平和外交研究所

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2014.05.22

尖閣諸島に関する米国の立場

オバマ大統領は訪日の際、尖閣諸島に関して日本に紛争解決のため行動するよう促しつつ、同諸島には日米安保条約が適用されることを明言した。そのことは米国の高官がすでに何回も述べてきたことであるが、大統領として初めての発言であり、その意義は大きい。
しかし、米国は領有権に関してどちらが正しいと言うのではないことも断っていた。これは第三国間の領土紛争に関して米国がかねてから取ってきた基本方針であるが、尖閣諸島については、米国は特殊な立場にあり、いわゆる第三国ではない。
戦後日本の領土を再画定したサンフランシスコ平和条約は、日本が放棄する領土を第2条で規定し、放棄しないが米国の統治下に置かれる「琉球諸島」を第3条で規定した。
尖閣諸島は、第2条の対象か、それとも第3条の問題か、どちらかで日本の領土でなくなるか、依然として領土であり続けるか決定的に変わってくる。
しかるに、「琉球諸島」の統治を始めるに際し、米国は「琉球諸島」の範囲を緯度・経度で明確に示し、他の条約締約国に異議がないか確かめた。異議はどの国からも提起されず、「琉球諸島」の範囲が確定した。かくして尖閣諸島は平和条約第3条の「琉球諸島」に属していることが確定した。米国は尖閣諸島の法的地位の確定に際し主導的な役割を果たしたのであり、いわゆる第三国でなく、当事者だったのである。

以上の趣旨の一文を本22日付の読売新聞に寄稿した。

2014.05.16

安保法制懇の報告ーグレーゾーン

5月15日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書が提出された。取り上げられている問題は集団的自衛権に限らない。いくつかの論点があるが、報道では今後与党での検討はいわゆるグレーゾーンに関する問題から始められるそうである。
具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。

2014.05.13

ウクライナ東部での住民投票

ウクライナの情勢は混迷を深めている。同国東部のドネツク州とルガンスク州で政府施設を占拠している親ロシア派は、プーチン大統領が5月7日、延期を呼びかけたにもかかわらず11日、住民投票を強行した。その結果、9割に近い圧倒的多数が独立に賛成したと発表されたが、これほど問題や不正があった投票はめずらしいのではないか。
そもそも、住民投票で問われたことは「独立に賛成するか」という問いに限定されていたのでなく、さらに広く自治の拡大を求めるとも読める内容であったらしい。そうであれば、投票で示された住民の意思は何なのか。これら2州では多数を占めているロシア系住民が自治の拡大を求めていることはすでに知られていることである。
この他にも問題は多々ある。過激な行動に走っている者のなかには外からはいりこんでいるものがいる。1人で複数回、あるいは複数の投票をする者もいた。票の管理はかなり杜撰で、投票が終わった後さらに票を加えることも可能であった。これら報道されていることがどこまで確認されているか、問題がないわけではないが、今回の投票がかなりひどい状況の中で行なわれたことはほぼ間違いないであろう。
過激な親ロシア派はクリミアの例に味をしめ、これら2州でも同じことを起こそうとしたのであろう。その背景には、ソ連邦の解体後状況がまだ落ち着いておらず、とくに経済はひどい状況にあり、住民が不満を募らせるのは無理もないが、クリミアとは違う側面がある。クリミアにはロシアにとって重要な地中海艦隊基地があるが、東部ウクライナにはそのようなところはない。また、プーチン大統領が住民投票を延期するよう呼びかけたことも大きい。東ウクライナはロシアにとって、ロシア系住民が多いということもさることながら、下手をすればいわゆる「お荷物」になるおそれもある。クリミアの住民はロシアに併合されれば、給与や年金などが倍くらいになると期待感を膨らませているようだが、ロシアは金のなる木でない。エネルギー収入に大きく頼る経済であり、底は深くない。
さらに問題なのは、ロシアがウクライナを緩衝国として必要としていることである。もし、民族問題がさらに激しくなってウクライナ全体に影響がおよんで不安定化し、その結果欧米側に行ってしまうと困るのはロシアである。ロシアが西欧の影響力が強まることに非常に神経質に抵抗してきたのは歴史的事実と言えるであろう。親ロシア系住民の福祉は、残念ながらこの比ではない
また、ロシアは一方で、西側と相互依存の関係にある。天然ガスの供給はその一例にすぎず、ロシアは技術面でも経済面でも冷戦時代とははるかに密接に西欧と関係を結んでおり、政治的、戦略的な考慮から、米欧と対決したくても一定の抑制が働くのではないか。米欧の制裁措置の実効性については議論があるが、双方で依存しあっていることは事実であり、少なくともその限りにおいてロシアはウクライナ問題についても西側と協力関係を維持する必要がある。
ウクライナの東部2州では、今は、急進的な若者を中心に過激な行動が渦巻いているが、これら2州のみならずウクライナ全体がロシアと米欧のはざまにあり、政治、軍事、経済のいずれの側面でも完全な自立、自給は困難である。中長期的には親ロシア系住民も冷静に考え、より合理的に対処せざるをえなくなるものと思われる。

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