平和外交研究所

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2014.12.11

核の非人道性に関するウィーン会議

核兵器の非人道性に関する国際会議が12月8~9日、ウィーンで開催された。この会議は約2年前から始まった国際的運動を進めることが目的であり、運動の主たる議題は「核兵器の非人道性」とも「核兵器の違法性」とも言われてきた。両者は同じでないが、違法性の根拠は核兵器の非人道性にあるので密接な関係にある。運動が始まった当初は「核兵器の違法性」が強調されていたが、最近は「非人道性」に焦点があたっている。参加国は今回158ヵ国に上り、さらに国際機関が加わった。
核兵器国は従来この運動の会議に出席しなかったが、今回は米英が初めて参加し、発言した。ロシア、中国およびフランスは不参加であったようだ。フランスはある意味では5つの核兵器国の中で、核兵器の非人道性を認めるのにもっとも消極的である。
事実上の核兵器国の中ではインドとパキスタンが参加し、北朝鮮は不参加であった。同じ「事実上の核兵器国」の中でもインド・パキスタンと北朝鮮を同じ類型に入れることには専門家の間で抵抗があろうが、細かい議論はしない。
核兵器の廃絶はなかなか進展しないので各国には強い不満がある。今回のウィーン会議でもそのような不満は底流となって流れていたが、核の廃絶が進まないからと言ってこの運動を無視してはならない。今次会議を締めくくるに際し、ホスト国として議長を務めたオーストリアは、会議全体でなく、オーストリアだけの責任であるとの前提で今次会議の議論を総括した。この種の会議では合意文書を作ることはきわめて困難なことが多いので、議長だけの責任で総括を行なうのは現実的なテクニックである。オーストリアによる議長サマリーのなかではいくつか新鮮な指摘があった。初めて聞いた議論だという意味でない。以前から繰り返し指摘されていることでも、新鮮に響くものも、そうでないものもある。

核兵器をいつでも使用できる状態にしておくことが問題であるという認識がある。冷戦中は米ソ両国をはじめ核兵器国はいざというときのために核搭載のミサイルをいつでも発射できる状態にしていた。いわゆるアラートの状態にしていたのである。しかし、冷戦が終わった今でも相変わらずそうしている。それは危険なことだという問題意識であり、だから今は、核兵器の危険性を低くするために、アラート状態を維持すべきでないと議論されている。このことは今回のウィーン会議でも指摘されていた。
議長サマリーは、核の使用は健康にかかわる国際法規に違反する疑いが大きいことを示す証拠が過去2年の間に明るみに出てきた、と指摘した。放射能被害のことであり、核兵器に限らず放射能被害が広範囲に、かつ人の健康に重大な影響を及ぼすこと、それは国際社会の法規に違反するという観点から重視していこうと呼びかけたのである。
議長サマリーは、その上で、核兵器の非人道性について各国の関心が高まっていることを指摘し、その文脈で今次会議に今まで出てこなかった核兵器国が参加したことを歓迎した。また、今次会議で核の非人道性に関し行われた議論が2015年に開かれる核兵器拡散禁止条約(NPT)の再検討会議(5年に1回の重要会議)を有意義なものとするのに貢献するであろうと期待感を表明した。
一方、議長サマリーは、一部の国では核兵器の使用が軍事ドクトリンで肯定的に見なされていることに警告を発した。核兵器の有用性を高めるようなこと、単純化して言えば、核兵器を使うことを想定した軍事戦略を唱えるべきでないということであり、これも昔から言われている議論であるが、今日の状況下ではこのような指摘が特に必要である。どの核兵器国も核兵器を使用する可能性があるから保有しているのであるが、軍事戦略において核兵器の使用を肯定することは安易な使用につながる恐れがあるからである。また、議長サマリーは、「核兵器はいかなる状況においても再び使用されてはならない」という、核兵器の非人道性に関する国際運動が唱えてきたことを再度明言した。核兵器国は、核の抑止力に依存している国を含め、その命題に賛同することに困難を覚えているが、あえて言及したのであり、「多くの国がこの命題を肯定した」とも論じた。
さらに、議長サマリーは、核兵器を禁止する条約について、やはり「多くの国が賛同した」と指摘した。この条約を締結する問題をどのように扱うかも、来年のNPT再検討会議での重要な議題となるであろう。

2014.12.10

安倍政権の外交安全保障

THEPAGEに12月7日掲載された。

「第2次安倍政権が成立してから約2年になります。この間の外交活動はきわめて活発でした。安倍首相が訪問した国の数は2014年9月の時点で49カ国にのぼり、歴代トップとなりました。しかも、外国訪問の頻度は1ヵ月あたり2・3ヵ国と歴代の首相に比べ抜群の高さでした。49番目となったスリランカ訪問の後も、ニューヨークの国連総会、ミラノのアジア欧州会合(ASEM)、北京のアジア太平洋経済協力会議(APEC)と続きましたので、安倍首相にとって文字通り席が温まる暇はありませんでした。
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、数々の困難を克服してこれだけ活発に外交活動を展開してきたことは特筆してよいでしょう。
 安倍首相の外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われています。「俯瞰」とは高いところから全体を見渡すという意味です。日本として米国やアジアの近隣諸国との関係を重視していくのは当然ですが、特定の国、地域に限定することなく地球規模で各国との友好関係増進に努めてきたからです。
日本が厳しい国際環境に置かれているなかで、安倍首相は積極的な安全保障政策を講じるとともに、日本としてはあくまで平和に徹し各国との協力関係を促進する「積極的平和主義」であることを強調しています。日本は、アジアのみならず世界において大きな責任を有しています。各国は日本が責任ある立場で、戦略的に積極的な施策を講じることを理解し、歓迎しています。Japan is back、つまり「日本が戻ってきた」という言葉で日本の姿勢を評価する研究者もいます。
 日本外交にとって、米国との関係はこれまでも、また今後もきわめて重要であり、安倍政権は米国の信頼を取り戻すことを重点施策の一つと位置付け、国の内外でその方針を実行に移してきました。東シナ海での協力は一つの例です。2013年秋には、日米両国の外務・防衛相が安全保障面での協力のあり方を協議するいわゆる2+2が久しぶりに開催されました。今後日米両国は、厳しい国際環境に対応するために防衛協力のあり方を示す新しい指針(ガイドライン)の策定に向け協議を継続していくことになっています。
 一方、アジア諸国との関係では、安倍首相はすでにすべての東南アジア諸国を訪問しており、またオーストラリアなどとも関係増進に努めていますが、日本のもっとも重要な隣国である中国および韓国との関係ではまだ問題があります。
 第2次安倍政権の発足以来懸案であった首脳同士の会談については、中国の習近平主席とは先般のAPEC首脳会議の際に会談が実現しました。これは一つの大きな前進でした。安倍・習会談に先立って行なわれた事務レベル協議では、東シナ海において不測の事態の発生を回避するため危機管理メカニズムを構築することで意見が一致しました。一方、中国は尖閣諸島に対する主張を維持していますし、昨年には防空識別圏の恣意的な設定や中国軍機が自衛隊機に異常接近する事態が起きています。両国の首脳は共通の関心事について機動的に、緊密に協議し、問題の迅速な解決を図っていかなければなりません。
 韓国との間では、米国大統領が仲介する形で、あるいはAPECなど多国間外交の場で安倍首相と朴槿恵大統領が短時間言葉を交わしただけで両首脳間の直接の会談は実現していません。韓国側は、慰安婦などいわゆる歴史問題に安倍首相が積極的に取り組むことを求め、その面での進展がないと首脳会談には応じないという姿勢です。歴史問題については韓国と中国の立場は共通しており、また、歴史問題の扱いを誤ると米国との関係を不必要に悪化させる危険もあります。それだけにこの問題の扱いは非常に困難ですが、日本としては中国および韓国との関係で加害者であったという歴史を軽視することなく、適切に対処していく必要があります。日韓関係は基本的にはまだ困難な状況にありますが、雰囲気が若干変化し、関係改善の兆しとも取れる面も出てきつつあるのでさらなる前進を図る必要があります。
 日中関係も日韓関係もきわめて重要であることは言うまでもなく、関係を増進するためには双方の努力が必要です。国家間で利害関係が一致しないことは何ら不思議でなく、時に極端な考えや行動に走り、いたずらにナショナリスティックになる危険がありますが、双方ともそのような危険を回避し、必要であれば我慢強く関係を増進させていかなければなりません。」

2014.12.06

米中両国はたがいに何を期待しているか

キヤノングローバル戦略研究所のホームページに12月5日掲載されたもの。

「北京でのAPEC首脳会議(11月10-11日)から始まり、オバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンでのG20首脳会議と続く間に、米中両国がたがいに期待していることは一致していないことがさらけ出された。
 習近平主席はインド訪問の時もそうであったが、外国首脳との会談の舞台演出に非常に気を使う。オバマ大統領に対しては、中国の権力機構の中枢である中南海に案内し、歴史の重みを背景に親しく語りかけ、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説した。これに対し、オバマ大統領は歴史について学んだと述べるなど、中南海における友好的雰囲気の盛り上げは成功したかに見えた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言う。習近平主席がそのような表情で臨んだのは国内向けの考慮からであったのは誰の目にも明らかであっただろうが、それはともかくとして、習近平主席の安倍首相とオバマ大統領に対する態度は対照的であった。
しかし、中国にとって肝心の「中国は大国である」ことについては、オバマ大統領は肯定しなかった。習近平主席の外交成果を盛り上げる役割の人民日報もオバマ大統領がこの点に関しどのような発言をしたか、あいまいな記述しかしていない。
中南海会談から4日後の15日、G20首脳会議に出席したオバマ大統領がクイーンズランド大学で行なった講演は、北京でははっきりしなかった米国の姿勢を浮き彫りにした。オバマの演説を貫いていたのは、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済システムに対する米国の信念である。
オバマはまず、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。「超大国」と「大国」の違いはあるが、この発言によってオバマは中国を大国と認めていないことを間接的に示したのではないか。
オバマは続いて、米国はアジア太平洋地域において「すべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」「米国は持てる力をすべて駆使して関与を深める」として同盟の重要性を強調するどころか、さらに強化する考えを示したので各方面から注目をあびた。
同盟国としてオバマが真っ先にあげたのは日本である。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調する下りでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘するなどオバマは日本に対し、習近平の冷たい態度とは対照的な温かい配慮を示した。
それだけではない。オバマはさらに、「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は力(influence)や強制や大国による小国のいじめ(big nations bully the small)の上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」と胸のすくような指摘をした。オバマが中国の恣意的、国際法に基づかない行動をけん制していることは明らかである。
では米国は中国に対し何を期待しているか。オバマは「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と北京でもクイーンズランド大学でも繰り返し述べている。これが米国の率直な考えであろう。
オバマ演説はここまででも中国の指導者にとって耳が痛いだろうが、さらにオバマは香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 どの国に対して促しているかは明示しなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。
香港のデモは扱いを誤ると中国内の民主化要求に火をつける危険があり、中国は非常に神経をとがらせている。北京での米中首脳会談後の記者会見で、米国が関与しているのではないかと疑う質問が出て一瞬緊張が走ったそうである。その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の行政長官を選ぶ選挙は透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べてその場を収めた。この発言とブリスベン演説は、我々が聞くと趣旨はそう変わらないようにも思われるが、中国は、ブリスベン演説は我慢がならないと思っている可能性がある。
中国外交部のスポークスマンは香港に関するオバマ発言に直接触れず、「新型大国関係の建設を進めることに合意している」とだけコメントしたが、これは中国にとって都合のよい点だけを強調したに過ぎない。
多維新聞(米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはなく比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている)は、香港での民主化要求に関するオバマ発言についてあからさまに不快感を示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な議論を展開した」という刺激的な見出しをつけた。オバマが二枚舌を使っていると言わんばかりである。
 ともかく、オバマ大統領としては、日本、中国、オーストラリアの関心事について語る貴重な機会であったので、中国の問題点を自然な形で、率直に論じた。日本を始め同盟国の信頼を揺るがせるようなことはしない、今後一層強化するという米国の断固とした姿勢は実に頼もしいが、日本としても米国の対日重視姿勢が揺らがないよう、日米関係を大切にし、そのために努力していかなくてはならない。」

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