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2017.10.06

北朝鮮政策に関する米政権内の不協和音

 北朝鮮に関する政策、とくに米国として北朝鮮との対話に臨むべきか否かに関して、トランプ大統領とティラーソン国務長官の発言が食い違ってきている。とくに目立ってきたのはティラーソン長官が中国訪問中の9月30日、「北朝鮮との対話ルートがある」、「状況は真っ暗と言うわけではない」、「北朝鮮との対話の可能性を模索している」などと発言してからであった。対話ルートの存在は、国務省も「北朝鮮当局者は非核化について交渉に興味がある、もしくは用意があるという様子を、まったく示していない」と慎重な姿勢を示しつつであったが、確認はしたという。
 米国が北朝鮮と対話のルートを維持していることはかねてから知られていたが、さらに、10月19-21日にモスクワで開催される核不拡散をテーマにした国際会議において、北朝鮮外務省の崔善姫米州局長が米国のシャーマン元国務次官ら会談する可能性があるとも言われている。

 ところが、トランプ大統領は1日、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」「レックス、労力を無駄にしないで。やらなくてはならないことをやるから!」などとツイートした。リトル・ロケットマンとはトランプ大統領が先に国連総会で行った演説で用いた言葉であり、金正恩委員長のことである。
 国務長官による北朝鮮との対話を模索する努力を「時間の無駄」と切り捨てたのは、トランプ政権でなければ起こりえない醜態である。日本で同じことが起こったならば、閣内不一致として大騒ぎになったであろう。
 
 トランプ大統領が北朝鮮との対話を「時間の無駄」と言い始めたのは、安倍首相の影響があったからではないかと思われる。安倍首相は9月17日付『ニューヨーク・タイムズ』紙に北朝鮮との対話は時間の無駄だという趣旨の投稿を行い、また、20日には国連総会で同様の趣旨の演説を行った。これだけでも異例であるが、さらに安倍首相は、電話でトランプ大統領に対し、「時間の無駄」だと強調したのではないか。
 安倍首相は9月3日、記者会見で、「北朝鮮情勢を受けて、この1週間でトランプ大統領と3度、電話首脳会談を行いました。今日の電話首脳会談においては、最新の情勢の分析、そして、それへの対応について改めて協議を行いました。
 北朝鮮が挑発行動を一方的にエスカレートさせている中において、韓国を含めた日米韓の緊密な連携が求められています。今後、日米韓、しっかりと連携しながら、さらには国際社会とともに、緊密に協力して北朝鮮に対する圧力を高め、北朝鮮の政策を変えさせていかなければならない、その点で完全に一致したところであります。
 様々な情報に接しているわけでありますが、我々は冷静にしっかりと分析をしながら、対応策を各国と連携して協議し、そして、国民の命、財産を守るために万全を期していきたいと思います。」と述べていた。
 これが公表されているすべてであり、これだけでは安倍首相がトランプ大統領に「時間の無駄」を説得したか明確でないが、1週間に3回の米国大統領との電話会談は異様である。

 一方、マティス長官は10月3日、上院軍事委員会での公聴会に出席し、「国防総省はティラーソン氏の外交解決策を引き出す努力を完全に支持するが、米国と同盟国の防衛を今後も重視する」と発言した。トランプ大統領のツイッターとは正反対の態度を示したのであり、トランプ大統領が主要閣僚から信頼されていないことが浮き彫りになった。
 
 ティラーソン長官はかねてから辞任のうわさがあり、今回の大統領との発言の食い違いをきっかけに4日、記者からあらためて辞任の可能性について問われ、「辞任を検討したことはない。トランプ大統領が掲げる議題(agendaであり、意味としては「問題」により近い)に現在も就任時と同様にコミットしている」と述べたと伝えられた。
 しかし、米国のメディアはティラーソン氏の辞任の可能性に強い関心を見せ、NBCニュースは、「ペンス副大統領を含む政権高官が7月、ティラーソン氏に辞任しないよう説得していた。国防総省で開かれた安全保障チームと閣僚らとの会合でティラーソン氏はトランプ氏を「能なし(moron)」と呼んで批判した」などと報じた。
 この報道に関し、ティラーソン氏は国務省で急遽記者会見し、「辞任を検討したことはない」とし、「トランプ大統領が自身の目標達成に向け役に立つと考える限り、国務長官のポストにとどまる」「トランプ氏は賢明な人物だ。彼は結果を出すことを要求する」などと述べた。また、トランプ氏を「能なし」と呼んだかについては、「そのような取るに足らない事項については語らない」とし、直接的な言及は避けた。
 ティラーソン氏を説得したと言われたペンス副大統領は、声明を発表し、「辞任を巡りティラーソン氏と話し合ったことは一度もない」と述べた。そしてトランプ大統領はツイッターでNBCに対し謝罪を要求した。これに対しNBC側は、「ティラーソン長官は報道内容の主要な点について直接否定していないため、NBCは謝罪しない」とツイートした。NBCの今回の報道には複数の記者が関わったそうだ。
 感想に過ぎないが、北朝鮮問題に関し、トランプ大統領は安倍首相の見解をほぼそのまま受け入れる一方、国務長官や国防長官からはまったく違った見解が示される形になっている。このような状況ははたして今後も続くのか。危惧を覚えてならない。
2017.09.20

トランプ大統領の国連演説

 トランプ米大統領は9月19日、ニューヨークの国連本部で行った就任後初の一般討論演説で、非常に強い言葉で北朝鮮を非難した。
 演説は41分間。イランの核問題、ベネズエラの民主主義を巡る問題、イスラム過激派、キューバ政府などについても言及したが、最も鋭い矛先を向けたのは北朝鮮であった。
 トランプ氏は、北朝鮮が米人学生を非人道的に扱い、「日本の浜辺で13歳の少女を拉致した」ことなどに触れ、「邪悪な国家」だと表現しつつ、「米国は強大な力と忍耐力を持ち合わせているが、米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる。『ロケットマン』は自身、および自身の体制に対する自爆に向かっている。北朝鮮にとっては非核化が将来への唯一の道だ」と言明した。
 また、国連加盟国は北朝鮮が敵対的な態度を改めるまで 金正恩体制の孤立化に向け共に取り組む必要があるとの考えを示し、「一部の国が北朝鮮と貿易を行うだけでなく、武器を提供し、財政支援を行っていることに憤りを感じる」と述べた。中国を非難したのだろう。

 トランプ氏の発言は、北朝鮮問題に限らず全般的に分かりやすく、理解を得られやすいのが特徴的だが、北朝鮮はもとより中国やロシアなど米国と対立気味の諸国からは反発を受けやすい。ラブロフ・ロシア外相などは、米国第一主義は受け入れられないとさっそくコメントしている。

 トランプ氏は米国が主導的に北朝鮮を攻撃すると言ったのではない。あくまで米国や同盟国が北朝鮮から攻撃されて場合のこととして北朝鮮を破壊する覚悟もあると述べたに過ぎないが、言葉は激烈であり、非難合戦がさらに高じる危険はある。また、マティス国防長官は、ソウルに対する反撃を防ぎつつ北朝鮮を攻撃することは可能だとか、また10月に空母を朝鮮半島に派遣するなどと発言している。このように強硬姿勢に対して北朝鮮は強気で反撃してくる恐れが大きいことを勘案すると、不測の事態が発生する危険性は一段と高まったと見ざるを得ない。

 北朝鮮の李容浩外相は22日に演説予定であり、そのなかで米国との関係をどのように表現するか注目される。

2017.09.14

北朝鮮の核実験と国連安保理決議

 北朝鮮による核実験を非難し、制裁を強める国連安保理の決議が9月11日、成立した。北朝鮮への石油供給を3割減らすこと、同国の繊維製品の輸出を禁止することなどが含まれているが、この決議で北朝鮮の核・ミサイルの実験を止めることができるか、疑問視する声が圧倒的だ。トランプ大統領自身も翌日、訪米中のナジブ・マレーシア首相に、「一つの非常に小さな一歩に過ぎない。大したことではない」「どんな効果があるかは分からない」などと語っている。限定的な効果しか期待できないことを自認しているのだ。

 北朝鮮の核・ミサイル問題の解決のカギを握っているのは中国である、中国は北朝鮮に対してもっと強力に迫るべきであるという考えは依然として根強い。米国も日本もそのような考えであるが、中国は約50万トンの石油供給をすべて停止することはしないという姿勢である。ある程度減少させているが、完全な禁輸はしないという立場である。その理由は①完全禁輸は北朝鮮を制御不能な混乱に導く、②北朝鮮の核・ミサイル開発の根本的理由は北朝鮮の安全確保である、③この問題を実現、あるいは解決できるのは米国だけである、④したがって米国は北朝鮮と直接話し合うべきである、というものである。
 中国の対外姿勢は日本や米国にとって問題があるが、こと北朝鮮の核・ミサイルの開発については中国の主張が正しいのではないか。また、ロシアは最近、中国と同じ立場であることを示すようになり、プーチン大統領は「北朝鮮を制裁で止めることはできない」と明言している。中国以上に率直な発言だ。中国は世界の大国であると認められたいからであろう、国連決議に水を差すような発言は控えているのでその分だけわかりにくい。

 米国は今回の安保理審議で、決議案を未調整のまま各国に配布した。石油の全面禁輸や船舶の臨検など強い措置を含む米国案であるが、この事前配布は異例の行動であった。その意図については各国との駆け引きを有利に運ぶためであったとも説明、あるいは推測されているが、北朝鮮に対して、「米国は安保理で同意が得られないならば単独でも強い措置を取る」という姿勢を示したかったのだと思う。トランプ大統領がナジブ首相に発言したのと同じ論法であった。
 トランプ大統領は、さる3月に米国の空母や潜水艦を朝鮮半島に派遣した際に恫喝的発言をしたが、その時と基本的には変わっていない。ようするに、「これでも同意しなければ、後はもっとひどいことになる」と言っているのだ。「あらゆる選択肢がテーブル上にある」ということもよく出てくる発言だが、これも「これで言うことを聞かなければ軍事的措置がある」と言っているのではないか。このような姿勢が金正恩委員長に効き目があればまた別であるが、むしろ逆効果になり、足元を見られる結果になっているのではないか。トランプ大統領のこのような姿勢は賢明か、疑問に思われてならない。

 北朝鮮との話し合いについては、6者協議、米朝の事務レベルの協議(次官補レベルのもの)、南北対話など類似のものがあり、それらを区別しなければ話は混乱する。トランプ政権が最近言っている1990年代からの対話は事務レベルのものであり、核廃棄を主要なテーマとする米朝間の政治的交渉は行われたことがない。
 米国は、現在、この米朝対話について、いまだ条件が満たされていないという立場である。これには日本の安倍首相からの働きかけが効いている可能性もある。
 それはともかく、米国がいつまでもこの立場を維持するか疑問である。米国は、今はまだ中国をあきらめていないが、中国はロシアとも連携を強め、ますます説得困難になっている。
 米国が中国をさらに動かそうとすれば、米中間の対立に発展する恐れもある。そうなると、中国か北朝鮮かという選択肢を迫られる状況になりうる。先日ホワイトハウスを去ったバノン最高顧問は、「北朝鮮問題は余興だ」と言い放った。同人には極端な主張が多く評価されていないが、北朝鮮に関するこの発言は正鵠を射ている。米国内で「北朝鮮問題を解決するために中国との関係を犠牲にするのは適切でない」という声はいつか必ず起こってくるだろう。中国に頼るだけではどうしても目的を達成できないと米国が悟らない保証はないのではないか。

 日本は、圧力一本やりだが、北朝鮮をめぐる米中関係の変化の可能性も考慮したうえで、米国に北朝鮮との直接対話を勧めるべきである。
 また、北朝鮮の安全問題について日本としての考えを明確にしたうえで、中国やロシアと主張の違いを狭める努力をすべきである。米国もときおり、「北朝鮮の体制転覆は意図していない」というメッセージを発することがある。日本はいずれとも異なり、北朝鮮の安全問題について発言していないが、北朝鮮の崩壊は日本として受け止められるか、受け止められるとしてもどれほどの被害が生じるか。そのようなことに可能な限りの検討を加えるのは当然である。

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