は和平の合意の存在を前提にしておらず、実体はむしろ、国際紛争を解決するために行動することが多い。アフガニスタンで活動しているISAF、イラクと戦った多国籍軍などがその例である。この点でPKOとの違いは大きく、また実際に使用される武器も多国籍軍の場合ははるかに強力であろう。このような多国籍軍とPKOの違いは国連加盟国にとって重要な意味あいがあり、和平の合意の有無で参加するか否かを決定するのは十分理由のあることである。

2014.04.13

PKOと武力行使③

武器の使用に制限があることは国際的なルールとなっている。すなわち、第一次および第二次の世界大戦を経て、国際的な紛争は武力でなく平和的な方法で解決しなければならないという規範が確立され、国連憲章は武力による威嚇または武力の行使を原則禁止した(第2条4項)。また、日本国憲法第9条は、国際紛争を解決する手段としては、武力による威嚇または武力の行使を禁止した(第2項)。
この原則に対し一定の場合は武力の行使が認められている。すなわち、国連憲章では、国連が軍事行動をとる場合(第42条)と、国連加盟国が個別的または集団的に自衛権を行使する場合(第51条)に武力行使を認めている。しかし、武力行使の禁止原則と例外として認められる場合についてはさまざまな問題がある。
第一に、国連が憲章第42条にしたがって国連軍を行動させることについては、国家間の対立があるため現実には成立したことがないし、また、今後も成立する可能性は極めて低いと見られている。
第二に、国連加盟国が自衛権を行使する場合については、日本国は国連の加盟国として個別的自衛権も集団的自衛権も保持しているが、日本国憲法の定める厳格な平和主義にかんがみ、集団的自衛権は行使できないという解釈を政府(法制局)は取っている。
第三に、日本国憲法が禁止しているのは「国際紛争を解決する手段としては武力による威嚇または武力の行使」であり、それにあたらなければ武器の使用が可能なように読めるが、日本国憲法は厳格な平和主義の立場から、自衛権の発動である場合以外武力行使は認められないと解釈されている。「隊員の生命などを防護する場合(いわゆるA型)」は認められるが、「任務の遂行を実力で妨害する企てに対する抵抗の場合(B型)」は認められていない。
第四が、PKOという国連憲章が想定していなかった事態である。PKO部隊は第42条の国連軍でないことは確立されており、国連憲章第6章と第7章の中間的な場合なので、「6章半」の措置と呼ばれることもある。この活動は現在の国際情勢においてきわめて重要なことと考えられ、この円滑な運営なくしては世界の秩序は現在とまったく異なり、大混乱に陥る恐れがある。各国はこれに協力することを求められている。
第五に、いわゆる多国籍軍がある。これとPKO部隊との相違は、PKOは紛争が解決し和平の合意が成立したことを前提に派遣され、PKO部隊は最終的には国連事務総長の指揮下にあるが、多国籍軍の場合は和平が成立していないことが多い。また、その指揮権は、各国の軍制が異なるため複雑な面があるが、実質的には、たとえばイラク戦争では、米軍が指揮した。いずれにしても、多国籍軍は国連事務総長の指揮下にない。

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