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2017.01.10

駐韓国大使の一時帰国

 在釜山日本国総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置されたことを遺憾として長嶺駐韓国大使と森本在釜山総領事を一時帰国させたことが適切であったか、また、今後どのようにしていくのがよいか。いくつか考えるべきことがある。

 ソウルの大使館前の少女像については、2015年末の日韓合意で韓国政府が「適切に解決されるよう努力する」と明言したことも重要だが、韓国政府は日本の大使館を保護し、その尊厳を損なわないようにする国際法上の義務がある。
 しかるに少女像の撤去はまだ実現していないが、日本側は全体として忍耐強く対応してきたと思う。

 少女像以外では、韓国政府は合意通り基金を設置して「名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」を行い、元慰安婦にその受け入れを説得し、「合意時に生存していた元慰安婦46人のうち、34人が事業を受け入れる意思を明らかにした。そのうち31人にすでに支給を決定し、29人に支給を終えた。残りの人についても支給手続きを進めている」(韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」による2016年12月23日発表)。財団は受け入れしていない12人に対しても事業への理解を求めていく方針だ。
 このことはかなりの実績であり、韓国側の努力を評価できる。

 釜山総領事館前に少女像が設置されたことは、日韓合意の時より事態を悪化させることであり、日本側が遺憾としたことは当然だ。大使と総領事を一時帰国させることにも日本として配慮した面があるが、一時帰国がどうしても必要な措置であったかについては疑問の余地がある。現地、すなわちソウルと釜山で引き続き韓国政府に撤去を求めることも必要だ。

 少女像問題が解決しないどころか、釜山で状況が悪化していることは韓国政府の責任だが、それに対し「日本は10億円をすでに拠出して義務を果たしているのに韓国は義務を果たしていない」という趣旨の表明をするのは賢明でない。「安倍首相は謝罪しており、そのことは合意にも明記されている。かつ日本は約束通り10億円を拠出している」ことを強調すべきである。カネのことだけを話すのは逆効果になる危険がある。

 長嶺大使と森本総領事は必要な報告と打ち合わせを終えれば間をおかずに帰任させるべきだ。帰任が少女像を認めることにならないのはもちろんだ。あくまで早期の撤去を実現するため、韓国政府に対する働きかけを強くするためである。
 韓国側から何らかの言質を引き出してからということを考えるべきでない。それは事態をいたずらに複雑化するだけだ。

 一方、一時帰国と同時に日本が発表した日韓通貨スワップ協議の停止およびハイレベル経済協議の延期については再開の条件が整うのを待つのがよい。大使らの帰任と矛盾することはない。いずれも少女像の撤去を実現するためだ。
2017.01.06

(短評)日韓関係悪化の原因は日韓双方にある

 韓国では昨年末、釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置され、一時は取り払われたが、結局設置が認められた。
 日本ではやはり昨年末、稲田防衛相が靖国神社に参拝した。
 どちらも日韓関係を損なう行為だと思う。両国とも関係を悪化させるようなことは控え、改善に全力を挙げるべきだ。
2017.01.04

(短評)金正恩委員長の新年の辞

 金正恩北朝鮮労働党委員長が1日に行った「新年の辞」で目立ったことが2つあった。

 1つは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が最終段階に入ったと明かしたことだ。
 昨年、北朝鮮は核実験を2回、ミサイルは各種の実験を合計10回以上行い、そのため各国から非難され、国連では制裁決議を複数回受けた。
 金正恩委員長のICBM発射実験への言及に米国はとくに刺激されるだろう。トランプ氏は「北朝鮮にそのようなことはさせない」と得意のツイッターで述べたそうだ。

 もう1つの注目点は、金正恩委員長が祝辞を述べるに際し、テレビカメラの前で深々とお辞儀をし、また、「能力が追い付いていないという遺憾と自責の中で昨年一年を送ったが、今年はもっと奮発して全身全力を尽くし、人民のためにもっと多くのことを遂げるという決心をした」とし、「真の忠僕、忠実な手足になることを新年の朝に盟約する」と話したことだ。
 このように穏やかで、かつ国民思いの姿勢を示したことは初めてである。これについては、いままで恐怖の政治をしてきたが、国民の支持を失うと金正恩委員長の立場が危うくなるので下手に出たという見方もあるようだが、むしろ逆であり、自信の表れだと思う。

 あえて推測してみると、金正恩委員長は次のようなことを重視しているのではないか。
○核とミサイルの実験は、途中、部分的な失敗もあったが、全体としては成功であった。核と経済成長の2本柱路線は今後も維持するが、経済成長にとって障害となる制裁措置がさらに強化されないよう努める。
○韓国では朴槿恵大統領が国民の支持を失い、窮地に陥っている。朴槿恵大統領が辞任してもしなくても、韓国は北朝鮮に対して強硬姿勢をとらざるをえないだろう。自分(金正恩)が物分かりのよい、合理的な人物であることをアピールするよい機会だ(注 新年の辞で朴大統領に言及したのも初めてである)。
○米国との関係では、北朝鮮を敵視する政策を止めさせ、平和条約交渉を実現することが今後も目標である。トランプ氏は、北朝鮮との話し合いに応じる可能性がある。

 金正恩委員長が今年の「新年の辞」で見せた比較的穏やかな姿勢が今後長きにわたって維持される保証はない。方向転換することもありうるが、今後の北朝鮮をウォッチしていく上で一つのポイントになると思われる。

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